敗北と決断
要塞都市と呼ばれるバノペアの西側、ノスグデ平原にソレは落ちた。
あまりの規模と熱量に、様々な人や物が蹂躙されていった…
それは、安易に「全開で…」などと言ってしまった、老練な魔術師をして後悔させる程の力だ。
勢いよく攻城戦に向かっていた、帝国の第一陣は読んで字のごとく『消滅』する。
そう、消えたのだ。
大きく抉れた大地には、焼け焦げた黒色が残るのみで、直撃を受けた人間は破片すら残す事を許されない。
そして、直撃を免れた帝国本陣やバノペアであるが…
帝国本陣は、究極魔法の存在に気付くと、魔術師総出で障壁を張った。
なんとか被害を抑える事には成功しつつも、今朝は75000いた兵士が、気づけば半数以上を失い重傷者も多数残す結果になる。
対して、攻撃を行った王国側も被害なしとはいかなかった。
城壁の西側は半壊し、爆風により城壁の上に居た兵士の殆どは巻き添えを食らう。
帝国兵迎撃の為に準備をしていた数千の王国兵が被害を受ける事となり、後に大バッシングを受けるが…それは、また後のお話だ。
「ふぅむ…まさか、これ程とはのぉ。」
転移魔法を使い爆風から身を守る為に、城内へと転移していたアールヴは、魔力不足により気絶しているレアを見やる。
「国を思えば、ここで始末するべき…じゃろうなぁ」
予想を遥かに超える力を見せたレアに、アールヴは頼もしさと危うさを計りにかける。
この刃が王国に向く可能性を考えてだ。
アールヴは、手に持つ杖に魔力を込めた…
…
「えげつな…なんやアレ。ゲーム時代の究極魔法って、あんな事になるんか?もはやバグやな、バグ…」
レンは目の前で起こった事実に匙を投げる。
レンは西城門前に待機して、帝国軍を待ち構える最前線にいた。
しかし、空に浮かぶアレを見て叫んだ。
周りに居た兵士達も、レンの機転に従ったお陰で多数が生き残る事に成功していた。
おかげで、城壁前に掘られた堀の中は、多数の王国兵で大にぎわいだ。
堀に飛び込むのが間に合わなかった兵士達は、王国兵同様消し炭になってしまったが…
しかし、地上の戦場は静かなものだ。
追撃に挑む帝国兵の声も、すぐに地上へ上がり応戦しようとする王国兵の声も聞こえない。
皆、何が起こったのか、自分の回りがどうなったかを理解するので精一杯だった。
究極魔法の存在を知っているレンは、いち早く気をとりなおして堀から這い出る。
「…なんや…これ。」
そして、先程まで戦場だった場所をみて絶句した。
大地は抉れ真っ黒に染まり、周囲1キロ円内には生き物の存在は確認できない。
これが、本物の隕石なら被害はもっと甚大であった筈だが、魔法で作り出したお陰で、この程度で済んだ、とも言える…
しかし、被害を受けた人間にとっては、この光景は一生忘れる事は無いし、永遠に語り継がれるだろう。
これは戦などでは無い。
単なる超自然災害だと。
しかし、失意の両軍内において、レンに次いで立ち直り、黒く染まった大地を見据える人影があった…
いや、影ではあるが人の姿はしていなかったか。
「ふざけてる…ふざけるなっ!」
帝国四将に数えられ、つい先程まで兵士達のモチベーションの拠り所であった存在。
【天魔】エラトー・パルフェーヌだった。
彼は鼻息荒く焦げた大地を見渡すと、一人歩み出る。
ただし、その光景は周りから見ると不思議なものだった…
なぜなら、彼は大きな楕円形の球体に、無理矢理手足を付けた黒い鉄の塊に乗り、それを動かしていたからである。
「あ…あれは、鉄○28号やないかぁぁっ!!」
レンの危険な叫びを聞いたのか、エラトーを内包した魔導兵は遅かった歩みを次第に早める。
「この戦況を、この俺様が覆してやるっ!!」
「アホな事を叫ぶんやないでっ!」
半壊した城門へと一直線に進むエラトーに対して、レンは道を塞ぐように立ちはだかると愛刀に手を添える。
混乱冷めやらぬ両軍は見学モードで、二人の決闘を邪魔するものはいなかった。
遠かった距離も、3mを優に越す巨体を持つ魔導兵は簡単に縮め…
「レン、ショウブゥゥ!!」
エラトーが叫ぶのが早いかと言うタイミングで、右ストレートが飛んでくる。
レンは静かにそれを鞘走りからの一撃で受け流す。
「ぐっ、重いなっ」
受け流しはしたものの、魔導兵のパンチは威力・質ともに高くレンはよろめく。
それを見逃さず、乱撃を見舞うエラトー。
見た目的には昭和初期のロボ物を彷彿とさせるフォルムだが、それに反して、攻撃は中々の鋭さをみせる。
「ちょ、こ、これグーロレベルとちゃうかっ!?」
予想外の力に砂漠で倒した、三つ首のパーティーモンスターを思い出したレンは、長期戦は不利だと能力向上スキルを重ねて発動する。
体格差もあり、素早さでエラトーを翻弄しながら足元をチクチクと狙うレン。
「こしゃくなぁっ!」
イラつくエラトーの右拳が大振りに放たれる。
甘く入るそれを見逃さず、しゃがんで躱すレン。
そして、頭上を通過する腕に下方からの斬り上げを合わせる。
いくら圧倒的な質量差を持つ魔導兵の巨体でも、この世界では規格外の力を持つレンの一撃に、腕ごと体を大きくのけぞらせた。
「ここやっ!…アイアンブレイカー!!」
ここが勝機と飛び上がるレン。
隙だらけの鉄塊を前に力とスキルを愛刀に込め放つのは、相手の硬度に比例して威力の上がる絶好のスキルだ。
遠目に見守る両軍の兵士もレン自身も、レンの勝利を確信して表情を変える…
「かかりおったなっ!!」
エラトーは逆にレンの慢心を誘い、跳ねあげられた方と反対の手をかざす。
そこには砲身がついており、エラトーの魔力が増幅されビームのように放出された
…ドウゥンッ!!
「しまっ…!?」
咄嗟に身体を縮めて被害を最小限に抑えようとするが、ビームの威力は強力で十数メートル飛ばされてしまう。
まさかの大逆転劇に帝国は湧き、王国は驚愕の表情を浮かべる。
このままエラトーが押し切るかと思われるも、魔導兵は動こうとしない。
余裕のアピールかと思われていたが、中のエラトーは必死だった。
「ぐぐ…魔力を使い過ぎだ…ごくごくっ」
魔導兵の操縦にビームの放出と、自身の魔力が枯渇していたエラトーは魔法薬を飲み干す。
動くだけなら可能だが、反撃されれば殺されに行くようなものだ。
慎重を期すこの判断は間違いでは無かったが、エラトーはミスを犯す。
慎重になる余り、レンの側にゲートが開くのを許してしまったのだ。
…ズズズッ…ズズ
「ほぅ。こらまた、派手にやられたのう。」
「貴様、アールヴ!?」
「今日はここらで痛み分けかのぅ?」
「ふざけるなっ!あの魔法は貴様の手引きだろうがっ、魔王にでもなったつもりか!?…あ、おいっ!ま、待て、待てぇ!!」
ヌルリと現れたアールヴはレンを見下ろし、生きている事を確認する。
空間魔法が使える魔術師の出現に焦るエラトーだが、二人を葬れる程の魔力は回復していない。
そんなエラトーを尻目に、レンを担いだアールヴは、「引き分け」などと嘯きゲートに戻って行ってしまう。
しかし、どうする事も出来ず、エラトーは魔導兵の手を突き出して叫ぶだけだった…
……
「う…う〜ん。…あかん……あかんて、むにゃむにゃ…俺には嫁も子供も」
…ドスッ!
「ぐほっ!!」
天使の笑顔で良い夢を見ていたレンは、レアによる怒りの鉄拳で強制的に覚醒させられる。
「な、なんや!?せっかくエエ所やったの…ん?そう言えば戦争の真っ最中やった気が…あれ?俺はなんで眠って」
「ふぉっふぉっふぉ。その様子なら心配なさそうじゃのぅ?」
最初は腹を立てていたレンは、次第に意識が覚醒していき、自分が置かれていた状況を思い出す。
「…そや!鉄人○8号はどないなったんや?たしか、手からビーム出しよったんや」
「…やられてた…情け無い…ぷぷっ」
真顔で馬鹿にしてくるレアに怒りながらも、アールヴから聞かされた話に神妙な面持ちで頷く。
「あれは、多分アキラが作ったロボやわ。硬いし、魔法も利きづらいと思うけど…勝てるんか?」
「…おなか…へった」
「ふぉふぉっ。レアちゃんは魔力不足じゃ、ワシらで何とかするしかないのぅ」
レアは魔力量が上限まで解放されている。
数値で表すと9999だ。
なので、ポーションを使い切った今、自然回復か食物摂取による回復に頼る事になる。
しかし、魔法の威力を高める為に取った【都市喰らい】と言うか称号のせいで、レアは自然回復ができない。
…つまり、ポーションガブ飲み砲台と言うわけである
ちなみに、アイテム別の回復量はこんな感じだ。
ーーーー
各種〜薬→100前後
物理効能:擦り傷、毒、痺れ等を緩和
各種〜ポーション→500前後
物理効能:裂傷、各種バッドステータスをほぼ回復
各種〜ハイポーション→1000前後
物理効能:部位欠損回復、バッドステータス完治
エクストラポーション→体力・魔力2500
物理効能:死亡以外の全てを回復
ーーーー
転生後のAAOの世界において、〜薬ですら結構な値段で取引される為、大規模な戦争ですら大量投入はできない。
まして、ポーションやハイポーションは移籍からの出土品がメインで、アーティヘェクトアイテムと呼ばれる程、貴重な存在になっている。
今回の防衛戦でも、神官達による人力治癒がメインなのを見れば頷けるだろう。
なので、レアに魔力薬を使い過ぎる訳にもいかず、アールヴはどうするべきかと悩む。
「明日は、ワシと二人で応戦するとしようかのぉ。」
「げぇっ、俺は連戦かいなっ?人使い荒いでまったく…」
「その為に、優先的に治療したからのぉ」
レンを馬車馬のように使おうとするアールヴは、明日の作戦を具体的に練り始めるのであった。
ーーーー帝国陣営
…ドスッ
「くっ……で、被害は?」
心底疲れたと言う表情で、ドーンは椅子に深く腰掛け頭を抱える。
「はっ…兵の総数は25000まで減少しており、すぐに戦える者となれば15000が関の山かと…」
副官のニルは表情を強張らせながらも、的確に把握した情報を報告していく。
「ははははっ…既に、勝負は着いたと?」
「そ、そ、それは…」
「すまんな、お前に当たっても仕方ないのだ。」
「いえ!お気持ちは…それに、申し上げにくいのですが、他にも何点か報告が…」
ニルは、あんな被害を受けながらも、自軍の戦力把握に奔走し情報を集めていた。
専任兵士である帝国軍において、エリート教育を施された各部隊の隊長達。
その中でも、千人将や五千人将と呼ばれる中隊長クラスの猛者が、何人も殺されたと言う事実を追加で報告する。
「…なぜだ?アレに巻き込まれた者達だけだろう?」
「いえ…本陣の守護に当たっていた者や、特殊部隊の隊長達も殺られております。」
「一軍を任せられる者達だ、簡単に殺られる訳がなかろうっ!」
「はっ!確認した情報を纏めると、恐らく王国の儀典官が暗躍していたものと思われますっ。」
憔悴していたドーンの怒声に、ニルは背筋をピンと張り簡潔に答えを述べる。
事実は事実だ。
報告を後回しにしても良い事など無いのは、自分が纏める側としても経験済みだ。
自分を睨むドーンに、ニルは真っ直ぐ視線を返す。
「…ふぅ。掌で弄ばれている、か。」
「残存する中で主立った者は、大隊長二名、第三特殊部隊、魔法師団長…と、お二方です。」
ニルは目の奥に不安をにじませる。
もし、この状況に自分が置かれたら、国に帰って責め苦を受けるよりも、玉砕覚悟で散る方を選ぶだろうと考えて。
そして、その決断は下策中の下策である事を十分理解しての洗いざらいの報告だった。
帝国の守護神と呼ばれるドーンなら、そんな無謀は選ばないと言う希望を託して。
「…お前ならどうする?」
「私なら玉砕を選びます…弱いですから」
ニルは、そう力無く笑うと口をつぐんだ。
「よかろう。お前の期待に応えるとしよう」
ドーンは決意したのか、普段の厳つい顔に戻り静かに立ち上がる。
ニルを従え、もう一つの将官幕舎へと向かう。
エラトー・パルフェーヌの元へと。
…そして翌朝、帝国軍は兵をまとめ、早々に退却して行くのであった。




