(16)言った内容と書いた内容
音声を通じての情報・・これが、言った内容だ。それに対し、紙の上に記したり印字した内容・・これが、書いた内容である。双方とも情報を伝達する内容は変わらないものの、相手に伝わったあとの効果や記憶、判断力に大きな差異を生じる。言った内容だと、「ははは…そんなこと、言ったか?」などと惚けられ、それでも諄く追求した挙句、言ったっ! 言わないっ! となり、変化しやすい。その点、書いた内容はその内容が紙上で固定しているから、変化しにくい。それでも・・と念を押したり伝えたい重要な内容が書面となる理由だ。
とあるパン屋の店前である。パンを買う! 買わない! の言い合いが子供と母親の間で発生していた。母親としては人目もあり、一刻も早く立ち去りたいのだが、子供は駄々(だだ)を捏ね、そうさせまいとしている。
「ねっ! もういいじゃないっ! お菓子があるんだからっ! ねっ!!」
「やだ、やだっ!」
それでも、子供は頑強に抵抗する。
「もうっ!! 次、買ったげるからっ! それでいいでしょ!? ねっ!!」
「…それじゃ~、これに一筆、書いてよっ!」
子供は服のポケットから鉛筆と手帳を取り出した。
「ったくっ! こういうことは、しっかりしてんだからっ!!」
母親は渋々(しぶしぶ)、次は買う・・という内容を書き記した。それでも、子供はさらに念を押す。
「サイン、サインっ!」
「もうっ!!」
母親は半ば怒りながら、サインした。
「まあ、いいでしょ!!」
やっと子供は得心し、矛を収めた。
「なにが、『まあ、いいでしょ!』よっ!」
と不満を呟きながらも、母親は歩き出した子供に一応、安心した。
後日、パンが買ってもらえたのかどうか? を私は知らないが、書いた内容だから、たぶん買ってもらえたのだろう…と思う。^^
完