(48)ごく僅(わず)か
ほんの取るに足らない量や大きさだと、ごく僅かずつ増え[大きくなっ]たり減[小さくな]ったりしたとしても、大して変わったという実感には乏しいものだ。これは例えば、10分の1=10%という実感と10000分の1=0.01%という実感の差に似通っている。それでも、元の状態よりは変化している訳だ。このごく僅か・・という存在が、どうしてどうして、なかなか侮れないのである。1000兆規模にまで膨れ上がった国の公債発行残高ひとつを取って見ても、お分かりだろう。^^ まあ、そんな小難しい話は政治家諸氏にお任せするとしよう。^^
ここは、とあるよき時代の田舎の家庭である。皐月の鯉の吹き流しが清風に誘われ、小気味よくはためいている。柱の前へ立たせ、弟の身長を測る兄。粽を頬張りながら弟が言う。
「兄ちゃん、伸びたかっ?」
「こらっ! 動くなっ!」
「うん!」
「…去年よりはごく僅か、伸びたか…」
「ごく僅か・・ってことはないだろ」
この瞬間、弟は爪先を少し上げ、ズルをした。
「? 測り間違えたか?」
「だろっ?」
「ああ、ごく僅かってことはないか。ははは…伸びた伸びたっ!」
二人は笑い合った。笑った瞬間、弟は爪先を思わず下げてしまった。
「? あれっ、また低くなったぞっ?」
「もういいよ、兄ちゃん」
「だなっ!」
こういう場合は、それでも! と正確さを求めて測らず、暈かすのがいい。^^
完