(52)あの頃
悪いことが続いたとき、ふと、心に浮かぶのが、あの頃だ。ああ、あの頃はいいあの頃だったなぁ~…などと、あの頃をコロコロと思い出す訳だ。^^ どういう訳か悪かったあの頃を思い出そうとしないのは、深層心理の防御機能が働いていると見られなくもない。詳しいことは心理学者か専門医の先生方に訊ねてもらいたい。^^
長閑だった森の風景が消え、入れ替わるかのように伐採された樹々の跡地に建物が建つようになったとある町の細道である。一人の老人がボケェ~っと気抜けしたような顔で変わった景色を見ながらあの頃を思い出している。
「あの頃は、よかった…」
溜息混じりに、老人は小さくそう呟いた。まだ車が飛び交うほどには発展していない町だけに、ボケェ~っと道に立っていても事故に遭わないだけが勿怪の幸いだった。
「どうかされましたか?」
そこへ通りがかったリールに猫を繋いで散歩している老人が訊ねた。
「いや、べつに…。ほう! 猫の散歩ですかな?」
「はあ? まあ…」
確かに、散歩に犬を連れなければならない・・という決めはない。^^
「この辺りも変わりましたなぁ~」
「なんか殺伐として、風情が消えました…」
「木が伐採されて殺伐ですか? ははは…」
「上手いっ!! 私らも孰れは切られますかな? ははは…」
「まあ、そのようで。ははは…」
「不便ではありましたが、それでもあの頃は、そういう心配はなかったですなぁ~」
「はいっ!」
あの頃は生伐だった・・ということになる。^^
完