(87)慎重(しんちょう)
失敗しないためには、物事を行う上で慎重になることが求められる。まあそれでも、慎重になり過ぎて全然、物事が捗らない・・というのも考えものだが…。^^
町のとある大衆食堂である。二人の男が店に入ってきて、空いた席のテーブル椅子へ対峙して座った。
「何にされます?」
女店員は馴れた仕草でソソクサと水コップを運び、テーブル上へ置きながら訊ねた。
「そうだな…。俺は佃煮定食! お前は?」
「俺は味噌汁定食」
「はいっ! 佃煮定食と味噌汁定食ですね?」
この店で一番、安いのが佃煮定食[佃煮+ご飯と味噌汁]と味噌汁定食[ご飯と赤だし味噌汁]で、どちらも沢庵、二切れが唯一添えられる一品というのだから、貧相この上なかった。フツゥ~の客なら、おっ恥ずかしくって頼めない安い最低ランクの品書きだったが、それでも二人は物怖じせず、堂々と注文した。女店員は確認すると、戻ろうとした。そのときだった。
「いや、今日は特別支給があったから、鰹節定食にしよう!」
「だな…。俺は、白子定食っ!」
「鰹節定食と白子定食ですねっ?」
女店員は振り向いて戻り、少し語気強めて言った。ほんとにもうっ! 忙しいんだからっ! という気分である。鰹節定食[鰹節+醤油、ご飯、味噌汁]と白子定食[白子+醤油、ご飯]は佃煮定食と味噌汁定食に次ぐランク2[ツゥー]の安さだった。
「いや! 待て待て…。ここは使わず、慎重にいこう。母ちゃんにドヤされる」
「ああ、俺もやめとこう…」
「何にされるんですっ!」
女店員は、また取り消され、切れ気味になり、いっそう語気を強めた。
「最初のっ!」
「俺も…」
「佃煮と味噌汁ですねっ!」
「いや、佃煮定食…」
「俺は味噌汁定食…」
「はいっ!!」
女店員は偉いお客に出遭ったわ…という呆れ顔で店奥へと消えた。
「慎重にいかんとなっ!」
「そうそう、まだまだ何が起こるか分からんっ!」
二人の客は顔を見合わせて頷いた。
いいことがあったとしても、その先、どうなるか分からないから慎重になることが求められるが、それも程度ものである。^^
完