3 ルート確認をします2
このゲームにおける絶対的なラスボス、それは決して殴ることを許されないような強者。グランディア・アルケニアは、この第一作だけでなく、今後の作品にも、裏のボスとして君臨する存在。
表面上は、とてもおしとやかで、ラスボスだとは思われていない。
魔法実技は、常に上位一桁に居て、運動も出来る。教師からの信頼も厚い彼女。
だが、本性はとても悪どい感じで、様々な悪役令嬢をけしかけてきて、毎回ヒロインの邪魔をするという。
そして、自分からは直接手を出さない。
手口から見て、完璧な悪役令嬢と言えるだろう。
何せ、毎回作品に登場する悪役令嬢を裏から動かしているのだ。プレイヤーとすれば彼女の存在は常識的なことだ。
私も元々このゲームをプレイしていた時には、彼女が裏にいるというのは、公式の発表によって理解していた。
だからこそ、彼女は私の中で、ヒロイン以上に厄介な存在だ。
というのも、彼女の意思に背いて、ヒロインと敵対的な行動を取らなかった時の、私に向けてくるものが何なのか、可能性として高いのはゲーム内でヒロインに向けていた敵対心と相違ない気がする。
となれば、私にとっては八方塞がりな訳で、悪役令嬢グランディアに着けば、ヒロインに返り討ちに遇ってバッドエンド。グランディアに背けばきっと安泰の学園生活が送れなくなる。
……流石に人生厳しすぎでしょ。
なんて考えていてもどうしようもない。
これからの方針として、私はヒロインとの接点をあまり持たないようにしながら、尚且つ悪役令嬢グランディアとの接点もあまり持たない。
つまり空気になって学園を過ごす。
つまらない、勿体無いなんて思うかも知れないが、こっちは今後の長い人生がかかっている。
どこかの狭い部屋に一生幽閉された生活など辛すぎて精神的におかしくなる。
という訳で、明日からは極力目立たないように振る舞おう!
一人で拳を握り、天井に掲げながらそんなことをやっても、部屋には私一人のため、誰もこの事を見ていない。
入学式まではあと少しだが、その間に名案を思い付くことを願って、その日は一日を終えた。
***
翌日、また学園へと通学する。
昨日の時点で新たに分かったことがある。私、エサルリーゼの家族関係は、かなり良好だということ。
私には、実は兄がいるということ。名はエリックという。
私と同じ色の黒い短髪、目の色も私と同じ、一言で言えばイケメンと言える。
彼は、ゲーム内では名前すら聞かない。私自身もエサルリーゼに兄が居るとは思っておらず、最初気が付いた時にはビックリした。
そして、ゲームに無かった設定なので、兄がヒロインになびいたり、このゲームに巻き込まれたりすることは無いだろう。
あと、かなりのシスコンなので、色々相談も乗ってくれそう。
心強い限りだ。
ゲームでは知ることが無かった思わぬエサルリーゼの家族関係。それは、悪役令嬢だからと制作者が設定しなかったことによることによって完成した。いわゆる私にとっての一筋の光となった。
そんな朗報を知ったことによってニヤニヤしながら、意気揚々と学園まで送ってくれた馬車から降りる。すると丁度、校門の前でクレアが待っていた。
「おはようございます。エサルリーゼさん!」
「おはよう。私を待っていてくれたの?」
そう聞くと、クレアははにかんで、
「はい、エサルリーゼさんが来るのを待っていました」と言った。
うん、天使だわ!
「クレア、今日の授業は何だったかしら?」
「えっ?今日は授業ありませんよ」
「何で無いんだっけ……」
「今日から新入生が入学する入学式の準備をするんですよ。昨日のホームルームで担任のゴラン先生がおっしゃってました」
あら、そうだったかしら?
ごめんなさい先生。全く聞いてなかったわ……。なんてことを思いつつも、クレアと歩調を合わせて校舎に入った。
「「「おはようございます。エサルリーゼ様」」」
私が教室に入るなり、クラスメイトが一斉に挨拶をしてきた。それも凄い笑顔で──。
「え?クレア、どういうこと?」
「エサルリーゼさんが私に自分の印象を聞いてきたから、それできっとエサルリーゼさんが悩んでるのかと思って、クラスメイトの皆さんにエサルリーゼさんの良いところを話したところ。こうなりました!」
ああ、なんということを……クレアちゃん。凄く良い子じゃない!可愛いからナデナデしたくなるわ。
「クレア、ありがとう。こんなにも私のことを考えてくれて」
そう言うと、クレアは急に俯いて、顔を真っ赤にした。
悪役の私がこんなことを言った所であまり嬉しくは無いかもしれないけど、それでも感謝を伝えたかった。
そのまま、無意識にクレアの頭をサラリと撫でてしまう。
「エ、エサルリーゼさん……その、えっ……はぅ……」
少し困ったような表情に変わった。もしかして、迷惑だったかな……やらかしたわ。
謝罪の意を込めて、素直に頭を下げた。
「ごめんなさい。その、ついうっかりと……」
「その、構いません、よ。むしろもっと……」
「えっ?むしろ何?」
そう聞くと、さっきよりも顔を赤くして、
「な、何でもありませんよ……」と言いながら、私の座席に早く行こうという感じに服の裾をちょんと掴んで目線で訴えてきた。
女子力高すぎじゃないのクレア!行動の一つ一つがあざとい!
なんかもう、この子がヒロインで良いのでは?
割と本気でそう思った悪役令嬢の私だった。