表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

初めて出会ったヒーロー

この世界は、いつの時代も不公平なものだった。

人というのは、最初の印象でその後が大きく変わる。

明るいイメージを持っていたり、どんな人にも同じような対応をするような人は、他の人からの信用を得る。

逆に自らを塞ぎ込んだり、敵対心を出しているような人は、周りからも理解されずに孤立する。

そんな残酷な世界が、この世の中なのだ……




「北川君ってほんと頭いいよねぇ~」


この中学校では、テストは頻繁に行われていて、細かく成績がつけられていた。

そして今日は、一学期の中間テストの返却日でもあった。

教室の中では、いつも通りの話題で盛り上がっていた。


「毎日どれくらい勉強してるの?」


「どうやったらそんなに成績上がるの~?」


「北川、よかったら俺にも勉強を教えてくれよ」


教室の中ではそんな話ばかりだった。

特に先ほどから聞こえてくる北川という子は、つい先日うちの学校に転校してきたばかりの子だった。

私はあまり話したことはなかったから、下の名前とかどんな子とかそういったことは知らなかったけれど。


「ううん、別に僕はそんなに勉強したりとかはしてないよ?」


北川君はクラスの子たちと話していた。

彼は成績優秀で、運動神経も抜群だった。

しかし、北川君を横目でいると私の視界を女子が遮ってきた。


「ねえ安藤さん、さっきから何見てるの?」


明らかに私に対して敵対心を向けてきている。

私の名前は「安藤 真美(あんどう まみ)」。

肩のあたりまであるボサボサのショートヘアに眼鏡と、陰キャに分類されるタイプの人間だった。

私は昔からそんなに成績もよくなくて、運動もできなくて、北川君とは真逆だった。

それゆえに、クラスの子たちからは目をつけられていていじめられていた。


「まさか安藤さんなんかが北川君に話しかけようなんて思ってないでしょうね?」


「そんなこと……思ってないよ……」


私は女子と視線を合わせようとせず、下を向いていた。

すると、その女子はいきなり私の髪の毛を掴み、引っ張って目を合わせてきた。


「あまり調子に乗らないでよ。あんたなんかに北川君と仲良くなんてさせないから」


「っ……」


私は髪を引っ張られた痛みと、何より怖いという恐怖心から何も言うことができなかった。

女子は私の髪を乱暴に話すと、そのまま離れていった。


「……また赤点だった……」


私は自分の答案用紙を見ると、そのまま自席で回答を直していた。

早くこの時間が終わってほしい。

早く家に帰りたい。

学校なんてなければよかったのにと、何度思ったことだろう。

それでも現実は酷いもので、優しいものなんてなかった。


テストの返却が終わり、今日はそのまま学校が終わった。

ホームルームが終わると私はすぐに教室を後にし、部活動に向かっていった。

私は読書部の部員で、部員はそんなに多くはなかった。

あまり部員同士でも話すことはなく、活動時間内は読書をして終わったから帰るという単純な部活だった。


「失礼します……」


私は二度、部室の扉をノックして中に入ると、部員たちはまだだれも来ていなかった。

部室に入り、椅子に座ると私は一度ため息をつき、そのままカバンから本を取り出そうとした。


「……あれ」


しかし、私のカバンの中に本はなかった。


「ない……どうして……?」


私は必死にカバンの中を探した。

学校が終わるまでは確かにあったはず。

ということは、部室に来る途中に落としてきたという可能性が高いと思った。


「……探しに行かなきゃ……」


私は勢いよく立ち上がると、そのまま部室を飛び出していった。




私は必死になって本を探していた。

部室に行くまでの廊下。

途中にある階段。

職員室の忘れ物ボックス。

どこを探しても、私の本が見つかることはなかった。


「……大切な……本なのに……っ」


私は涙目になりつつも、必死になって本を探し続けていた。

しかし、どこを探しても見つかることはなく、残るは自分の教室のみとなった。


「ここに……あるのかな……」


教室の中になかったらどうしよう、他に探すところもない。

そんなことを考えつつも、教室の扉に手をかけようとした。

しかし、私は教室の扉を開けることができなかった。


「ねえ、ほんと安藤さんうざくない?」


「わかる~、力がない自分可哀そうとか思ってるんじゃない?」


教室の中からは、クラスメイトの女子たちの声が聞こえてきた。

私はついその会話を耳にしてしまい、教室に入ることができなかった。


「あれ、何してんの?」


私が教室の前で棒立ちになっていると、不意に後ろから声をかけられた。

私はびっくりしながらも、バッと後ろを振り返った。


「あれ、君は……」


そこには、北川君が立っていた。


「あ……その……」


私はうまく話すこともできずに、下を向いてしまった。


(そういえば、今まではっきり見たことなかったけど……)


私はちらちらっと北川君を見てみた。

男子にしてはやや長めの金髪、耳にはピアスをしていた。


(……って、明らかにチャラ男じゃん……!!)


心の中で私はそう思いながらも、視線を合わせようとはしなかった。


「何してんの?忘れ物?」


北川君は私に問いかけてきた。

よく考えてみたら、この中学校に入ってからまともに人と話していなかったため、問いかけにすぐ答えることができなかった。


「えっと……その……」


私がもごもごとうまく話せずにいると、教室からは止まることなく私の悪口が聞こえてきた。


「ていうか知ってる?安藤さん、また赤点とったらしいよ?」


「またなの~?そんなにできないなら、いっそやめちゃえばいいのにね~」


話題が尽きることがないのか、私のことを延々と言い続けていた。

私は北川君の問いに答えようともしたけれど、結局答えられずにいた。


「ああ、なるほどね。ちょっと待ってて?」


すると、北川君は私に小声で言い残すと、勢いよく教室の扉を開けた。

扉を開けると中にいた女子たちもびっくりしたようで、北川君に視線を向けていた。


「あ、ごめん。先生に教室のごみ捨てを頼まれちゃってさ?悪いんだけど少し出ててもらえる?」


北川君が女子たちに語り掛けると、そのままカバンをもって女子たちは教室から出て行った。

教室から出る際に私と視線が合った気がしたけれど、女子たちは何も言わずにそのまま立ち去った。


「教室に人がいたから入れなかったのかなって思ってね?」


教室から北川君が顔を出すと、私に一度ウインクしてきた。


「……よくわかったね」


私は勇気を振り絞って北川君に話しかけてみた。


「そりゃあ、あんな話が聞こえてきたら入りにくいだろうなって思ったからさ?」


北川君は私の背中を軽く押すと、教室の中に入れた。

私は驚きながらも北川君のほうを向いた。


「あ、別に俺先生にごみ捨てとかお願いされてないからさ?」


「え……じゃあ……」


ごみ捨てを頼まれていないのに、なんであんなことを言ったの?

そんなことを聞こうとしたけれど、やはり面と向かって話すことができなかった。


「安藤さんが困ってたから、かな?」


しかし、私が聞きたいことをくみ取ったかのように北川君が答えた。

だけど、私がびっくりしたのはその点だけじゃなかった。


「私の名前……知ってたの……?」


私は自分の名前を覚えられているということに驚きを隠すことができなかった。

基本的に教室では誰とも話さなければ、先生も察していたかのように指名されなかった。

それゆえに、私の名前を覚えていないという人のほうが多かったのだ。


「そりゃあ、あんだけ目立ってたら気になるじゃん?」


だけど、北川君は下を向き続けている私の頭に手を乗せた。

私ははっと顔を上げると、すぐ近くに北川君の顔があった。


「えっと……何か……?」


「っていうか安藤さん、何の用があってここに来たの?」


北川君に聞かれると、私は目的を思い出した。

そうだ、私は本を探し出さなければいけないのだった。


「そうだ……本……」


私は急いで教室の中に入ると、自分の机に向かって駆け足で行った。

しゃがみこんで机の中を覗き込むと、そこには何もなかった。


「そんな……」


私はぺたんと教室の床に座り込んでしまうと、後ろに北川君が立った。


「あ、もしかしてこの本安藤さんの?」


私はゆっくりと振り返り、北川君の持っているものを目にした。

彼が持っているのは、間違いなく私の本だった。


「それ……どうして……?」


私は北川君から本を受け取ると、なんで持っていたのか聞いてみた。


「教室の掃除をしててさ、みんな安藤さんの机運びたがらないから俺が運んでたんだよ。そしたら中に本が入っててさ。ずっと置いておいたら隠されたりするんだろうなって思ったから持ってた」


にっ、と笑いながら私に経緯を説明してきた。

確かに、そんな理由がなければ私のものなんて持っていたくないだろう。


「その……ありがと……」


私は短く北川君にお礼を言うと、急いで教室を後にしようとした。


「あっ、待って!」


走り去ろうとする私の腕を強く北川君は掴んできた。


「っ……何……?」


私は今すぐにでも部室に戻って一人になりたかった。

だから、北川君に少し冷たい態度をとるようにしながら用件を聞いた。


「前から思ってたんだけどさ。安藤さん、髪の毛の手入れとかちゃんとしてんの?」


しかし、北川君の口から出た言葉は予想外の言葉だった。


「とくにはしてないけど……それが何か……?」


他の人から見られるわけでもないし、今更そんなことをする必要ないと思っていた。

それよりも、他の人と同じように北川君も私のことをいじめてくると思っていたから、そのことに戸惑いを隠せずにいた。


「ちょっとこっちに来て」


ぐいっ、と北川君は私の手を引いて廊下を走っていく。

あまり運動が得意ではない私は、北川君が走る速さに追いついているのにも驚いていた。


(これ……スピード合わせてくれてる……?)


しかし、それについてはあまり考えないことにした。




北川君は水道の前で立ち止まると、私の腕を離した。

そして私にそこで待っているように言うと、バケツに水を溜め始めた。


「……それ、何するの……?」


私は恐る恐る北川君に尋ねてみた。

バケツなんて、今まで女子たちが私に水をかけるのに使っているのしか覚えがない。


(やっぱり、北川君も私のこといじめるよね……)


少しは北川君のことを信じようと思ったりもした。

もしかしたら、北川君はほかの人と違って私をいじめたりしないんじゃないか。

そんな期待もしそうだったけど、バケツに水が溜まっていくにつれて現実を思い知らされていた。


「よしっと……」


北川君はバケツに水が溜まると、そのままバケツを床に置いた。

私は水をかけられると思い、ぎゅっと目を閉じた。


「安藤さん、ちょっとそこにしゃがんで?」


しかし、北川君は水をかけることをせず私にしゃがむように言ってきた。

私は不思議に思い、恐る恐る目を開ける。

すると、水をかけようとしてる風には見えない様子で、北川君はこっちを見ていた。


「……?」


私は言われたとおりに北川君の前にしゃがむと、北川君はバケツから片手で少量水をすくった。


「冷たかったらごめんな?」


北川君は私にそう言いながら、私の髪の毛に水をかけた。

しかし、北川君は私が水で濡れないように注意を払っていたようだった。


「濡れてはないよな?」


「うん……大丈夫だけど……」


私は北川君が何をしているのか理解できずに、ただされるがままでいた。

すると北川君は、私の濡れた髪を手で優しくほぐし始めた。


「髪の毛ってのはな、一回濡らすと癖が抜ける。その状態なら、髪形も直せるんだよ」


北川君は私の髪を慣らすと、そのままドライヤーを取り出した。


(って、学校にドライヤーもってきてるの!?)


私はむしろ、学校に持ち込んでいることに驚いていたけれど、その間に北川君は私の髪を手際よく乾かしていった。


「よしっと……これでいいだろっ」


北川君は私の髪を乾かし終わると、手鏡を渡してきた。


「これ……」


そこに写っていたのは、さっきまでのボサボサの髪の私ではなく、普通のストレートヘアの私だった。


(髪の毛……こんな風にできるんだ……)


私は内心自分の髪がここまで綺麗になることがあるなんて思ったことがなかった。

だから、余計に驚いていた。


「安藤さんも女子なんだからさ、もうちょっと髪の毛に気を使ってあげなよ」


北川君はまた笑いながら、私にそう言ってくる。


「その……私、あまりそういうの慣れてなくて……クラスメイトからもこんな風にしてくれたことないし……」


学校にドライヤーを持ち込んでくるなんてイレギュラーなクラスメイト、いるはずもないんだし経験ないのも普通か。

内心そんなことを思いながらも、とりあえず黙っていた。


「それなら、俺がやってやろうか?」


北川君の口から、またしても想像だにしない言葉が出てきた。


「いいよ……自分でやる……」


流石に毎日やってもらうなんて迷惑だろうと思った。

それに、やっぱり私はボサボサのままでも困らないなと思ったのだ。

しかし、隙を突いたかのように北川君は大声を上げた。


「やるって言ったな!?絶対だからな!?」


「……あっ……」


うっかりしていた。

確かに私は、北川君が毎日やらなくとも自分でやると言ってしまったのだ。


「てか、安藤さん可愛いんだし絶対髪の手入れしたほうがいいって」


「そんなこと……言われたことないし……」


「言われたことがないなら、俺がいくらでも言ってやるよ。こうしてたほうが、絶対安藤さんは可愛いんだから」


こんなに可愛い可愛いって何度も言われたこと、女子にすらない。

それでも北川君は私に何度も可愛いと言ってきた。

しかしその時、教室のスピーカーからは下校時刻のチャイムが鳴った。

急いで部室に戻って、カバンを取ってこないといけないことにふと気が付いた。


「ごめん……いろいろとありがと……私もう行かなきゃ……」


私は急いで立ち上がると北川君にお礼を言い、そのままその場を後にしようとした。


「あ……」


しかし、部室に戻ろうとした私は、一度後ろ向いて先程からしゃがんだままの北川君に一つ、聞いてみた。


「あの……名前……」


そう、私はいじめられている。

だから、他の人のフルネームなんて基本覚えていなかったのだ。


「……ははっ、ははははははははっ!!!」


私の質問を聞くと、北川君は大きな声を上げて笑い始めた。

私は馬鹿にされたと思い、顔を赤くしながら走って去ろうとした。


「……北川 健斗(きたがわ けんと)。それが俺の名前だ、安藤真美!」


私は後ろから大声でフルネームで呼ばれると、自然と後ろを向いていた。

そこには、自らの名を教え笑いかけてくれる北川君が立っていた。


「……ほんとに、いろいろとありがと……」


私はまた小さな声でお礼をいうと、今度こそ走り去った。

曲がり角を曲がる瞬間、北川君が私をずっと見ていたのを一瞬だけ見た。

北川君は、私がちらっと見たのを知っていたかのように手を振った。

私はそのまま急いで部室へと戻り、カバンをもって学校を後にした。

帰る途中、廊下を見たが既に北川君は下校していた。




……中学校に入学して以来、こんなにも気持ちが軽いことなんてなかった。

別に、クラスメイトからの扱いが変わるわけではない。

いじめがなくなるなんて思ってもいない。

それでも、たった一人のおかげで明日もまた、学校に行きたいなんて思っていた自分に……正直驚いていたのだった……



どうも皆さん、お久しぶりの方はお久しぶりです。

初めましての方は初めまして。

しいなです。

今回は「いじめ」というのをテーマに、今までの経験を活かして書いてみました。

正直この話、個人的にはあまり得意なものではないんです。

いじめっていうのは、人を傷つけるし苦しめる。

そんなことして何が楽しいと何度考えたことか。

この世の中から、そんなつまんないものなくなればいいなという個人的な思いをすべてぶつけていく話にしていきたいなと思っています。

まだまだ文章がなってなかったりするかもしれませんが、これからお付き合いしていただければ幸いです。

それでは、また次回をお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ