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ARCANA=LIFE ~愚者と21の可能性~  作者: 義樹
第一章:『愚者と運命の輪』
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1-03:『異世界チュートリアル』


 小鳥のさえずりが聞こえる。爽やかに流れていく風の音が聞こえる。


 真夏なのに、少し肌寒いのは何故だろう。――ああ、そうだった。「熱帯夜になる」と天気予報が言ってたからって、冷房をガンガンにしたせいだ。設定温度二十二度は流石にやり過ぎた。夏風邪は絶対に引きたくないんだけどな。


 ――何かがおかしいぞ?


 部屋の中では聞けないはずの音が耳に届いてくる。冷気を逃がさないために、窓は閉めきっていたはずだ。

 それに、これは家のベッドの柔らかさじゃない。ふわふわじゃなくて、ふさふさしている。


 ――ここはどこなんだ?


 遥翔はゆっくりと瞼を開けて、恐る恐る辺りを見回してみる。

 そこには、果てしない草原が広がっていた。碧い空とのコントラストがとても鮮やかだった。ところどころには低木も見られるが、それも両手で数えられるほどしかなかった。


 ――まだ夢の中なのか?


 明晰夢を見ているんだな。あっ、明晰夢っていうのは、夢であることを自覚しながら見る夢のことね。はい、ここはテストに出るよ。

 しかし、それにしては意識がハッキリしてて、やけに感覚が生々しい。こういう夢もあるんだな――。


 十五分ほど、この辺りを歩いてみて分かったことがある。

 この草原には、人が住むような建物が一つも見当たらない。あるのは、数えきれない量の草木だけ。第一村人発見のミッションは、困難を極めそうな予感しかない。

 遠くの彼方には、山々が連なっているように見える。そして、コンピューターRPGの冒険者が通るような道が、その方角にずっと続いている。「この道を進んでいけ」ということなのだろうか。

 行くあてもないので、山脈の方向へと歩いていくことにした。現状維持の退屈な夢なら、一刻も早く覚めてくれることを期待したい。ここからは奇想天外で面白い展開が待っていることを切に願う。


 ――あの、何も起こらないんですけど!?


 こういうファンタジー系の異世界転移の物語って、いきなりモンスターに襲われたり、超可愛いヒロインに出会ったり、そういう特別なイベントが起こるのが相場じゃないの!? 中高生のときに少しだけかじったラノベのストーリーとは、かなりかけ離れてるよ!?

 はい、少し取り乱してしまいました。ごめんなさい。


 かれこれ三時間ぐらい、この長い道のりを歩き続けたが、そんなイベントが発生する予兆は微塵もない。




 太陽が顔を隠し始め、月が姿を現す。

 どうやら夜になると、この草原の気温は冬並みに下がるようだ。周りに何もないから、余計に熱が逃げやすくなっている。まるで、冷蔵庫の中身にいるような寒さだ。当然だが、入ったことはない。

 夜空を見上げてみると、幾千もの星々の光がそこにはあった。宝石のような煌めきが無数に集まっている。若干、センチメンタルな気分に陥りそうになった。


 空腹と口渇が、身体に警告を出している。今はまだ耐えられるレベルだ。しかし、今後の状況を考えると、無駄なエネルギーを使うことは避けた方がいいだろう。


 ここに来るまでの間、ずっと思考を巡らせていた。最初は楽観的に捉えていたものの、こんな事態になってくると、そうもいかない。

 妙にリアルに見える風景。ありとあらゆる感覚も、覚醒時と同じものだ。あの六畳一間に意識が戻る気配は、未だにない。

 熟考した結果、"ハルト"は一つの結論を導き出す。


 ――ここは夢の中ではなく、紛れもない現実なんじゃないか?


 目に見える世界が現実だと仮定して、その結果に結びつく論理的な可能性をいくつか挙げてみる。


 可能性その一.『睡眠時遊行症の発生』

 パラソムニアと呼ばれる睡眠時随伴症の一種、つまりは『夢遊病』だ。この現象は、就寝から三時間以内のノンレム睡眠時に発生し得るものだ。ただ、その間に徒歩で移動できる場所、アパートから半径十キロの範囲には、こんなに広大な草原など存在しない。あんなに歩き続けたのにも関わらず、ほとんど風景が変化していないことから考えても、自力で移動してきたという考えには無理がある。却下!


 可能性その二.『誘拐後に放置された』

 ここがどこかは分からないが、俺の住む都会から遠く離れた場所なのは間違いない。起きたら草原のど真ん中にいたという状況は、この身体を誰かに運んでもらわない限り、実現不可能だと言えるだろう。しかし、ここまで運んでくる労力に対する目的やメリットがまったく見えてこない。無駄でしかないんだ。仮に俺が資産家の息子だったら、また話は変わってくるが、そういうわけでもあるまい。却下!


 可能性その三.『異世界に転移した』

 信じたくはないが、最も高い可能性はこれだろう。目の前の風景は本物に違いないが、現状は極めて非現実的だ。不思議な力でも働いて、元とは別の世界に行き着いてしまったのだろうか。創作物の中にある幻想に過ぎないと思っていた異世界転移だが、この異常事態の説明は、それぐらい突飛な思考でしか説明ができない。仮採用!


 ――まさかの展開で、流石に状況を飲み込めないな!


 夜の寒さに震えながら、空々漠々とした草原の上に横たわってみる。

 個人的推測における「ここは異世界である」という可能性は、かなり高いものになってきた。数値で表すなら、およそ九十パーセント。

 この光景を受け入れがたいのは事実だ。けれども、その身をもって、日常的な感覚や欲求をリアルに感じてしまっている以上、否定する方が難しい。


 ただ、現時点では、いまいちピンと来ていなかった。異世界なんて、そう簡単に信じられてたまるか。「ここは夢の中である」という可能性だって、完全に捨て去ったわけではない。その可能性をゼロにするのはまだ早いと思った。ここで寝てみたら、元に戻っているかもしれないし――。


 これからのことを考えても、今は睡眠を取っておくべきだと思った。

 瞼を閉じると、歩き続けたことによる疲れもあってか、鮮明だった意識はすぐに薄れていった。




 間もなく、朝日が昇り始める。ハルトは自然と目を覚ましてしまった。辺りはまだ薄暗くて、無数にあるはずの草木も見えにくい。そして、若干ではあるが、靄がかかっていた。

 寒かった。マジで寒かった。十中八九、風邪を引いた気がする。今にもゆっくりと鼻水が垂れてきそうだ。でも、それだけで済むなら万々歳だ。正直、凍え死ぬんじゃないかと思った。


 橙に染まった暖かい光が、この辺りに存在するすべてのものを照らしていく。まるで氷が溶けていくかのように、ハルトの思考回路は正常に活動し始める。

 ああ、やっぱりそうだ。覚醒と睡眠を繰り返してもなお、望んでいたような大きな変化は見られなかったんだから。ここは夢の中じゃないんだ。


 ここが異世界だとするなら、一つ確認しておくべきことがある。元の世界から持ってきたもの、初期装備についてだ。今回の場合、能動的に持ってきたわけではないから、正確には付随してきたものになるのかもしれない。

 結局のところ、大したものは何も持ってなかった。着ていた衣服一式、ズボンのポケットに入れっぱなしだった財布とスマホだけだ。お金を使う場面がない以上、財布は完全に役立たず。そもそも、日本円が使えるとは思えない。かろうじて電池が残っていたスマホも圏外だから、時計の代わりとしてしか使い物にならない。

 Wi-Fi(ワイファイ)なんてあるわけないよな。異世界でもスマホが使えるんじゃないかって、ちょっとは期待してたんだけどな――。


「うぅ……」


 この世界で目覚めてから、未だに何も口にしていない。人間の許容限界には達していなくても、日本という飽食社会に適応していた身からすると、かなりキツいものがある。

 今の気温は若干の肌寒さを感じる程度だ。昨夜の極寒は厳しかったが、よくよく考えてみると、猛暑になるよりはマシだったのかもしれない。サバイバル未経験の俺でも、脱水症状の危険性については分かってるつもりだ。いや、凍え死ぬのも勘弁なんだけどさ。


 慣れない長時間歩行は、脚全体に大きなダメージを蓄積していく。このまま筋肉が固まってくると、途中で動けなくなってしまう。より遠くに進んでいくためにも、小休憩でその痛みを和らげることにした。

 近くにあった岩の上に座って、履いていた靴下とスニーカーを脱ぎ、足首のマッサージを始める。

 すると、歩いてきた方向から、一台の馬車が近づいてくるのが見えた。


「……ッ!?」


 この幸運は、天から垂らされた一本の長い『希望』の糸だ。それに手を伸ばさないという手はない。現在進行形で、藁にも縋りたくなるような窮地に陥っているんだ。このチャンスは絶対に掴まなければ!


 しかし、馬車の持ち主に話しかけるにあたって、大きな不安要素が二つあった。

 一つ、日本語が通じるのか。意志疎通ができなければ、そもそも話しかける意味なんてない。もしも、この世界に法規がなかったら。極論にはなるが、いきなり相手が殺しにかかってくる可能性も、完全には否定できない。

 二つ、異世界人との会話が成立するのか。この世界に関しての知識は皆無に等しい。知らない言葉や概念のオンパレードになれば、こちらには成す術がなくなってしまう。そのときは、白旗を大きくかかげて振り回すことにしよう。


 今まで、パチンコのような運勝負とは無縁の生活を送ってきた。俺にとっては、これが人生最大のギャンブルになりそうだ。頑張れよ、コミュ障!

 自転車と同じぐらいのスピードで、その『希望』がこちらに向かってくる。脱いだばかりの靴下とスニーカーを手に取って、それらを急いで履き直す。そして、ハルトは持てるすべての勇気を振り絞って、SOSの声を上げた。


「す、すみませーん!」


 その声は虚しくも、紺碧の空に響いて消えていく。まだ諦めるな!


「おーい、そこの馬車!」


 自分でも驚いてしまうほどの大きな声が出た。このペースだと、一瞬で声を枯らしてしまうかもしれない。でも、もう形振(なりふ)り構ってなんかいられない!


「止まってくれぇぇぇえええ! ぐっ……ごふっ……」


 激しく聞こえる咳の音が、酷使した喉の警告を表していた。心も身体も、何かがプツンと切れてしまいそうだ。

 一ミリたりとも鼓膜の震えを感じさせてくれない、そんな深い沈黙に包まれた。その静寂は終わりの合図を示してくれない。永遠にも感じられるような、とてもとても長いものだった。


 もうダメかもしれないと思った刹那、一つの変化がもたらされる。

 先ほどまで走り続けていたはずの馬車は、徐々にスピードを落としていき、ちょうど目の前でその動きを止めたのだ。

 何とか、この想いが届いたみたいだ。早々に心を折らなくてよかった。ヤバいな、ちょっと泣きそうだ。

 とはいえ、これで終わったわけではない。ここで気を抜いて、掴んだはずの『希望』が両手からスルッと逃げていかないように。そうだ、大事なのはここからだ。


「――うるせぇんだよ! こんな草っぱらで何の用だ?」


 大きな怒声とともに馬車から降りてきたのは、類稀なる体格をした巨人のような男だった。

 目測で二メートル以上になる身長。こちらを強く睨みつける鋭い眼光。衣服の下には隠しきれないほどの隆起した筋肉。今までに感じたことのない危機感を覚えた。


 ――あっ、俺、殺されるかもしれないです。




 その大男は向こうから名乗ってきた。名前はレガルというらしい。

 最初こそ、その怒声と威圧感に怯んでしまったが、鬼気迫る勢いで緊急事態であることを伝えると、すんなりと話を聞いてくれるようになった。この様子からすると、きっと遭難者だと思われているだろう。事実として、それを否定できない状況にいる。

 日本語も普通に通じるようで、言語的な不安は必要ないみたいだ。ありがたいことに、何とか不戦敗は回避された。今はこのコミュ障(俺)の頑張りを褒め称えておくことにする。


 今は馬車の中に招き入れられて、サンドイッチをいただいている。これで断食生活ともおさらばだ。

 一日半もの間、何も口にしないなんて、普段なら想像もできないことだ。だから、久し振りにありつけた食べ物が余計に美味しく感じる。


 元の世界と比べて、この世界の食事はどんなものかと思っていたが、見た目はさほど変わらなかった。本当に異世界なのか?

 しいて言うなら、中身にある橙色のジャムが甘すぎることぐらいか。柑橘系でアプリコットに近い感じの甘味。食べ過ぎたら、即座に糖尿病まっしぐらかな――。


「そんなに険しい顔して、どうした?」


「おぉっ!?」


 隣に来たレガルが声をかけてきた。何だよ、ビックリさせないでほしい。もしかして、そんなに思い詰めてたように見えたのか?


「いや、このジャム、食べたことなかったので……」


「そうか! それはな、アモラっていう果物で作ったジャムで、頬をとろけさせるような甘さが特徴なんだ。どうだ、旨いだろ?」


「そうですね。確かに甘いけど、そんなにキツい甘さじゃないし」


「――おうおう、分かってるじゃねえか! コノヤロー!」


 どうやら気分を良くしたのか、レガルが俺の頭を掴んで、髪をグシャグシャにしてくる。ちょっ、待って痛い痛い、力が強すぎるって!

 でも、見かけによらず、優しくて親切な人でよかった。一時はどうなるかと思ったけど、外見や口調だけで人を判断してはいけないな。しっかりと胸に刻んでおこう。


 この馬車には馬を操る御者、いわゆる運転手がいなかった。レガルは何もせず、ただ乗っているだけ。馬自身が目的地までの道を覚えていて、行き先を伝えるだけで運んでくれるそうだ。

 この馬たち、かなり優れた知性の持ち主らしい。なるほど、馬車が動き続けているのはそういうわけか。便利だな、最先端の自動運転システムかよ。


「お前さん、名前を聞いてもいいか?」


「ああ、俺はまだ名乗ってなかったですね」


「おいおい、敬語なんて堅苦しいな。フランクに行こうぜ!」


 今度は俺の肩をガンガン揺らしてくる。この大男――レガルは少し力加減を覚えた方がいい。痛すぎる。骨が折れてしまう。今すぐにやめていただきたい。


「――俺の名前はミヤガミ・ハルトだ。適当に呼んでくれ。今回は助けてくれてありがとう」


「いいってことよ。困ったときはお互い様ってやつだ。巡り巡って、俺のところに返ってくるかもしれないからな」


 こんな善人ばかりの世界なら、戦争なんて悲惨なことは起こらないんだろう。レガルが神様のように見えてくる。その三白眼はめっちゃ怖いけど。


「にしても、珍しい名前だな。その服装だって、まったく見たことねえ」


「あ、あははははっ……」


 水分で潤いを取り戻したはずの口からは、乾いた愛想笑いの声しか出てこない。このおかしな状況をどう説明すべきなのか、まったくもって分からない。


「ハルト、お前はどこ出身なんだ?」


「えっと……」


 こうなったら仕方がない。俺が体験したことをありのまま、最初から話すことにしよう。


「俺、大学生なんだけどさ」


「――ダイガクセイ?」


「バイトが終わって、家に帰ったらさ」


「その、バイトっていうのは何だ?」


 ――ダメだ。この世界には存在しない概念のようだ。言語としては通じても、意味が伝わっていない。これでは、まるで会話が成立しない。


「ごめん。今までの話、一旦なしで」


「お、おぉ、分かった分かった」


 使う言葉を厳選して、簡潔に話を進めなければならない。この目で見たことをそのまま伝えるんだ。


「ベッドで寝てたんだけど、目覚めたら草原のど真ん中にいた。以上」


「――うぅん?」


 そうなってしまうのも無理はない。そもそも、当の本人が一番ビックリしてるんだ。見知らぬ草原にて、飲まず食わずでの放浪を経てからの現在。この調子だと、先行きも不安でいっぱいになる。


「住んでた場所は?」


 唸るのをやめたレガルが、改めて出身地について尋ねてくる。


「日本という国の、東京都世田谷区――って言われてもサッパリだよな」


「ああ、全然分からん」


 ――そうですよね、知ってました!


「多分なんだけどさ。ここじゃない、違う世界から来た」


「ハルト、頭がおかしくなったか?」


「いやいや、真面目に!」


 唯一の可能性を否定されて、ハルトの口からは思わぬ大きな声が出た。平静を装っていても、実際にはパニック寸前だった。この話を信じる方が難しいか――。


「真面目にか……そうか……」


 レガルはそう言うと、胸の前で両腕を組んだまま、黙って考え込んでしまった。そして、顔をしかめながら、こちらをじっと見つめてくる。


「これは都市伝説みたいなもんなんだが――『アインゼラという大精霊の魔法で異世界から召喚された迷い人がいる』という言い伝えがあるんだ」


「大精霊……アインゼラ……」


「正直、馬鹿げた話だとしか思ってねえんだが、そこまで真面目に答えられると、そう蔑ないがしろにもできねえんだよ。普通に考えたって、こんなところに一人でいること自体がおかしいんだからな」


 右も左も分からないような現状で、元の世界への手がかりになる情報は重要になる。元の世界に戻れるのなら、一刻も早く戻りたいと思う。授業やバイトのこともあるし、何より寝たきりの世奈が心配だった。はいそこ、シスコンって言わない!


「実際、この世界には魔法を使える人間がいる。医者に似た職業で、治癒魔法を使って患者の治療をするっていう特別な職業が存在するぐらいだ。とは言っても、魔法を使える人間自体がレアケースで、全世界でも千人程度しかいないらしいし、その『医療術士』に至っては両手で数えられるレベルだ」


 やっぱり、異世界には魔法が定番のようだ。ただ、誰でも使えるわけではないというのが少し残念だった。もしかしたら、俺にも魔法が使えるんじゃないか。そう思って、無駄に胸が踊ってしまった。


「――とにかくだ!」


 レガルは両手を打ち合わせて音を立てると、何かを決心したような表情を見せる。


「俺はお前の――ハルトの話を鵜呑みにしようとは思わない。初対面の人間に『異世界から来ました』って言われても、それを『はいそうですか』って信じろっていうのは、ちっと無理がある」


「まあ、そうなるよな……」


 当然だ。仮に俺がレガルの立場でも、同じように考えるはずだ。


「ただ、嘘をついているとも思えない。お前の話はだいぶ狂ってるが、何か悪いことを企てるにしても、もっとマシな言い訳があるはずだ」


「悪かったな、狂ってて!」


 レガルは「悪い悪い」と言いながらも笑っている。当事者には冗談にもならない、笑うにも笑えない話だ。少しぐらい狂ってても「しょうがないな」と許してほしいものだ。


「それに、このまま馬車から降ろすのは、俺の良心が痛むからダメだ。だから、これは一つ、提案なんだが……」


 いったい何を持ち掛けてくるのか。不安になりつつも、その提案に耳を傾けてみる。


「ハルト、お前さえよければ、王都まで一緒についてこないか?」


「――はい、お願いします!!」


 反射的に即答していた。ハルトは急いで立ち上がると、感謝の意を込めて最敬礼をした。


 馬車の持ち主は「おう!」と答えると、その遭難者の手を取った。

 それから、二人は固い握手を交わしたのだった。


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