(6)迷宮入り
皆さんも時折りお聞ききになったことと思うが、迷宮入りという言葉がある。この言葉が使用されるのは、もっぱら司法関係の事件の場合が多いのだが、そこに至るまでには、司法職員の迷宮入りにさせまいっ! とする必死な捜査努力が隠されているのである。迷宮入りを阻もうと、勤務日でもないのに、それでも! と捜査する関係諸氏には、ただただ頭が下がる思いがする。
「どうです!? 鹿さんっ?」
後輩刑事の馬場は定年間近い鹿山の顔を窺うように見た。
「ダメだな…。もう10分で時効だっ!」
鹿山は腕を見ながら残念そうに小声で言った。
「やはりダメですか? 残念ですね…。この一件は時効にはしたくなかったんですがねっ!」
「ははは…刑事歴1年のお前が言うなっ!」
「どうも、すいません」
そして10分が恨めしいほど早く過ぎ去り、ゴリラ窃盗事件は時効を迎えた。
「しかし、ゴリラみたいなもの盗んで、どうしようってんですかね?」
「馬鹿野郎! それは俺が訊きたいわっ!」
「飼うところや餌もいるでしょうしねっ!
「だなっ!」
捜査は終結したが、それでも鹿山は時折りプライべートの時間を使って捜査を続けた。というのも、鹿山はゴリラ好きだったからである。
それでも! と続ける原動力の奥には、好みという要素が隠れているのである。^^
完