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バイトやめたい、あと前髪切りたい

そうだバイトやめよう(試作・書きかけ)

作者: 悠梨

 何やら自分たちの世界でも、『転生したら異世界でチートキャラになっていた』というのが流行っている。

 ……らしい。

 ふむふむ、それはそれは。何というかこう……人は現実に対して思い通りにならないという鬱憤を溜めこんでるのだなぁと、彼は思ったのであった。


 ある日、とてもよく晴れた昼下がり。バイト先の食堂でせっせと食器を洗っていたときのことである。

「それで、つい最近この世界にもそれらしき人物が転生してきたみたいで」

「へー」

「確か城下町の冒険者ギルドで、小さな子どものなりしてすっごい魔力持ってて」

「ほー」

「この間のほら、赤竜退治! あのパーティに参加して活躍したらしいよ!」

「ふーん」

 よし、これで一区切り。洗った平皿を水切りに立てかけて手を拭いて、彼は軽く伸びをした。いい加減に伸びすぎた前髪が目に刺さって痒い。視界の端にかかる茶色い髪を適当に左右によけ、ごしごしと目を擦っていると、

「ちょっと、ちゃんと聞きなさいよね! あとそんなに目を擦ったらだめ!」

熱心に話しかけてきていた、この食堂の娘になじられた。床を磨く手は完全に止まっている。

「ああはいはい聞いてました、とりあえずそのモップ貸してください」

 手を動かさないと仕事は終わらないんですよー。そんなこと言いながら、擦る対象を目から床に変える。

 ひたすら床の汚れを落とすべく手を動かしていると、落ちかかる髪の毛の先、うっすら視界に入っていた食堂の娘が頬を膨らませた。こちらに突き刺さる、尖った視線が痛い。そこそこふさふさした睫毛に縁取られた青い目が、ふてくされた猫みたいに吊っている。やれやれ、仕方ないなぁと内心で肩を竦める。

「……そもそも、なんでまたその子が転生してきた子だと言われてるんです?」

 めんどくさいこと限りないけど、仕方なく彼は話を振った。床を磨く手も少しペースを落とす。相手は雇用主の娘、あまり印象が悪くなっては困る。

「だって、子どもなのよ? 子どもが、すごい魔法を使うの!」

「そりゃ、そういう子もいるんじゃないんです?」

「分かってないわねーあなた。魔法ってのはね、そんな簡単なもんじゃないのよ」

 一応客足は落ち着いているものの、手が空いてるなら夕方の仕込みでもしてくんないかなーこの人、とは口には出さない。

 彼女はふふん、と軽く(小さな)胸を逸らして人差し指を振った。これはまた、とてもめんどうな話が始まりそうな気配である。誰か助けてくれ、と視線をそっと配るが、他のバイトくんたちは見て見ぬふりだ。

「まず魔法というのは学問なのよ。資質や魔力は誰にだってあるの。それを理論的に使いこなすために、大変な訓練と学習が必要なの」

「ソウデスカ」

「ええそうなのよ! 莫大な知識を礎に、命を削るような魔力制御の訓練を重ね、それを強い意思を束ねて具現化するの。生まれてほんの数年の子どもが、そんなことできるはずがないのよ!」

「ナルホド」

「ええ、幼少期に天才と持て囃され、学院にまで通った私が言うんだから間違いないわ! 学費さえあれば上級学院にだって通えた、この私が! 言うんだから!

 あの子は間違いなく、神のような超越的存在からギフトを与えられ、異世界から来たのよ!」

 金髪ストレートを振り乱して言う熱弁する彼女とは対照的に、周囲の温度はガンガン下がる一方だ。これさえなければ可愛い子なのになーと、1m後ろで鍋を振るうギルバート君が言ってた。彼もそう思う。何せこの子は色々めんどくさい。

「ああ、この先とても大変ね。きっと西の勇者と組まされて、竜王退治にけしかけられるわ」

「そうなんです?」

「ええそうよ! あの竜王さえ倒せば、もっと西の領土を開拓できるんですもの」

「ううーん」

 もう床掃除、終わるんですけど。昼休憩に入りたいなぁ。

「きっとそれをやりとげたら、今度は北の魔女退治ね」

「あー」

 隣町の食堂に転職するかなぁ。

「あの魔女さえいなくなれば、北の地にも春が来るんだから。ああ、そうやってきっと古今東西の難問を押し付けられるのかと思うと、ちょっと気の毒だわ」

「いやー」

 うんそうしよう。あとでオーナーに相談しよう。……もう23回目だけど。

「あなたもそう思うでしょ!」

「ええーそうですかねー」

 僕にしてみれば、西の竜王はむしろ西の地から溢れる瘴気を吸って守ってくれてる存在だし、北の魔女はただ研究熱心なだけの変人魔法使いなので害も無い。

 多分彼女の中で転生者とやらに討伐候補にされてる東の魔剣も、抜かれて困るのは僕ら人間だと思うなぁ。

 ……などとは、彼は決して口にしない。もう何度も口を滑らせそうになったけど、決して口にはしないのである。

 ともあれ、色々口から発散した彼女はすっきりとした顔をしている。これならもう、相手にしなくてもいいだろう。

 モップを所定の位置におさめ、彼はにっこりと笑って声を上げた。

「床掃除おわりましたー。休憩入りますねー」

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