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はんぶんこ天使  作者: 和泉 利依
私にできること
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 私は、萌ちゃんに顔を近づける。

「モデルだって」

「確かにみんな、かわいらしいわよね」

「でも、モデルなら写真に残っちゃってるでしょ? 髪が短くなっているの、どう思っているのかな」

「ああ、長かった時の写真を見た時に、時間の感覚が狂うようにしてあるの」

「どういうこと?」


「その写真が、もうずっとずっと前のことだ、って錯覚するような暗示をかけてあるのよ。自分の長い髪を見ても、あの頃は長かったなあ、って思うようにね」

「へー、そんなこともできるんだ」

 天使の力って、なんか私の思っていたのと違うなあ。かといって、どういう力と思ってたのかって言われても困るけど。


「ねえ、だったら、次に狙われそうな子をもっと絞り込むことができるんじゃない?」

 私の言葉に、萌ちゃんは何かを考え込むように、じ、と手元の紙を見た。

「そうね。さっき莉子ちゃんが言っていた本でモデルをやったことのあるこの学校の女子って、他に誰がいるのかしら」

「私もチェックしているわけじゃないから、すぐにはわかんないなあ。学校にも『やつきガーデン』って置いてないし。あ、市立図書館にならあるかな。ママに聞いてみればわかるかも」

「私も見てみたいわ。今後も被害にあうのがこの学校の女子だけとは限らないものね」

「じゃあ、今日の放課後、一緒に図書館行ってみる?」

 話しているうちに、ふと、思い出した。


「ねえ、モデルと言えば、確か六年生に一人、プロのモデルやってる子がいるよ」

「モデル?」

「うん。『やつきガーデン』に載ったかどうかは知らないけど、子供のころからどこかの事務所に所属している本物のモデルさん」

「そんな子がいるの?」

「私がモデルっていって知ってるのはその人くらいだけど……」

 立ち上がった私に、萌ちゃんは顔をあげた。


「美優ちゃん?」

「うちの委員会の委員長が、その子と同じクラスなんだ。ちょっと、様子を見てくる」

「じゃあ、私も一緒にいくわ」

「ううん、私一人で行ってくるよ。あ、髪のこととか天使のこととかは、話さないから。萌ちゃんは、莉子ちゃんと先に教室に戻ってて」

 見に行ったからって何かがわかる自信はないけど……うまくいけば、他のモデルさんの話とか聞けるかもしれない。


 また何かの天使の力を使って、萌ちゃんが倒れてしまったら大変だもん。調べたり話を聞いたりするだけなら、私一人でもきっとできる。


 早くしないと、昼休み終わっちゃう。

 私はいそいで図書館を出た。


  ☆


 図書館を出た私は、階段をのぼって、六年生の教室を目指した。

 最近寒いせいか、お昼休みも教室に残っている生徒が多い。男子はそれでも校庭に出てサッカーをしていたりするけれど、女子はたいてい、みんなで輪になってあみものをしていたりおしゃべりをしていたりする。

 うちの学校は、各学年が四クラスまである。三階について最初の教室は、六年四組だ。そこが私の目指すクラス。ちょうどそのクラスの前に、何人かの女子が固まって話をしていた。 


 あ、みっけ。


「楓ちゃん」

「あれ、美優ちゃん?」

 彼女が、園芸委員長の小野田楓ちゃん。四月から一緒に仕事をしていて仲良くなったお友達だ。

「楓ちゃん、ちょっといい?」

「どうしたの?」

「うん、あのさ、楓ちゃんのクラスに、モデルの人いたよね?」

「仁美さんのこと?」

「だっけ? 名前は知らないけど」

 楓ちゃんは、ドアから首を突っ込んでクラスを見回すけれど、その人はいないようだった。


「今日は来ているわよ。ここ一週間くらい、何かの撮影が入ってるとかでいたりいなかったりだけど。トイレにでも行っているのかな。……あ、帰ってきた」

 きょろきょろしていた楓ちゃんが、私の後ろの方を見て言った。


 振り返ると、数人の女子がこっちへ歩いて来るところだった。一目見てわかった。その真ん中にいる背の高い美人な女の子、きっとあの子だ。他の子もかわいい子ばかりだったけど、全然存在感が違う。

 大きくて黒い目。あごもほっそりとしてて、きゅ、と結ばれた唇が白い肌に浮いてきれいなピンク色をしている。

 遠くからは時々見たことがあるけど、こんな近くであらためて見るのは初めて。やっぱり、きれいな人だなあ。


 うっとりとその人に見とれる私に、楓ちゃんが声をかけた。

「仁美さんに何か用なの?」

「え、ううん、えーっと……友達が『やつきガーデン』に出るって話をしてて、そういえばモデルの人いたな、って思い出したから、どんな人かな、と思って見に来ただけ」

「ああ、『リトルガールズ』でしょ。よくうちの学校の子も出てるよね」

 ちょうどその時、その人たちが私たちの横を通って教室に入っていった。


 できれば話してみたかったけど、なんか……気軽に声をかけられる雰囲気の人じゃないなあ。

 彼女たちが教室に入ってしまうのを待って、楓ちゃんがこっそりと教えてくれる。

「宮崎仁美さんていうんだけど、彼女は小さい頃からプロのモデルだよ? 美人だよね」

「そうだね」

 でも、その髪は、長いけれどふわふわした茶色いくせっ毛だった。パーマかけてるようには見えないから、もともとそういう髪なんだろう。なんにしろ、黒髪じゃないから彼女が狙われることはないかな。

「でも、最近は、あんまりお仕事してないみたい」

「え?」


「私、三年から彼女と同じクラスなんだけど、去年くらいまではしょっちゅうママが迎えに来て学校が終わったらすぐ仕事って感じで忙しかったのよ。でも、今年に入ってからはそれほどでもないかな。レッスンだとかなんだとかで早退、遅刻はあいかわらず多いけど」

「そうなんだ」

「私、ちょっと苦手だな、宮崎さん」

 隣にいた由紀さんが、やっぱり声をひそめて話しかけてきた。楓ちゃんの友達で、よく一緒にいるから私も話すようになった人だ。


「なんで?」

「だって、モデルやってることをすごく鼻にかけててさ、いつもつんつんしてるの」

 面白くなさそうなその声に、一緒にいたその場の女の子たちも口々に同意する。

「そうそう、周りにいる女の子たちもさ、顔で選んでいるよね」

「もうろくに仕事してないくせに、あいかわらずモデル気取りだし」

「私こないだ、今度歌手デビューするって言ってるの聞いたよ。だから今、ボイスレッスンも通っているんだって」

「えー! うっそー」

「まじでー!?」

「ホントホント。芸名が……なんだっけな。なんとかひかりとかなんとか、いいかげんに聞いてたからよく覚えていないけど」

「どうせ口から出まかせでしょ。嘘よ、嘘」

 四、五人の女子がその話で盛り上がり始めてしまったので、私はそっと楓ちゃんに手をふってその場を離れた。


 一応、萌ちゃんには言っておいた方がいいかな。それよりも、由紀さんも、少し短いけど、きれいなストレートだった。


 それから私は、ついでに六年の教室を見て回った。萌ちゃんに何か情報を持って帰りたかったけど……多いのね、ロングヘアの女子って。いちいち名前を覚えきれなくなったころに、昼休み終了のチャイムがなった。


  ☆


「おい」

 教室に入ろうとしたら、廊下にいた颯太が声をかけてきた。


「なに?」

「足、大丈夫かよ。膝」

 急に昨日のけがのことを持ち出されて、私はめんくらう。

「あ、うん。思ったよりひどくなかったよ。ほら、もう大丈夫」


 私は、少しスカートを持ち上げて、まだ大きなばんそうこの張ってある膝を見せた。聞いてきたくせに、ちら、とだけそれを見て颯太は興味なさそうにすぐ目をそらしてしまう。

「ならいいんだけどさ……」

 なぜか、颯太の歯切れは悪い。

「じゃあ、なんで、さっき泣いてたんだよ」

 う。見られてたんだ、図書館で泣いてたの。


「あ、あれは、その……そう、莉子ちゃんが『泣いた赤鬼』持ち出してきたから、ちょっと内容を思い出しちゃって……」

 さすがに本当のことは言えないから、萌ちゃんがごまかした話をそのままする。

「は? なんで急に『泣いた赤鬼』?」

「莉子ちゃんが借りたの。あれで読書感想文、書くんだって」

「マジで? あんなん、低学年向けの絵本じゃん」

「やっぱ颯太もそう思うよね。うちらもそれで書くの、って言ったんだけど……」

 私が苦笑すると、颯太はにかっと笑った。


「なんだ、そういうことか。お前昔から泣き虫だもんなあ」

 言いながら颯太は、私の頭をわしゃわしゃとかき混ぜた。

「わあ、なにするのよ!」

「あんなとこで泣いてるお前が悪いんだよ、ばーか」

「やだ、もう。それとこれとどういう関係があるのよ」


 その手から逃れようと暴れていると、運動着を着た慎くんが教室から顔を出した。


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