シャーロットの告白。
「……そう、上手くはいかないか。」
「ユ…ユウトさん…」
一縷の望みをかけて叫んでみたが、そう、タイミング良く助けなんて来ない…
俺は、今まさに振り下ろされようとする、エンシャントドラゴンの一撃から、シャルを守る為に、彼女を抱きしめる。
…宝珠が無い今、たった一撃でも守れるか分からない。
けど、一瞬だけでもシャルに長く生き残って欲しいから!
グゥアゥウ!
ドシャッ‼︎
「ぐぅあぁぁあ!」
重いドラゴンの腕と爪が二人を襲う。
……これが死の痛みか
…
あれ?
…痛く無い。
どう言う事だ?
だって、宝珠は確かに割れた筈だ…
そう思い首元を見ると、俺が以前、ティファにあげた、義魂の指輪が割れて消える所だった。
…そうだ、この遺跡に潜る前にティファが、危ないから御守りだって掛けてくれたんだ。
装備アイテムで、適正外なのに守ってくれたのか?
それに…ティファは指輪を御守り代わりとして、ネックレスにして貸してくれてたのか。
…アグゥアァ?
「リロードオン!炎龍の牙!」
「…グゥアアァァア!」
俺達が潰れて死んでいない事に、理解が追いつかないドラゴンの隙を見て、こちらからも強力なブレスを浴びせてやる!
…すると、叫びながら後ろに下がっていった。
…今のうちに考えろ。
後、何がある?何が出来る?
無い頭を必死に回していると…
…
「ホーリースラァァッシュ‼︎」
「グギャアァア!」
ブレスを受けて下がっていた、ドラゴンの背後から、ティファの強烈な一撃がお見舞いされた!
「ティファ‼︎」
「お待たせして申し訳ありません!お怪我は?」
「俺もシャルも無事だ!…ティファのお陰だよ!」
「…よかった。レアが魔力切れで倒れていますので、回復をお願いします!」
そう言うと、ティファはドラゴンの注意を引きながら離れて行く。
…そしてそれに、メリーも追従していく姿が見える。
…
「おう、ユウト!死んでへんか?もちろんシャルも無事やんな?」
「当たり前だろ…こっちも魔力切れだけどな…」
レアを背負って近付いてきたレンに答える。
俺はバッグからマナポーションを出して、二人に飲ませる。
「…んぐんぐ……ぷはっ!」
「ちゅぱちゅぱ…ごくん。」
ポーションを飲みあげて、シャルとレアが元気を取り戻してくれた。
「…ありがとうございます!
本当に…ありがとうございます。」
「…んまい。もう一本…」
涙ぐんで抱きついてくるシャルを宥めながら、レアにもう一本渡す。
レアは魔力量が多いから、普通は魔力切れなんて起こさない筈なんだけど…
それだけ無理して、急いで来てくれたって事なのかな?
「…もう大丈夫そうやな!ほな、俺も向こうに参戦してくるわ!」
「…大丈夫なのか?」
「当たり前じゃ、ボーケ!」
レンは背中を向けて、そう言うとモンスターに向かって走っていった。
…この、エンシャントドラゴンはパーティモンスターだ。
しかも、適正レベルが90〜92もあり、ソロでの攻略は、ほぼ不可能と言われてる。
その上、硬い鱗やブレスは強力で、適正レベルを下回ってると、パーティで挑んでも攻略するのはしんどい相手だ。
ティファとメリーが居るけど、レンのレベルじゃキツイんじゃ…?
…それに皆、格好がボロボロだ。
「なぁレア?ここまで、どうやって来たんだ?」
「…床をぶち抜いて…」
「「……」」
俺とシャルは二人で固まる。
…ま、まさか、ダンジョンになってる、この遺跡の床をぶち抜いた、だと⁉︎
俺がゲームマスターなら、せっかく作った道をショートカットされて、激オコになるような話だぞ…
「…一つか二つ、破壊したのか?」
「…ん〜…5個ぐらい……つかれた」
「「……」」
まじで?どうかしてるぜ!
いやはや、凄いとは思っていたけど、ここまでとは…
そりゃ、魔力切れも起こすわなと、とりあえず、もう一本レアに飲ませて、俺達も戦いに参加する。
もちろん、宝珠は付け直したし、シャルにも無理矢理付けさせる。
「…ふりーじんぐ……」
「影縛り!絶影‼︎」
「はぁぁ、シューティングノヴァ‼︎」
先程までは絶望しか感じなかった、あのエンシャントドラゴンを凍らせ、動きを止め切り裂き、叩きのめしていく…
特に、ティファの勢いと攻撃力がすごい!
俺も、魔法効果を高める輝石を使ったり、ポーションを渡しながらサポートすると、遠距離から氷狼の牙を使って攻撃にも参加する。
…
……
徐々に、こちらの攻勢が強くなっていってる!
「はぁぁああ‼︎」
ティファが腕を斬り落とした!
「これは、どうかしら?」
メリーがドラゴンの口を縛り、目玉にクナイを投げると、魔法をぶつけて爆発させる
「これでぇえ、しまいやぁー‼︎」
倒せてはいないけど、レンが尻尾を斬り落とした!
レベル差があるのに凄いな…
「断罪の輪!」
シャルが光の輪で、硬い鱗に覆われた首を削っていく。
そして、俺も…
「レア!合わせろ!リロードオン!」
ーゼギスの怒りー
・雷を落とす (第9位相当)
「…えれくとりっくパレード!」
俺が杖型のアイテムをかざすと、巨大な雷光がドラゴンの頭上に召喚される…それに合わせて、レアが召喚した、エゲツない数の雷光がドラゴンを囲んだ。
「「はああ!」」
ドガガガ!…ギギ、ビビ!…ジュウゥゥ…
二人で溜めた雷を叩き込むと…エンシャントドラゴンの丸焼きが完成した。
ドーン!と言う音ともに、ドラゴンが倒れる。
それを見た皆が、歓声を上げた。
「よっしゃあ!いっちょ上がりや!」
「ふぅ、何とかなりましたわ。」
「…おなか…へった…」
「皆、よく頑張りましたね。」
「やりましたね!ユウトさん!」
「あぁ、何とか生き残れたな…」
俺達は、この難敵を打ち破れた事を、互いに労い讃えあった。
そう…何よりも、一人の死者も出さずに済んだ事を。
……
その後は、少し休憩をしてから、遺跡の入り口へと戻り始める。
普通に戻ると、かなりの時間がかかる筈だけど、レア達が開けた穴があるので、ティファがメリーを上の階に押し投げて、ロープを垂らしてもらい登っていく。
…お陰で地下4階までは、あっと言う間に戻る事ができま。
なので、そこから上は正規ルートで歩いて戻る事にした。
すると…行きの時には居なかった、モンスターが現れ始める。
エンシャントドラゴンを倒したから、外に出ていたモンスター達が、遺跡に戻って来てるのだろうか?
ただ、さっきまでの戦闘に比べれば優しいもので、ほとんど立ち止まる事無く進んで行けた。
…唯一、レッドドラゴン二匹と同時に遭遇した時だけは、ちょっと焦ったかな。
さらに、途中で宝箱やアイテムを発見したので、追加報酬として貰っておくのを忘れない。
そうして…ようやく、ボス部屋への転移騒動の原因である地下一階、最奥部分まで上がって来れた。
…ここで、魔法陣が発動されたんだよな。
…
「…少しお待ち下さいね。」
そう言うと、メリーは脇に落ちていた大きめの石を、ホール中央に向けて転がし投げる。
すると、床が発光して、いくつもの魔法陣が浮かび上がり、投げ入れた石は転移で掻き消えてしまい、後には何も残らない。
「これは、時間式の罠のようなものですから、今からしばらくは発動しませんわ。」
メリーはそう言いながら、スタスタと歩いて行く。
たしかに、再び魔法陣が発動する事はなくて…
俺達はようやく、入り口まで戻って来る事ができた。
レンが、爺さんから預かっていた、見鏡の水晶を使って連絡を取ると、
水晶の向こう側に爺さんが映り、「無事で良かったのぉ」と言う声が聞こえてきて、ゲートを開いてくれる事になった。
…俺はその間の時間を利用して、ティファに擦り寄ると、今回の件で義魂の指輪を失ってしまった事と、そのお陰で命が助かったお礼を改めて伝えた。
「…ユウト様がご無事なら、何も問題ございませんよ?」
「でもさ…あげた物は失うし、また助けられるしで…ティファには感謝してもしきれないよ。」
俺は、申し訳無い気持ちと感謝を伝えたくて、深く頭を下げる事しか出来なかった。
「何でも良いから、して欲しい事とかないかな?」と聞いてみたら…
ティファが、頬を赤くしながら「で…では、先日のように、また二人で…デ、デートのようなものを、そ、その…」
恥ずかしいのか、途中で詰まるティファに、俺は「そんな事でいいなら、俺からお願いするよ!」と笑顔で約束した。
…二人でコソコソしてると、ゲートが現れ、順番に潜って王城へと戻っていく。
「ふぃ〜、やっと戻って来れた!」
「…ほんま、ユウトと絡むと、暇が無くてええわ」
「うるへぇ!」
王城の庭でレンと、話していると、城からルサリィが走って来るのが見えた。
「…お兄ちゃーん!無事で良かったぁ」
飛びついて来るルサリィを受け止めて、頭を撫でであげる。
待たせてゴメンと言いながらモフモフしてると、
すぐにティファの所へ行ってしまった…
モフモフ…
俺がルサリィの後ろ姿を見ながら、手をワキワキしていると、シャル達と話をしていた爺さんがやってきた。
「無事で何よりじゃのぉ。まさか、エンシャントドラゴンとはなぁ…」
「まさかじゃ無いって、ほんとに死にかけたんだからな⁉︎」
命があったなら、問題無いとか言われて笑われる。
…笑い事じゃねぇ‼︎
「では、陛下へ報告をしてもらうかのぉ。…まぁ、褒美の準備やらがあるので、2、3日は待っててもらう事になるかもしれんがのぉ。」
「…もう、何でもいいや、取り敢えずゆっくり休みたいよ」
俺は爺さんにそう言うと、皆もそれぞれの部屋に戻って行った。
……
…コンコンッ
軽快にドアがノックされる。
誰だろう?ルサリィが遊びにきたかな?
「…失礼します。」
「……シャル⁉︎」
シャ、シャルが単身乗り込んできた…
いや、別におかしい訳じゃ無いけど、今までなら絶対にレンが付いて来てたのに…
「どどど、どうかしたのか?」
「……あの、今日のお礼を改めて伝えに」
モジモジとした仕草で、そう答えるシャルに「気にする事ないのに」と言いながらも、心臓バクバクで椅子を勧める。
マジックバッグから、レモンウォーター的な物とコップを取り出して、シャルに注いであげる。
この飲み物は、アスペルにいる時にサルネアに作ってもらった物だ。
このバッグの中に保管しとけば、いつでも新品状態で取り出し可能。
温度とかもそのままだから、このバッグの中は真空…いや、時間が止まってるって感じなんだと思う。
…まぁ、検証してないから、今入れてる物が腐ったりすれば、そのうち分かるだろう。
「あっ、ありがとうございます。す、すみません…本来なら私がやるべきなのに…」
「あ〜、その件なんだけどさ…今回の遺跡で、俺もシャルに命を助けてもらった訳だから、奴隷からは解放!って事にしてもらおうと思ってるんだけど?」
シャルが首を傾げている。
「そもそも、俺がシャルを庇ったりする前に、障壁で守ってくれてただろ?だから、あれが無ければ二人共死んでたって事だよ。」
「でも、あれは自分の為でもあって…」
「だけど、二人…いや、二人と一匹分の展開をしたから、消費が激しかったでしょ?」
「それは…」
だから、命を救ってもらった事になるから問題無い筈だよと伝える。
が…しかし、嬉しいだろう筈のシャルの表情が優れない。
…何かまずい事言ったのかな?
「…あの…私は…貴方の事が……」
…こっ、これは⁉︎
「好きではありませんでした。」
告白ちゃうんかーい‼︎
「……はい。」
ションボリする…
「あっ!ちがっ、あ、あの、でも、その…遺跡の時に凄く頼もしくて、身を呈して守ってくれたのが嬉しくて。
…レン以外の人を、こんな風に思った事が、無かったから。」
シャルの銀色の髪が揺れて、彼女のはにかんだ笑顔を際立たせる。
うぐっ!しょ、正直、このまま連れ去って、監禁して、俺だけの物だ!って、言いたい…
でも、レンに言われた通り、ティファ達の事を放ってはおけない。
だから、この気持ちはまだ…
「だから、ユウトさん達と一緒に行動したい…もっと色々見てみたくなったんです!」
…だから、口実的にも、奴隷なら連れていかれる、って程で話が進められる…か。
こんな風に言われて嬉しく無い訳ないけど、本当に良いのだろうか?
レンとかは、どう思ってるんだろう…
俺は、少し考えて言葉を伝える。
「シャルはそれで本当に良いのか?俺達といると、今回みたいに命の危険があるかも、だぞ?」
「それは、今も変わりませんし…」
少し寂しげに笑うシャルを見ると、居ても立っても居られない!
誰かが反対するなら、この俺様がボッコボコにしてやんよ‼︎
俺は、シャルの話を快諾して「じゃあ、これからも宜しくな!」と爽やかに手を握った。
…おてて、やんわらかかったぁ!
…
……
「ダメです。」
「…ど、どどうしてもでしょうか?」
「…はい。」
俺はシャルの気持ちをニヒルな笑みで受け止めて、その足でティファとメリーを説得にきた…
のだが、即否定された。
…くっ!くそ、斯くなる上は、ボッコボコ…には無理です。はい。
当然、二人を納得させれる言い訳は思い付かず、捨てられた子犬のような目で、ただ二人を見つめ続ける。
……
「…はぁ。まったく、ユウト様には敵いませんわ。お姉様も降参した方が早いですわよ?」
「…ぐぬぬ。…仕方ありませんね。ユウト様がそう仰るのであれば…」
「えっ⁉︎いいの?二人共ありがとう‼︎」
つくづく俺に甘い二人に、どっぷりと甘えて許可をもらった。
だけど、褒美の内容も分からないまま、シャルを連れ去るのはダメだから、一応、様子を見てとの事になった。
俺は二人に抱きつき、お礼を言って部屋を後にした。
…
「メリッサ、本当に良かったの?」
「それは…分かりませんわ。けど、ユウト様にあれだけ言われて拒否できまして?お姉様?」
「それは…無理ね。」
「まぁ…これからもわたくし達の存在意義が脅かされないよう、有用さをアピールしていくのみですわね。」
「そうね…見捨てられないよう、頑張るしかないわ。」
「そのセリフは、ユウト様の前では禁句でしてよ?」
「えぇ…分かっているわ。」
…俺が部屋を出た後、二人が同行を拒否した理由が嫉妬心で、こんな事を語り合っていたとは、当時ルンルン気分の俺は…知る由も無かった。




