表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/100

(32)見えないモノ

 オカルト、怪談のたぐいではないが、見えないモノはこわい。もちろん、ビリビリッ! とくる電気や身体の健康をおびやかす放射能なども含まれる。だが、それでも人々はそうしたモノに近づこうとする。ひょっとすると、人はサド的ではなくマゾ的な動物なのかも知れない。^^

 とある地方の池である。朝からきもせず、一人の釣りびとが糸をれている。水面みなもからは当然、釣ろうとする獲物の魚は見えない。その見えないモノを釣ろうと、釣り人はすでに二時間ばかりつというのに微動びどうだにしない。その釣り人に近くの道を通りがかった男が気づいて声をかけた。お地蔵さまのように動かない釣り人を不審ふしんに思ったのだ。

「あの…どうかされましたか?」

 だが、釣り人からはなんの返す言葉もない。

「…もしっ!」

 男は念を押すようにもう一度、声をかけた。聞こえなかったか…と思ったのである。だがそれでも、釣り人からはなんの返答もない。男は瞬間、こりゃ!なにかあるぞっ!! と思えたものだから、釣り人に近づいた。すると、釣り人は目を閉ざしたまま、釣り竿ざおを構えたまま眠っていた。いや、男にはそう見えたのである。ウトウト眠ってしまったとすれば、池の中へドッボン!! という万が一も有り得る。

「あの、もしっ!!」

「…」

 だが、やはり釣り人からはなんの言葉も出なかった。男は、こりゃ、大変だっ!! ポックリと死んだんじゃ!? と、益々(ますます)、気になり、ついに釣り人の肩を揺さぶった。

「ったくっ!! 小煩こうるさい人じゃなっ! 騒がれては見えないモノが見えないではござらぬかっ!」

 釣り人は静かに両のまぶたを開けると、おごそかな声でそう告げた。

「し、失礼しましたっ! 動かれなないもので、つい…」

「それがしは、この近くでいおりを結びおる全安ぜんあんと申す僧でござる」

「あっ! これはこれは気づかぬことで…失礼をいたしました」

 そのときである。釣り人の糸がサッ!! と動いたかと思うと、水面から一匹の魚が勢いよく浮かび出た。

「ははは…見えないモノが見えましたぞっ!!」

 釣り人は、釣り糸の先の魚を確認すると、「南無阿弥陀仏!」と小声でつぶやき、魚を池へとリリース[解放]した。

 男はその釣り人に後光を見たように、思わず合掌がっしょうした。

 見えないモノは怖いが、有り難い見えないモノもある訳だ。^^


                  完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ