(2)出世
本格的な春間近な二月下旬、とある役所では、人事異動の内示を前に職員達が息巻いていた。それは何も鼻から息を忙しく吐く・・といった性質のものではなく、内心の疑心暗鬼とも言える息巻きである。分かりやすく言えば、いつもとは違う意識的なご機嫌取りや自分をよく見せるとかの目立った動きである。
「…ええっ! 君が、それを?」
「ははは…なにも驚かれることはないでしょう、課長! こう見えて私も係長なんですからっ!」
管理職である課長補佐の声がチラホラと庁内で囁かれる生活環境課の柴漬は、出世を意識した仕事をポリポリといい味にやってのけたのである。
「そりゃまあ、そうだが…」
課長の福神は福々(ふくぶく)しい顔で呟いた。臆病な柴漬がやってのけたのは、住民から依頼されたスズメ蜂の巣取りだった。福神とすれば、まさかっ! という気分である。
「君が陣頭指揮したのかい?」
「ええ! もちろんですよっ!」
「スズメ蜂の巣をっ?」
「ええ、スズメ蜂の巣を…」
「君がっ?」
「ええ、私が…」
信用されない柴漬とすれば、食べられて美味しくないっ! とでも言われた気分である。
「そうか…。まあ、怪我しなくてよかったじゃないか」
「はい…」
福神に慰められ、柴漬は褒めてもらえないのか…と内心でテンションを下げた。
「まあ一応、部長には言っておくよ。ごくろうさん!」
「はいっ!」
福神のそのひと言を聞き、柴漬は恐怖に負けず、それでもやり遂げた自分を褒めたい気分でテンションをふたたび高めた。
その後しばらくして春の人事異動が行われ、目出度く柴漬は課長補佐へと昇格した。出世したのである。ただ理由は、蜂の巣取りではなく、日々の勤務姿勢だった。
出世は、それでも! といった意気込みとは関係なく出来るということだろうか。^^
完