(41)花見(はなみ)
春の陽気に誘われ、植物は一斉に様々な花を咲かせる。中でも桜は花のトップに君臨し、どういう訳か人々は桜で花見をする。別に桃だろうが水仙だろうが他の花でいい訳だが、それでも人々は桜の樹々の下に陣取り、飲めや歌えやの花見で盛り上がる。梅見もあるが、どうも梅では今一つ飲めや歌えやにはなりにくい。^^ 桜がそれだけ人々に愛されるのには、どうも日本人の脳内に植えつけられた潜在意識がそうさせている向きがある。それを物語るのが桜前線とか何分咲きなどという言葉だ。日本人は桜を花見することで春の到来を実感している節がなくもない。
満開の桜の樹の下で二人のご隠居が恒例の花見で盛り上がっている。毎年、満開の頃になるとスゥ~っと現れ、同じ樹の下で盛り上がっては、またスゥ~っと消え去る連中だ。
「今年も咲きましたな…」
「はいっ! 忘れずに咲くんですから大したものです。私なんか、ははは…昨日のことも忘れとります」
「ははは…いや、それは私もですなっ!」
二人は自虐ネタで大いに盛り上がった。
月日は巡り、二人の姿が一人になった。多くは語るまい。まあ、…そういうことである。それでも一人は花見にスゥ~っと現れ、ブツブツといない相手と話して盛り上がり、スゥ~っと消え去った。
そして、また月日は巡り、二人の姿は消え去った。それでも、二人はまたスゥ~っと現れた。
『今年も咲きましたな…』
『はいっ! 忘れずに咲くんですから大したものです。私なんか、ははは…昨日のことも忘れとります』
『ははは…いや、それは私もですなっ!』
あの世から花見に現れた二人は、恒例の自虐ネタで大いに盛り上がった。
花見は、それでも! と人を引きつける魅力があるようだ。^^
完