(21)出世
どうしてもっ! と意気込んでも出世できるものではない。こればっかりは、それでも…と個人が思ってもダメなのである。^^ 要は、社会がその個人を受け入れてくれるか否か? にかかっているのだ。では、出世した者が人間としてランクが上なのか? と問えば、これも否定されることになる。人としての出来、不出来は地位、名誉、裕福などといったものとは、また別の問題と言えるだろう。議員に当選したからといって、すべての議員が政治を良くする能力があるか? は別ということだ。^^ 頭脳明晰な一流大学出身者は、すべて仕事が出来るか? という疑問も同じ内容の話となる。^^
とある地方のとある町に住むとある男が、議員になって出世してやろう! と意気込んでいた。幸い、親から引き継いだ資金や有力な地盤はあったから、当然、当選だろう…と、マスコミは予想していた。ところがこの男、人当たりがいけなかった。そうなると、世間の評判も余りよくならない。三段論法で選挙の票も入らず当選できない・・ことになる。結局、何度、立候補しても落選が続いていった。だが、それでも…と男は諦めなかった。
そしていつしか、男は80の坂を越えていた。
「もう、おやめになったらいかがですか? お耳も遠くなられましたし…」
秘書が小声で遠慮ぎみに言った。
「ああ、目もな…」
男は分かったような口ぶりで、呟くように返した。ところが、男はそれでも諦めていなかった。ぅぅぅ…まだまだっ!! と意気込んでいたのである。
時が流れ、男は90近くになっていた。そして選挙の日が巡った。その結果、どういう訳か男は当選した。世間の同情票による当選だった。
『ついに、出世したぞっ!』
男は満足げな満面の笑みで翌日、息を引き取った。
まあ出世は、それでも! と意気込むほどのことではない・・ということだろう。^^
完