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6 私の友達エサルリーゼさん






 私はクレア・ボリアンカ。

 この魔法学園に通っている高等部二年の子爵の令嬢。

 私は、エサルリーゼ様の友達として、取り巻きとしてエサルリーゼ様と学園では大体一緒に居るようになった。

 と言っても、そのようになったのは数ヵ月前からで、彼女のことはあまり知っている訳ではない。

 

 エサルリーゼ様、グラニム侯爵家のご令嬢で、学内で知らない人はほとんどいないという程有名な人ではある。

 しかし、友達として一緒にいるが、あまり話したりしてこないし、私からも話しかけていない。

 彼女は我儘でプライドが高い。そう噂で聞いていたし、実際そうだと思った。

 でも、少しでも媚びを売り、子爵家の私は彼女に取り入ろうとしていた。

 彼女は我儘でいい人では無いのだから、今まで出会ってきた令嬢達と相違が無く、自分の立場の高さを分かっていてそれなりの振る舞いをするのだから。

 彼女に取り入っても、私はなんら悪いことはしていない。

 

 そう感じていたが、私のそんな安易な考えはすぐに変わることとなった。

 

 その切っ掛けとなったのは、エサルリーゼ様が魔法の授業中に火属性の魔法を暴発させて、頭を強く打ったという報告からだった。

 エサルリーゼ様は魔法に関して天才的で、属性の適正がなんと光属性意外全てを持っているという、正に規格外の存在。

 特に闇属性の魔法は熟練した魔術師と同等かそれ以上の価値があった。

 そんな彼女が火の魔法を暴発させて医務室で寝込んでると聞いたときには、ああ、彼女も完璧では無いのだと。無意識の内に少しだけ彼女を身近に感じていた。

 だから次の日は思いきって話してみようと、そう思った。






***



 そして、次の日。

 いつもよりも早めに学園に赴いて、門の前でそわそわしながらエサルリーゼ様を待っていた。

 暫くして、他の貴族よりも装飾が綺麗な大きな馬車が学園の前に停車した。

 エサルリーゼ様の乗っている馬車だった。

 いつものように馬車から優雅に降りてくるエサルリーゼ様。

 その立ち振舞いからは、昨日の魔法暴発での被害を感じさせないような動じない真っ直ぐな目をしていた。

 ほんのちょっぴり尻込みしてしまったが、気持ちを切り替えて声をかける。

 

「おはようございます、エサルリーゼ様。本日も実にお美しいです。昨日は大変だったようで……調子はいかがですか?」


 既に門を潜っていたエサルリーゼ様は、後ろから声をかけられて、実に驚いた様子だった。

 こんなに驚いた顔は今まで見たことが無かったが、不思議と嫌な感じは無かった。


「おはよう、クレア。心配してくれてありがと、でも大丈夫よ。それにしても今日は来るのが早いわね」


 いつものキツイ目ではなく、優しい目付きでそう言ったエサルリーゼ様を私は可愛いと思ってしまった。


「いえ、それほど早くも御座いませんよ」


 つい見とれてしまい、早口になってしまった。

 すると、少しだけ呆けた様子を見せたエサルリーゼ様は、ふっと口元を緩ませて静かな微笑を見せた。






「……ねぇ、クレア。私達は友達なのかしら?」


 しかし、この言葉を聞いた瞬間に私の時は数秒間硬直状態に陥った。

 えっ?エサルリーゼさんは、今なんて?友達なのかって……。一体どういうこと。

 固まった自分の体を解いて、エサルリーゼ様に目を向ける。

 そうすると、複雑そうな落ち着かない雰囲気を漂わせていた。

 私の思惑に気付いていたのか?そんなことが不安になってしまい、私は聞いてしまう。


「えっと、エサルリーゼ様はそうは思っていないのですか?」


 聞いたら後悔してしまうかもしれないのに、それでも聞いてしまった。エサルリーゼ様が、私に対して何を思っているのか?今のエサルリーゼ様は以前のエサルリーゼ様とは違っていた。

 だからこそ、彼女の私への評価が気になってしまった。


 そして、エサルリーゼ様が口を開いた。

 その答えは、私が恐れていたものでも、予想していたものでもなく、意外な答えだった。


「そんなことは無いけれど……その言葉遣いとか、何だか友達とは言えないと言うか……もっと、こう砕けた感じに会話をするのが友達じゃないかしら?」


 再び時が停止する。

 えっ?その回答は全く考えてなかったわ。つまり、エサルリーゼ様は私と仲良くなりたいってことなの?

 でも、理解できない。

 今までまともに会話が続いたことが無く、久しぶりに少し話せたと思ったらこんな驚きのことを言われたのだ。


 でも、やっぱり駄目だ。

 いくら彼女がそれを望んでいたとしても、私と彼女の間には貴族としての体裁が存在しなければおかしい。

 これを破ることは、周りの貴族から目の敵にされても文句を言えないことなのだ。


「いけません。私はエサルリーゼ様と仲良くなりたいとそう思っていますが、私達は住む世界が違っているのです」


 これは私の今の本音だ。

 以前の私ならば彼女ともっと仲良くなりたいなんて思わなかっただろうが、今は理由が分からないが彼女のことが少しだけ気になっていて、本当の友達になりたいと思ってしまった。

 でも、体裁は大切。

 破ることは出来ない……。


 素直に彼女にそう伝えた。

 きっと、納得するだろう。

 彼女は由緒正しき侯爵家のご令嬢なのだから、この常識を理解している。私が下だということも……。


 しかし、ここで再び私は想像しえ無かったことを彼女の口から聞くことになった。


「クレア、今日から私達は対等な友達。上も下も無い。普通に呼び捨てで構わないし、もっと砕けた感じで接して頂戴」


 まさかそんな言葉が返ってくるとは思わなかった。

 彼女は、今、私に対して対等に接しろと、そう伝えたのだ。

 途端に顔が赤くなってしまう。エサルリーゼ様に認められたみたいで嬉しかったのだ。

 しかし、それよりも侯爵家のエサルリーゼ様に優しくされたのが、酷く嬉しかった。こんなにも、優しく接して貰ったことなど、他の令嬢からも無かった。

 動きはかなりぎこちないものになっているだろう。


「でも、エサルリーゼ様に無礼だと……その、周りが……」


 そうは言ってみたものの、気にしないといった感じに両手で手を握られた。


「気にしないで、そんなことを言うような人が居たならば私が貴女を守るから」


 これが私にとってのとどめとなって、私はエサルリーゼ様に好意を抱いてしまった。


「エサル、リーゼ様……急に優しくされてしまうと……驚いてしまいます……」


 すると、エサルリーゼ様は優しい目で、綻んだ口元をさらに綻ばせて、じっと私のことを見つめていた。

 正直とっても恥ずかしいし、目を合わせるのも憚られるものの、悪い気持ちではない。


 こうして私はエサルリーゼ様の本当の友達になった。

 呼び方はエサルリーゼさんになったけど、いつか私はエサルリーゼ様のことを再びエサルリーゼ様と呼んで、本当にお慕いしていると伝えたい。

 私の本当の友達は貴女様だけだと、いつか面と向かってそう伝えようと自身の心に誓った。


 

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[一言] 続きが読みたかったです。。。
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