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序文
VK教団の教徒たちにとって、その部屋は神聖な空間に他ならなかった。彼らの崇める超自然的な存在と交信を行う為に不可欠な装置だったからだ。
そんな場所で、二度に亘り教主が殺害されたのは、紛れもなく教団始まって以来の異常事態と言えよう。
一度目も二度目も、凶器は同じ物──交信の儀に用いられる、水晶玉だった。
それは、元々はこの部屋の中央に置かれた小さなテーブルの上に鎮座していた物で、他に室内にあるのは、教主の座る椅子のみ。
──そして今は、それらの他に、一人の男の死体があった。
引き伸ばしたくの字ようになったその頭の近くに、赤い血でベッタリと汚れた水晶玉が転がっている。黒い天井に吊るされた照明の光を反射し、それは巨大な魚の瞳のように妖しく輝いた……。