1 prologue 転生したら悪役令嬢だった……。
新たに新作として、出しました。
前作の反省を生かして、今回はさらにいい作品に仕上げたいと思います。
交通事故によって、私の命は終わりを告げた。
享年17歳、三学期も始まり、雪が降り始めていた寒い季節、降り積もった雪が地面を真っ白に覆い、車のタイヤもスリップしやすい環境の中で、ブレーキが効かなくなった黒いワゴン車に追突された。
冬休み明けの学校初日が終わり、浮かれている下校の時だった。
あっ、と声を出す暇もなく、呆気なく私の人生は終わってしまった……。
***
そのような記憶を思い出したのは医務室だった。
魔法の授業中に火の魔法を暴発させて、頭を強く打ち、暫く寝込んでいた。
頭は未だにズキズキしている。しかし、今はそんなことはどうでも良い。
問題なのは、私がこの世界に転生した転生者ということと、この世界はどのような所かということだ。
私は知っている。私が誰なのか。エサルリーゼ、侯爵の令嬢、先月17歳の誕生日を迎えた。
多彩な魔法を使いこなせることから、天才と言われ続けて、学内で知らない人は居ないほどの有名人。
性格は傲慢で我儘、プライドが高くて、婚約者のミストに心酔している。
さて、どうしてこんなにも客観的に自分自身の説明をしているかと言われれば、それはもう、私がエサルリーゼの人格では無くなったから、正確には前世の記憶が蘇って、とてもそんな態度はとれない感じになったからだ。
──そして、自分のこの体……この人物を私は前世で知っていた。
そう、このエサルリーゼは私がやっていたとある乙女ゲームのキャラクター、高校で散々やっていたものに出てくる、主要人物だ。
エサルリーゼ……よりにもよって、彼女になるなんて……。
途端に、自分の辿る結末を恐ろしく感じ、ベッドの上で力なくシーツを掴む。
私は知っている。エサルリーゼはヒロインの前に立ちはだかる悪役令嬢だということを──。
***
次の日、いつも通りに学園に通っているが、複雑な心境にあるのもまた確かなこと。
大人気乙女ゲームの『花園の魔法学園』、略して『はながく』。当時私が一番嵌まっていた乙女ゲームで、『花園の魔法学園2』『花園の魔法学園3』とシリーズは続いており、熱狂的なファンも多いこのゲーム。主人公としてこの学園に通う自分が、学園に同じく通っているこの国のイケメン王子や貴族などと仲良くなり、最後には結ばれるというのがこのゲームの特徴。
シンプルであるが、そこがまた人気の秘訣で、何時しか私は何度も何度もプレイし、学校と寝落ちのループを繰り返しながらやっとの思いでエンディングを完全制覇したことをよく覚えている。
しかしながら、このゲームにはヒロインの邪魔をしてくる、いわゆる悪役の令嬢が居るのだ。
美形の顔立ちに漆黒のショートボブの髪、少し赤みがかった鋭い目付き、身長は168(説明書参考)とそこそこ高く、雪のような真っ白な肌が髪の色と相まって際立っている。
悪役らしく、可憐でプライドが高そうな令嬢。
エサルリーゼ・グラニムとはそんな令嬢だ──。
私は今の状況をよく整理した。
つまり、私はヒロインである女の子に対して、嫌がらせや、悪口、酷いときには魔法で危害を加えようとする。
それが悪役令嬢であるエサルリーゼの役割。
理由としては、婚約者である王族のミスト・トライデントをたぶらかしたとしてヒロインに激怒し、そのまま苛めに発展する。
このような行いをすることにより、ヒロインともっとも新密度の高い攻略対象のキャラが、私をクラス内で断罪し、そのまま学校中に話が広がり、そのまま学園での立場を失ってしまう。
そのまま、話は貴族全体に広がって、私は遂にとある場所に幽閉されてしまう。
因みにヒロインの名前等はゲームをする人のプレイヤーネームを使うため、この世界でのヒロインの名前は分からない。
ざっくりと説明するとこんな感じだ。
ここで私は一つの真理へと辿り着いたのだった。
『ヒロインの子に対して、嫌われるような行いをしないようにすれば、私はこんな不幸な結末を迎えなくて済むのではないか?』そんな素晴らしい考えに思い至った。
幸いなことに、現在はゲームが始まるであろう日付けの丁度一週間前である。
この一週間の間、ゲームのイベントを出来るだけ詳細に思い出し、私の望む終わりへと導けばいい。
つまり、私のやることと言えば、ヒロインや攻略対象と余り関わらず、婚約者であるミストがヒロインの子になびいたら、そのままお譲りする。
これが私のすべきことで、幽閉ルートを回避するための最適解だ。
実際、攻略キャラとしては、ミスト一番人気だったが、私はそうでも無かったし、別にどうと言うことは無い。
決意に満ちた顔で学園の校門を潜る。
そんな目が据わっている時、不意に声をかけられて後ろを勢いよく振り向き、固まった。
「おはようございます、エサルリーゼ様。本日も実にお美しいです。昨日は大変だったようで……調子はいかがですか?」
早速ゲームキャラであるエサルリーゼの取り巻きの一人、クレア・ボリアンカが登場したのだった。
「おはよう、クレア。心配してくれてありがと、でも大丈夫よ。それにしても今日は来るのが早いわね」
「いえ、それほど早くも御座いませんよ」
他愛ない会話をしていくが、見れば見るほどに彼女はとても可愛らしいと思う。
茶髪の長い髪は、風に揺れて綺麗になびき、こちらを見入るように見つめてくる瞳は濃いめの黒、悪役令嬢の取り巻きとして、他の生徒とは一線を画した美貌だった。
ふと彼女を見て笑みが溢れてしまうのは仕方がないと思う。うん。
彼女はエサルリーゼの取り巻きの一人で私が断罪されると、彼女も居場所を無くしてしまう。
簡単に言えば、エサルリーゼに味方した人物は皆、不幸になってしまう。
エンディングで私の取り巻きである彼女の結末は綴られていないが、恐らくは良くない結末を迎えていると、そう感じた。
「……ねぇ、クレア。私達は友達なのかしら?」
「えっと、エサルリーゼ様はそうは思っていないのですか?」
「そんなことは無いけれど……その言葉遣いとか、何だか友達とは言えないと言うか……もっと、こう砕けた感じに会話をするのが友達じゃないかしら?」
ふるふると否定するように首を左右にふるクレア。
「いけません。私はエサルリーゼ様と仲良くなりたいとそう思っていますが、私達は住む世界が違っているのです」
なるほど、やっぱりか。
彼女の言う住む世界というのは、その家系のことだろう。
彼女の家は貴族であるものの、五爵位の中で一番位の低い、男爵家に当たる。対する私の位は侯爵家、位としては、五爵位の中で二番目に上の位に当たる。
そういう階級社会の枠組みは既にここ、ナタリア魔法学園にまで浸透していた。
でもそんなことを今の私は良く思っていない。
この無駄な貴族社会の上下関係のせいで、私は思い上がった結果、バッドエンドを迎える。
つまり私としては、そんな自分至上主義者にならない為にも、この学園で位は普通に貴族の関係を捨てて過ごしたい。
なんなら、このゲームのヒロインである平民の女の子と仲良くしちゃうまで有り得るのだ。
そんな訳で実は、私がここまでこの点に拘る理由というものがもう一つある。
もう一つの理由としては、実は悪役令嬢のエサルリーゼの裏側に、真の黒幕が控えているのだ。
黒幕は、侯爵よりも一つ高い最高位の家系、公爵家の令嬢、名はレティシス・フォールンという。
この上下関係を利用しようものならば、私は彼女の下になる。
だが、あくまでこの令嬢に従うのは避けたい、ていうかこの件に関わりたくない。
この件に関わらなければ、私を含めて、取り巻きの令嬢に将来的に不幸が訪れる可能性も大幅に下がるだろうし、万が一でも私が巻き込まれた時に、私を上の存在だからという理由で私に対して手を差し伸べざるを得ないというようなことを防ぐためだ。
上下関係が無ければ、そのようなことに巻き込まれることは無いように拒否できるのだから。
だから私は──
「クレア、今日から私達は対等な友達。上も下も無い。普通に呼び捨てで構わないし、もっと砕けた感じで接して頂戴」
「でも、エサルリーゼ様に無礼だと……その、周りが……」
「気にしないで、そんなことを言うような人が居たならば私が貴女を守るから」
「エサル、リーゼ様……急に優しくされてしまうと……驚いてしまいます……」
──この世界の上下関係を捨てる!
この朝の出来事により、クレアはエサルリーゼに対して丁寧語ではなく普通に会話をするようになり、この一件を見ていたその他の生徒たちにより、侯爵令嬢エサルリーゼが寛容な性格になった……と密かに噂されるようになった。
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