(94)美味(おい)しくいただく
どうせ食べるなら、美味しくいただく・・というのが本筋だ。それでも、腹が減っているときは、そんなことは言ってられないから、ガッつくように貪り食べてしまうことになる。^^ 人に限ったことではないが、食べないと死んでしまう・・という弱点を動物は持つ。人に生まれた特典の一つに味覚があるが、美味しくいただくためには、それなりの[ゆとり]が必要となる。料理番組ではレシピとか盛り付けで、その食材の最高ランクの美味しいいただき方を解説するが、そんな味わい方が出来るのは、ゆとりのある人、ということになる。それでも、食べ物は美味しくいただけるに越したことはないから、最終的には、どれだけ美味しく作れるか? という調理の腕になるだろう。^^
ここは、とあるテレビ局である。朝から、とある料理番組の収録[録画撮り]が、とあるスタジオで行われている。司会の女性アナウンサーとゲストの女性料理家が、どうのこうの[どうたらこうたら]とペチャくりながら、美味しくいただけるように、とある料理を作っている・・という寸法だ。
「先生、これで美味しくなるんですか?」
「ええええ、そらもう! 美味しくいただけますわよ、ほほほ…」
「…」
言われた女性アナウンサーは、『ほんとかしら?』とは思ったが、それでもその懐疑心は億尾にも出さず、無言で愛想笑いした。
しばらくして、とある料理は完成した。いかにも見た目は食欲をそそる美味しそうな出来栄えだったが、その内容は、「…お、美味しい」とひと口、味見した女性アナウンサーが泣き目で漏らした言葉で皆さんには十分、分かっていただけることと思う。ハッキリ言うなら、不味かったのである。
美味しくいただく条件は、見た目はともかく、美味しくいただけないといけない・・という結論になる。^^
完