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4 ミスト王子との遭遇

 本日の授業は入学式の準備によって、全てが無くなって、みんな校舎の飾り付けやサークルでのパフォーマンスなどの練習をしていた。

 主にサークルに入っていない者は校舎の装飾に勤しんで、サークルに参加している生徒は、サークルでの出し物に精を出している。

 私の場合は前者で、クレアとそれからクラスメイトと共に教室の飾り付けをしていた。


 サークルに参加しているクラスメイトは、人数にしておよそ半数に満たない。つまり、私のクラスはサークルに参加している人が少ない。

 そのため、クラスの飾り付けが凄いスピードで進んでいく。


「そっち、終わった?」

「終わったわ、手伝う?」

「おーい! こっち人手が足りないから来てくれ~!」

「こっち終わったぞ!」


 活発に端的な言葉が飛び交う中で、私もまた飾り付けに勤しんでいる。


「ふぅ、やってみると意外と楽しいわね」


 クレアに向けて言うと、

「そうですね。こういうの、あんまりやらないから、楽しいですね!」そう返事をし、同意をしてくれた。




 正直、このときは明らかに油断をしていた。

 大方準備が楽しくて、ついついのめり込んでしまって周りに注意を配れていなかったのが、原因だが……それでも、そのときは突然訪れた──。


「エサルリーゼさん! あの、ミスト王子が教室の入口の前に……」


 聞こえてきたのはクラスメイトのアルシアの高い声だった。このアルシアも後に取り巻きの一人となるであろう子だ。緑色をした髪とグレーの瞳がとても綺麗な令嬢。

 彼女は、どっちかって言うと活発な感じの子だ。

 それにしても、私に会いたいって、ミスト王子は婚約者だけど、私のことが嫌いなはずよ? そもそも何の用かしら?


 しぶしぶ、教室の入口付近まで歩いていく。クレアも付いてきている、可愛くて仕方がない。


「やあ、エサルリーゼ……。久しぶりだね」


 そこに居たのは『花園の魔法学園』の攻略キャラ一番人気。アルシアの言う通り、悪役令嬢エサルリーゼの婚約者のミスト・トライデントだった。


「ミスト様……」

「ん? どうして、そんな浮かない顔なんだ?」


 いや、どうしたもこうしたも、早速ゲームの攻略対象と関わるなんて思ってなかったから!

 いきなりなんなの!?まだ、入学式イベント始まって無いんだけど!


「いえ、少し驚いてしまいまして、ミスト様は私のことがお嫌いかと思っていましたから……」

「えっ? 嫌いなんて言ったっけ?」


 あっ、しまったぁ……。ついゲーム知識で……彼が私のことを嫌いだと知っていたから、つい……。


「いえ、あの……たぶんそうかなぁ~なんて、思っただけです」


 なんとか誤魔化したが、ミスト様の表情は強張っている。

 まあ、確信ついたからだろうけど……。


「そうか、取り敢えずこれを届けに来たんだ」

「まあ、何かしら?」


 上手く取り繕っているようだが、私には分かる。若干肩が上がっていることが、体に力が入っていることが。

 ミストさんよ、そんなに緊張することは無いわよ……。


「これを」

「はい? ……紙?」


 王族の使う無駄に綺麗な封筒をミスト様から、手渡しで渡された。

 中身を確認すると、婚約破棄の書状だった。


「すまない、俺はお前とはやっていけない……前から無理だ無理だとは思っていたんだ」


 中々慣れたような口調でそう言ってきた。

 だが、私はそういうことを悲しく感じたりしない。

 確かに婚約破棄をされたら悲しいのだろうが、如何せん私は転生者であり、彼に対してそんなに愛着も無かったし、婚約破棄以前に未来的に幽閉される方がよっぽど嫌だ。


 ならば、合法的に彼から離れられて、しかもヒロインに難癖をつけるという最悪の事態を避けられる。

 そもそもエサルリーゼがヒロインに噛みついてくことになるのは、入学式の時に婚約者のミストと仲良く会話していたからだ。

 だから、今の彼の提案には、魅力的なことばかりだった。


「勿論、喜んで!」

「えっ!?」


 つい、即答してしまった。それも嬉しそうに。

 私の返答に対して、ミストをはじめとして、クラスメイト、クレアまでもが凍りついている。

 もしかして、言葉のチョイス……間違えた?いや、明らかに間違えた~~~!!!





「ほ、本当に良いのか!?」


沈黙を破ったのはミスト様の方だった。


「ええ、私としては別に構いませんが……」


 すると、訳がわからないといった様子で、

「何故!?お前は俺のことが好きだったんじゃないのか?」


 と、聞いてくる始末。

 なんでそんなに泣きそうな目をしているのかしら?婚約破棄されたのはこっちなのに? あぁ、前からこういうことしてたんだっけ?

 まあ、私には関係ないけどね。


「いえ、愛するミスト様が婚約破棄を申し出るのであれば、それも仕方のないこと。甘んじて受け入れるのは、婚約者としての努めだと思いますよ」


 かなり滅茶苦茶な御託を並べてしまったが、まあ、良いだろう。これで晴れて、私は本編からバッドエンドまでの流れを断ち切った。

 ……かに見えたが、そう上手くは行かないらしい。


「待て、待ってくれ……今の話は無しだ! し、失礼する」


 そう言うと、私が何も言う暇もなく、封筒を私から引ったくって、足早に帰っていった。

 まあ、流石に私が了承するとは思わなかったのだろう。エサルリーゼはミスト王子一筋だからなぁ。

 今度はちゃんと、婚約破棄の練習をしておこう。

 

 そんなことを心の内で思い浮かべていると、不意に腕を掴まれた。少し怒ったように膨れたクレアがそこにいた。


「どうしてですか!あんなこと言われて、エサルリーゼさんは悔しく無いのですか!」


 クレアが私のため青筋を立てて怒ってくれた。とても嬉しいけど、私が記憶を取り戻す以前に悪い噂話は流布しているので、どうしようも無いのだ。


「クレア、仕方がないのよ。私の噂は既に流れているし」

「でも……」


 言い淀んだが、すぐにクレアは顔色を変えてにこやかに微笑んだ。


「いえ、やっぱり婚約破棄してください!」


 爆弾発言をしたが……。








 ***




 色々あったが、下校の時刻になっていた。

 あの、騒動の後、私に同情するクラスメイトが続出した。

 私は悪役令嬢なのだから、こんなにも同情されるとは、思っておらず、おどおどしてしまったが、これもみんなクレアが取り計らってくれたお陰。

 取り巻きの一人であるアルシアとは、特に仲良くなれた。

 本来ならエサルリーゼに弱味を握られて取り巻きの一人と化すのだが、こういう本当の友達になれて良かった。


 そんなこともあって、クレアに感謝の言葉頭を下げながら言いつつ、それから婚約破棄について、最後に賛成したのは何故なのか?ということを聞くと「あのような男にエサルリーゼさんは勿体無いです!」等と、真剣な顔付きで嬉しいことを言ってくれた。

 彼女は本当に私にとって唯一の天使かもしれない。


 ただ、私は今後のことに不安がある。

 私の婚約者のミストは、プライドが高くて、婚約者であるエサルリーゼが彼に対してかなり心酔していると分かっている。

 きっとそれが分かっていて敢えて婚約破棄をしようと言い寄って来たと推測できるけど、私はエサルリーゼその人ではない。

 中身は、前世の記憶を持つ転生者。破滅すると分かっているのに関わろうとしないのは当たり前なのだ。

 今日の私の取った選択は、彼にとっては予想外の出来事で、今後どのように接触してくるのか気が気でないのが本音だ。


 初日から面倒な攻略対象と出会ってしまい、心底疲れた。しかし、今日はもうこれでおしまい。帰宅の時間だ。なので、クレアと一緒に下校している。

 クレアと一緒に居るだけで、もう私は報われていると思うまである。


 このまま、さらっと卒業まで流れていかないかしら?

 なんてことを考えつつも、今日も私は入学式イベントや今後のイベントに対しての対策を考えつつもクレアと他愛ない話をしながら馬車まで向かう、そんな私としては充実した下校なのであった。



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