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日本人達

 ーーーーーーバノペア 郊外


「もしも〜し、アキラちゅわんですか〜?」


「…はぁ。キミは相変わらずだね、ボクに何か用?」


 やたらとテンションの高めなレンからの連絡を受けて、ため息混じりに要件を聞くアキラ。

 意外と面倒見の良いアキラは、年齢的にはお兄さんになるレンの事も、できの悪い弟のように対応してあげているのだ。


「なんや、なんや〜冷たいの〜、ちょっとエエもん拾ったから調べて欲しいな、と思てなぁ」


「…良いもの?」


「せや!聞いて驚け、魔封石や!」


「……で?」


「いやいや、おっかないモンスターが入っとるクリスタルやで?」


 それこそ知っているから、何が良い物の所以なのかを説明しろ、とレンに言い放ち、しょうもない理由なら切るからと付け足す。



「ちょちょ、待ちぃな!これは人造?か魔造?みたいな、この世界の誰かが作ったもんなんや!…ユウト達を狙ろてる、餓狼蜘から奪ったんやで?」


「…へぇ、分かったよ。調べてあげる。で、いつ持ってこれるの?」


「ん?今や。」


「…はっ?」


「…い・ま!」


 この男は人をおちょくっているのかと思い、連絡を切るか迷うアキラ。

 その背後から…


 …トントンッ

「……はっ⁉︎」


 肩を叩かれ振り向くと、何故か自分の屋敷にレンが入り込んで、ニヤニヤと悪ガキのような笑みを浮かべている…


 …ピッ

 …ドゴンッ!


 氷の表情を浮かべ、無言のままアキラは手元のスイッチを操作した。

 すると、レンの頭上から、古典喜劇で使用されるブリキ風のタライが落下して、頭を直撃し悶絶する…



「くぅ〜…お前さん何しよんねん!」


「…それはコッチのセリフだよ!不法侵入にセクハラだね。」


「肩叩いただけやんけ!」


「…存在がセクハラだね」


 俺はユウトじゃない、と失礼な返しをしながらウジウジと文句を言うレンに、いいからさっさと物を出せと指示するアキラ。

「ほれ…」

 魔封石を受け取ると物を確認し始める。

 魔封石自体はゲーム時代に腐るほど関わっているので、珍しくとも何とも無い。

 しかし、転移したこの世界では確かに珍しいし、これを作成する能力者が存在すると言うのは、興味深くはあるなとアキラは考える。



「…スキル 鑑定アナライズ

 瞳に光が宿ると、アキラが手に持つ魔封石の情報が視界に広がる。


 ーーーー

 アイテム名:魔封石 (キマイラ)

 所有者:レン・ショウブ

 作成者:H・アシュペルガー

 レア度:4/10

 売却額:30万G

 効果:捕らえたモンスターをクリスタルに封印し、好きな場所で解放する事ができる。

 但し、解放したモンスターは、ほぼ野生の状態な為、忠誠度などは殆どなく所有者を襲う事も多々ある。

 ーーーー


「…名前は伏せてあるけど、アシュペルガーと言う人物が作ってるらしいよ。」


「アシュペルガー…どっかで聞いた事あるような気もするけど、よう思い出せんな。」


 レア度の低さや、売却額等はゲーム当時のままであるし、直近で所持していた時間が長い者が所有者登録されるのも、特に変わりは無いようだった。


「…でも、裏情報欄の作成条件には、調教師と魔工師の上級能力が必要ってなってたよ?」


「そやな、この世界に俺らみたいな転移した人間以外では考えられへんけど…」


 レンの知っている日本人の中には、そんな能力を持っていそうな人物はアキラくらいで、他には思いつきそうにもない。

 この世界で二つのジョブを上級まで上げて所持していれば、否が応でも目立ってしまう筈だが、今のところ聞いた覚えが無い。



「まぁ、旧NPCが持っとる線もあるけど、それやとお手上げやわ。」


「…ボクも心当たりがあれば知らせるよ。」


 アキラは魔封石をレンに投げ渡す。

 レンはそれを受け取り、礼を言って立ち去ろうとするが、アキラに服の裾を掴まれる。


「なんや?寂しいんか?」

 ふざけたように聞いてくるレンに、アキラはニヤリと笑い答える。


「…ボクも協力したんだ、キミもボクの研究に協力したまえよ?」


「…へっ?」


 アキラお手製のマ○ンガー…もとい、魔導兵の性能テストをやっていけと告げる。

 以前にメリーやティファに言われた改善箇所を修正したのは良いが、試す相手がおらず困っていたアキラは、

「…やらないなら今後、力は貸さないからね?」

 と脅迫めいた協力要請をする。


「…大丈夫、死なない程度にやるからさっ」


「おっ、おお手柔らかに頼んます…」


 レンがその後、二日間アキラの屋敷で寝込む事になったのはご愛嬌なのだろうか…









 ーーーーーフローラ帝国 イリノア西部


 ここは、帝国の首都オーガストリアから北西に3日程行った所にある、四大都市の一つ、イリノアのさらに西にある、独裁都市『日の本』と呼ばれる人口3万人程度の街だ。


 名前から察する通り、日本文化を取り入れた異世界の異文化都市と言える場所で、帝国から独裁権を認められている。


 この都市の長は『シュウト・クロサキ』と言う名で、異世界から召喚されて来た事は、都市の中では周知の事実だ。


 通常の都市であれば必ず納める必要がある、市民の税金が不要となっており、近隣都市からの流入者も多い。


 帝国としては、本来なら旨味の無い独立都市を認める意味は無いが、シュウトを飼い慣らそうとして痛い目を見た事から、半ば諦めとして受け入れているのが実情だ。


 …

「ハル!コハル!」



「…はっ、こちらに。」

「今月の各都市の売上はどうなってる?」


「概ね前年を上回る伸びかと…神国での旅館新設と王国内での、ふらんちゃいず事業も順調との報告を受けております。」


「そうか…他国に舐められないように、売上の管理はしっかり行えよ!」


「はっ!」


 固定の税を取らない方式取るために、シュウトは自ら商店や旅館の経営を行い、都市の基本的な公共事業費をまかなっている。

 そして、物珍しい和風の旅館や、日本の事業システムを活かした商売のやり方を取り入れ、アイアンメイデンとは違ったアプローチで成功しているのだ。



「孤児院と養護院の様子も頼むぞ、俺はアスナの所に行って街を見てくる。」


「…畏まりました、シュウト様。」


 コハルと呼ばれる本NPCは深く一礼して答える。

 この女性は元々、『ういろう』と言うプレイヤーが所有していたNPCだった。


 色々とあり、ういろうは消え、コハルはシュウトの所有となったのだが…

 この件を受けてシュウトは、ユウトが所有する元NPC達を奪う計画を立てた。


 邪魔が入ったので一度は引いたが、時期をおいて再度接触する予定にしている。


「…黙って従えば良し、逆らうなら」


 シュウトは目的の人に会う為、江戸時代にあった武家屋敷のような建物を移動する。


 …コンコンッ

「入るぞ」


 目的の部屋に入ると、目元に黒い布を巻いた少女がベッドから起き上がろうとし、シュウトはそれを止める。


「…調子はどうだ?」

 先程までとは打って変わり、優しい表情と口調で少女に問いかける。


「はい。この通りですので、ご主人様のお役に立てればと…」


「いや、いいんだ…目が良くなるまで無理はするな。」


 手を振って問題ない事をアピールするアスナの肩に手を置いて、いつも繰り返している答えを返す。


「ですが…」

 アスナの目が見えなくなった原因は未だに不明で、正直なところ治る見込みも立ってはいない。

 しかし、自分の不甲斐なさの象徴である、その目が見えるようになるまでは、アスナを部屋から出す気はシュウトには無いのだ。


「お前は心配せずに此処で待っていろ、俺が必ず目を治してやるから。」


 AAOのゲーム内で、自分専用のNPCを作るには非常に高額のリアルマネーが必要だ。

 ティファクラスの完成度を持つNPCなら30〜50万くらい必要になる為、レンやアキラはNPCを持っていないし、シュウトも安いアバターと能力値から、コツコツとアスナを育てて来たのだ。


 肩上の長さの淡い栗色の髪をした、16〜17歳の外見をした少女はシュウトに取って、異世界に飛ばされた時から、唯一の家族…妹のような存在だった。


「…また明日、見にくるよ。」

 アスナの頭をひと撫ですると、シュウトは部屋を後にして都市の見回りに出る。


 シュウトは魔法と剣を扱う、魔剣士のジョブを取っていて、レベルも上限の100だ。


 アイテム関係は転移のせいで消失してしまったが、その能力と魔法で異世界チート生活を謳歌していた…

 一時は異世界の覇王や、勇者と呼ばれる存在に憧れもしたが、今では自分が所有するこの『日の本』を守る事だけに専念している。



 …

 ……

「きゃっ⁉︎」

「…いてーな、危ねえだろう!」


「……ちっ」

 子供を抱いた母親が、露天の商品を見ていて、厳つい男にぶつかられ文句を言われる。


 必死に謝る女性を見て、舌打ちをするとシュウトは真っ直ぐ男の元へと向かい…

 頭を掴んで地面に叩きつけた!


「うべぇっ!」

 ゴォン!と言う鈍い音と共に、地面に血の花が咲く。



「…シュ、シュウト様!あ、ありがとうございます!」

「大丈夫か?おい店主!こいつは警邏に連れて行かせるから、縛って転がしておけ。」


「へっ、へいっ!」


 いつも通りの険しい表情を浮かべながら、母親と店主に声を掛けると、その場を立ち去った。



 …

「…いつも恐い顔をされているけど、城主様は優しい方なんだよなぁ」


「ほんとですよね。いつも見回りに出られて、私達みたいな者にも優しくして下さいますから。」


 歩いて行くシュウトの後ろ姿を見ながら、店の主人と女性が、表情さえ柔らかくなれば…勿体ない…と、感想を言い合う。




 この日の本と言う国は、人種や経済状況を問わず受け入れている。

 そのせいで、素行の悪い者達も寄って来てしまい、見回りの時に害になりそうな人間を見つけると、国から排除するようにしているのだ。



 …

「シュウト様!持ってってくだせぇ!」


「はん!こんな事してると潰れるぞオヤジ」


 リンゴのようなフルーツを受け取り、悪態で返し齧りながら歩く。



 …

 この街も随分マシになったな…あの野郎に嵌められてから、もう三年くらいか。

 異世界に来た時から考えたら、もうこの世界の方が自分の居場所みたいになっちまった。

 まぁ、あんなパッとしない人生なら、何でも自分の力で出来ちまう、こっちの世界が良いってもんか…



 活気に溢れる街の様子を眺めながら、シュウトは昔を振り返り歩みを緩める。

 そして立ち止まると、自分の理想の世界を広げる為に…アスナの身体を戻すために、さらなる力を求める決意を新たにする。




 …その為にも、アイツらの力は俺の為に使ってもらうぞ。


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