表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/100

(8)寒(かん)の戻(もど)り

 外気がいよいよ春の鼓動こどうを高め、あたたかさを増しているというのに、東風こちがそれでも…と観葉植物のはちを外へ出さないのには理由があった。いつの年だったか…と、すでに記憶はうすれてはいたが、今の頃、家の中へ取り入れておいた観葉植物の鉢をかんもどりでダメにしたにがい経験があったからだ。さいわい、全滅は免れたが、奇襲された真珠湾のような惨憺さんたんたる状況となり、多くの鉢を失ったのである。

「これはこれは東風さんっ! 今年は暖かですなぁ~!」

「いやいや、油断はなりませんぞっ! 梅花うめはなさんっ!」

 散歩の途中、知リ合いの老人に話しかけられた東風は、思わずそう返していた。

「…油断ですか?」

「ええ、油断ですっ! 油断はいけません、いけませんっ!」

「はあ。そらまあ、春風邪はるかぜということもありますからなぁ~」

「いや、そんな程度では済みませんぞっ! 死にますっ!」

「そんな大層たいそうなっ!」

「いやいや、これくらいの気分でないとっ!」

「死にますか?」

「ええ、死にます」

「…まあ、年寄りは抵抗力がなくなってますからなぁ~!」

「いやいやいや! そういう問題ではなくっ!」

「さよですか? こんなに暖かですが?」

「それでも、ですっ! それでもっ!」

 東風は、それでも! を強調した。

 その三日後、寒の戻りで遅霜おそじもが降りた。東風は、そら見たことか…としたりがおになった。

 この場合のそれでもは、正解だったことを意味する。ただ、したり顔をするほどのことではない。^^


                  完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ