(78)落ちこぼれ
世間には大勢の人がいるから、自ずと脱落する人が出る。こういう人は一般に落ちこぼれ・・と言われる。本人は別に好き好んで落ちこぼれたくはないのだろうが、それでも落ちこぼれるのだ。早い話、世間はそれだけ甘くなく、世知辛い・・ということだろう。^^
ここは、とあるサッカー場である。早朝から大会に向けた模擬試合が中心選手を二手に分けて行われている。その練習を見守るのは、自分自身は決して落ちこぼれじゃないっ! と固く信じる落ちこぼれなのか落ちこぼれでないのか・・が分からないややこしい控えの選手達だ。自分自身を落ちこぼれじゃないっ! と信じさせるのは、落ちこぼれなら召集される訳がないだろっ! …と自負させる心である。
「全然、お呼びがかからんな、俺達…」
「まあ、そう言うなっ! どんな有名選手だって、そんな時代があるさっ!」
そのとき、コーチの呼ぶ声がした。
「おいっ! 逆勝、出番だっ!」
「えっ!? 俺ですかっ!?」
逆勝は自分が呼ばれたことを信じられず、訊き返した。
「ああ、お前だっ! 具合でも悪いのかっ!?」
「いえ、決して…」
逆勝は、なぜ俺なんだ…と思いながら準備を始めた。
「なっ! お呼びが、かかったろ!?」
「ああ、まあな…」
逆勝は訳が分からず、飛び出して監督に訊ねた。
「監督! なぜ、俺なんですっ!?」
「んっ? いや、別に他意はない。あちらが一点、負けてるからな。お前が入れば変わるかも知れん…と思っただけだっ!」
「それだけですか?」
「ああ。落ちこぼれじゃないところを見せてやれっ!」
「はい、分かりましたっ!」
監督に軽く肩をポン! と叩かれた逆勝は、グラウンドへ勢いよく駆け出した。
監督は、もしかすると落ちこぼれのあいつでも逆転勝ちするかも知れん…と、単純に思っただけなのである。理由はお分かりだろう。それでも逆勝だけに・・と、話はこういう落ちこぼれではなく、落ちになる。^^
完