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5 ラスボスとの遭遇

「おはようございます!エサルリーゼ様!」


 にこやかに私の意識を覚醒させたのは、メイド服のスカートをヒラヒラさせている侍女のエア。


 現在朝の六時、太陽がちょうど顔を見せたような早朝。

 こんな早い時間に起こしてくる使用人は、エア以外に存在しない。私としては、何時も通りに後々三十分位寝かして欲しいが、目が覚めてしまったので、起きようか。

 目を擦って、頭を振って、意識を覚醒させる。


「……ん、エアおはよう」

「おはようございます! 今日も可愛いです、お嬢様!」


 因みに私、エサルリーゼの年齢は16歳、対してエアは19歳、年齢的には姉妹のような関係だ。だから、エアは姉のように接してくる。


「エサルリーゼ様、昨夜はよく眠れましたか?」

「ええ、昨日も早くに寝れて、ぐっすりよ」


 それは良かったと言いながら、青い髪をさらりと揺らしなが、可愛く微笑む。

 ああ、今日もエアは青い髪と碧眼がとても綺麗。むしろヒロイン張りの女子力がありそうで怖いわ……変な男を連れてこなきゃ良いけど……。


 そんな私の心配をよそに、黙々と着替え用の服を私に見せてきた。


「エサルリーゼ様!今日はこのライトグリーンの明るい服とかどうでしょう?」


 鼻息がかなり荒くなっているようだけど、息切れ?走って来たのかな?

 私が視線を向けると恥ずかしそうにエアは顔を横背けた。


「エア、息上がってるけと、大丈夫?」

「はい! 少しエサルリーゼ様が可愛くて興奮しているだけです!」


 うん!それは全然大丈夫じゃない!病院に行きなさい。

 ていうか、そんなことを言われると、身の危険を感じるのは私だけだろうか?流石に未成年の女の子に何か如何わしいことをされるとは思ってないけど……鼻息が、ねぇ?


「エア、今日は少し休んだ方がいいわ」

「えっ? どうしてですか?」


 きょとんとしている所で悪いけど、流石に悪役令嬢に可愛いとは似合わない言葉だ。

 本編では、エアとエサルリーゼはギスギスした関係だったし、このやり取りには疑問しかない。


「エア……今日は何も言わずに休みなさい! きっと疲れが溜まっているわ……」

「は、はい……えっと、気遣ってくれてありがとうございます。お嬢様はとても優しいですね!」


 ち、違うよ!

 悪役令嬢だから、優しくは無いと思うから! ていうか、前世の記憶が戻ったから性格が悪役からごく普通に戻っただけだから!

 そもそもエアって、つい数か月前に来たばかりだから、関係は悪くなっていないのか!


 そんなことを思い浮かべながら複雑な表情をするが、エアは全く気にしないといった様子で、私の手をギュッと握りながら小首を傾けてニコニコしている。

 ああ、可愛いから良いか……。


「じゃあ、エアは今日はゆっくり休んで頂戴。お父様やお母様には私が言っておくから心配しないで」


 握られた手をこちらも握り返して出来るだけ優しい表情を作ってそう言うと、嬉しそうに肯定の言葉を返してきた。

 ゲーム内では、エサルリーゼに良い印象を持っていないエアだったが、現在かなりなついているのは気のせいだろうか?

 私が彼女にしてあげたことと言えば、記憶が戻った後に看病に来ていた彼女に感謝の言葉を伝えただけだったはず……。

 いや、その日から屋敷での使用人たちの対応が変わった気がする。エサルリーゼはそれまでどんだけ悪女扱いだったのよ!

 悪女だったから仕方がないけど……。


 そんなこんなで、終始和やかな雰囲気のまま、登校までの時間を過ごした。





***



 馬車でいつも通りに、学園へ赴くと、またクレアが門の所で私を待っており、そのままガールズトークに華を咲かせつつ、昨日に引き続き、教室の装飾に勤しんだ。

 

「へぇ~、エサルリーゼさんって意外と器用なのね」


 現在壁に装飾の真っ最中。

 そんな中で、気軽な面持ちで話しかけてきたのはアルシアだった。

 随分打ち解けたなと感じる。


「そんなことは無いわ。アルシアちゃんも飾り付けが綺麗で羨ましいわ」

「そうかなぁ?そう面と向かって言われると照れるね!」


 発言通りに顔を赤くしている。照れてるっていうのが一発で分かる。

 こっちはこっちでクレアとは違ったタイプの天使かもしれないわ。気が強くて、嘘がつけない、おどおどはしないけど素直に喜んだりする。そういうタイプの天使だ。

 なんてことを脳内で思いながら、ニコニコ上機嫌で作業を着々と進めていたのだが……。


「エサルリーゼさん、少し良いですか……」


 アルシアと違い、お淑やかなクレアが眉を八の字にし、上目遣いで軽く肩を叩いてきた。


「どうしたの、クレア?」

「いえ、あの……教室の入り口に……」


 あまり言いたくはないような歯切れの悪い口調でそう言いながら、扉の方を渋々指差す。

 顔を向けると、視線の先には、またまた厄介な相手がいた。

 しかも今度は攻略対象などという生温いものではなく、最強にして最悪のラスボスと言っても過言ではない。

 グランディア・アルケニアその人が、覗き込むようにして、そこには居た。


 いや、何で居るのよ!!

 いきなり私の人生という物語はエピローグに突入するのかしら!?

 そんな類いのことを考えつつも行かねばと、出来るだけ平常心を保ったままに、そちらに向かった。


「あの、グランディア様、どうされましたか?」


 私が近づいてきているときも、常に私から目を離さずにいるグランディア。

 尻込みしてしまいそうになるが、引いてはならない。

 取り敢えず当たり障りの無いような会話から始めてみた。

 明らかにこちらに目線が来ていたので、用事があるのはほぼ私で間違い無いだろう。


「急に押し掛けてしまってごめんなさいね。ビックリしたでしょう?」

「いえ、構いませんよ」


 そう答えると、不意に手に柔らかいものを握らされた。手を開けて確認すると、ハンカチがそこにはあった。


「このハンカチ、エサルリーゼさんの物でしょ?学校に落ちていて、届けようと思ったの」


 そういえば、前世の記憶が戻る前にそんなこともあったっけか?ハンカチ無くしたとか、騒いでた……恥ずかしい。


「わざわざ、ありがとうございます!」

「いえ、当然のことをしたまでですわ」


 そう静かに言うと、にこりと微笑み、大人びた雰囲気を醸し出していた。紫の髪が靡く度に妖艶な感じが漂ってくる。

 赤い瞳は、優しそうに、でも真意を分からせないような深い感じの目付きをしている。


 ──彼女は手強い。


 脳裏にその言葉が何回も過る。

 相手への気遣いにしても、立ち振舞いにしても、全てが良くできていて、虜になってしまいそうな感じだ。

 彼女と敵対しようものならば、確実に私が潰れてしまうのか目に見えている。

 はぁ、どうしようかしら……。


 憂鬱な感情がぐるりと身体中を巡り行く。立ち眩みしてしまうような状況下にあるからか意識が思考に集中していた。

 少し落ち着くと、グランディアが話を続けていたのに意識が戻った。

 どんな話をしていたのかは頭に入ってはいなかった。




「では、これで失礼しますね」

「あ、はい。ありがとうございます」


 気が付くと彼女はヒラヒラ手を小さく振り、ドレスの裾を持ち上げて一礼すると、背を向けて少し長めの廊下をゆっくりと歩いて去っていった。

 嵐が過ぎ去った時のように、その場で深々と溜め息をついた。

 凄く疲れた。


「エサルリーゼさん、グランディア様とお知り合いだったんですか?」


 トテトテと少し離れた所から見ていたクレアが駆け寄ってきた。


「いいえ、名前は知っていたけど……落とし物を届けて戴いたの」

「そうでしたか……エサルリーゼさんはグランディア様とは初対面なのですか……良かった」


 ゲームで幾らか見ているので初対面とは言えないけど、この世界でグランディア公爵令嬢と面と向かって話をしたのは今回が初めてだと思う。

 しかし、クレアの顔色がさっきまで少し曇っていたのが、気になる。


「クレアは、グランディア様と何かあったの?」

「いえ、ただ少しだけ変なものを見たことがあって……」


 聞くと、再び顔を曇らし言いづらそうに口ごもる。

 

「変なのってどういうものを見たの?」


 もう一度質問を重ねる。

 彼女の口からその答えが導き出されるのに、暫く時間がかかったが、やがてポツリと溢すように話し出した。


「その、グランディア様みたいな人が、この学校にいたご令嬢に罵声みたいなものを浴びせていて……」


 恐らく、彼女が見たものは間違っていない。グランディアで間違い無いだろう。大方彼女の気に入らないことをしたのだろう。


「それで、そのあとはどうなったの?」

「そのあと、その罵声を浴びせられていた令嬢は、学園を退学して……そのまま」


 またしてもクレアは黙ってしまった。

 だが、安易に想像できる。彼女に学園に居られなくされたのだろう。

 年々退学者も居るこの学園では、そういうのも珍しくは無い。

 しかし、それにしても一人の令嬢を学園から追い出すだけの力を持っているグランディアは脅威でしかない。

彼女の鼻につく行動をすれば、私も間違いなくその令嬢と同じになることだろう。

 クレアは彼女の脅威に気が付いていたのだった。


 できれば関わりたく無かったけど……ハンカチ落とした私の落度だし、これは仕方がない。

 

「クレアは心配してくれたのね。ありがとう」

「いえ、友達ですから!……それに、その人がグランディア様とは決まってませんし……」

「でも、ありがとう」


 後半のクレアの小さく漏らしたその声は聞き取れるか聞き取れないか位の小さな声だったが、私にはハッキリと聞き取れた。

 その小さな呟きのようなものに答えるべきか答えないべきか、迷った結果、それでもと感謝の言葉を告げた。


 この日はそれ以降、特に目立ったイベントも無く、無難に過ぎていった。







***

 また一日が過ぎてしまった。

 今日に関しては、裏ボスと対面したくらいのイベントしか無かった。

 そもそも、裏ボスと対面するなんて望んではいなかったが、でもいずれ出会うことになるのだから、予定がほんの少しだけ早まっただけ。そう自分に言い聞かせている。


 進展が特に無かった一日を残念に思いつつも、入学式イベントはすぐそこに迫っていると自分を鼓舞する。

 でも、気を張りっぱなしだと心は想像以上に疲れるもので、自然と気分も沈んでくる。


「リーゼ、浮かない顔をしてどうしたんだい?」

「お兄様……ただの乙女の悩みですよ」


 覗き込むようにして、兄であるエリックがまじまじと顔をこちらに寄せていた。


「あと、お兄様。ここ私の部屋なんですけど……」

「鍵は開いていた」

「そういうことを言っているんじゃ、無いのですが……」


 無鉄砲な返答に呆れつつも、気にしないように今後のことについて思案を続ける。


「僕で良ければ力になるけど?」


 まあ、なんともイケメンな発言。

 攻略対象じゃないのにこんなに格好いいキャラが居るなんて、前世の頃、私が見たら羨ましいとか思うかもしれない。

 今では、家族内で恋愛感情とかは微塵も生まれそうに無いけれど……。


「お兄様、お気持ちは嬉しいですが……今は話せません」

「そっか……」

「でも、いつか相談出来るようになったらその時は、相談に乗ってくれますか?」


 私の言葉に一瞬唖然とした表情を浮かべ、やがてにこりと胸に手をやりながら微笑んだ。


「ああ、可愛い妹の相談なら、いつでも大丈夫だよ!」


 魔性の魅力なのか、その顔はとてもキラキラしていたように見えた。

 本日の進展、あったわね。兄の協力を取り付けることが出来た。いや、まあこの兄なら当然か。

 静かに小さくガッツポーズを取った……兄に見えないように。


「それにしても、リーゼは変わったね。前までは僕に口すら聞かなかったのに」


 確かに変わった、人格とか色々と。というか口も聞いてあげなかったのか、エサルリーゼ。流石に可哀想だわ。


「私も人間ですので、変わったりもしますよ」

「はぁ……妹の成長は速いものだな……」


 感慨に浸っているような、遠くを見ているような顔で、エリックは冗談目かしたようにそう言った。


「お兄様、少しうざいです」


 罵倒すると、逆に嬉しそうな表情になる兄。

 はぁ、この兄貴は残念な人間臭がしてならない。もしかして、この性格の設定だから攻略キャラにならなかったとか? かなり魅力的な顔付きなのに?

 いや、多分エサルリーゼ、つまり私が原因なんだけどね。

 

「愛するリーゼにそんなことを言われては、ショックを受けてしまうよ」

「道化みたいよ、お兄様」

「うーん。酷いなリーゼ」


 そう言っている彼には特にショックを受けた感じは見受けられない。


「もう、いいから出てって!おやすみ!」


 言われるがままに、はいはいと手を振りながらお兄様は退出した。


 悪役令嬢に心酔してるから攻略対象になれなかったのかな……。

 そんな私のどうでもいい考えに答える人も無く、また一日ゲーム本編のスタートへと近付いていった。

 


 兄であるエリックを部屋から追い出した私は、フカフカのベッドにダイブし、目を閉じた。それでも、腑に落ちない。お兄様が何故あそこまで悪役令嬢の私を好きなのか? 


「本当に、お兄様の考えていることは分からないわ」


 それは、エサルリーゼにとって当然な疑問だった。

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