表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/100

(64)もう、いいっ!

 もう、いいっ! と言うときほど、少しもよくないのは皮肉な話だ。^^ 上面うわずらではそう言って体裁ていさいを取りつくろったり見得みえを切る訳だが、内心は、なんとかしないとっ! …と、ものすごく気になっているのである。これが、世間でそれでも生き続けなければならない私達のつらいところだ。^^

 昼休みになった会社の課内である。昼の弁当を弁当屋に買いに行かせた先輩社員が後輩の帰りを今か今かと待っている。いつもより20分ばかりおくれ、ようやく後輩社員がもどってきた。

「お待たせっ!」

「おう! 遅かったなっ!」

「そうなんですよっ! いつもより込んでましてねっ!」

「そうか…。まあ、そんな日もあるわな。それでも、買ってきたんだから、よし! としよう」

「それが…ちっとも、よかないんですよっ!」

「買ってきたんだろ? それでいいじゃないかっ!」

 後輩社員が手に持つ袋を指差しながら言った。

「はあ、買ってきたことは買ってきたんですがね。言ってらした竹輪ちくわ弁当が売り切れてましてねっ!

「竹輪だぞっ! あんなもの、フツゥ~売り切れるかっ!?」

「ええ、私もそう言ったんですがね。それが生憎あいにくどういう訳か、品切れだったようで…」

「てやんでぇ! 竹輪なんぞ、どこの店でも買えるじゃねぇ~かっ!」

 先輩社員は急に気風きっぷのいい江戸っ子になった。

「はあ、それはそうなんですがね。ないものは仕方ないじゃないですか。今日は蒲鉾かまぼこ弁当で我慢して下さいよっ!」

 両手を合わせて許しを請う後輩社員に、先輩として、それ以上は言えない。

「まあ、蒲鉾でもいいや…」

「どうも、すいません」

 後輩社員は深々(ふかぶか)と頭を下げる。

「もう、いいっ! 君が悪い訳じゃないんだからっ!」

 先輩社員は仕方なく溜飲りゅういんを下げた。

 退社後、それでも竹輪が食べたかった先輩社員はスーパーで竹輪を10袋ほど買うと、ようやく気分を落ち着かせた。

 このように、もう、いいっ! は、いいっ! という気分を求めさせるのである。^^


                  完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ