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はんぶんこ天使  作者: 和泉 利依
黒いもや
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- 2 -


 トイレに行ってくる、と言ってたけどそこに莉子ちゃんはいなくてあちこち探したら、ベランダの端の方でうつむいている莉子ちゃんを見つけた。

 やっぱりその背中には、黒いもやがゆらゆらと揺れている。大きさは、さっきと変わってない。

 私はその後ろから、そ、と近づく。


「莉子ちゃん」

 黙って振り向いた莉子ちゃんは、怒っているというより、なんだか途方に暮れているような顔をしていた。

「もう五時間目始まるよ? 教室に戻ろう」

「やだ。私なんて、いない方がいいんだよ」

 そう言って、また中庭に目を向けてしまう。

「そんなことないよ。ね、一緒に、戻ろう」

 隣りに座って、きゅ、とその手を握ると、莉子ちゃんは向こうを向いたまま呟いた。


「あんな言い方したら、菜月が怒るのは当然だよね」

「莉子ちゃん、わかっていたの?」

「うん……」

 菜月ちゃんは、うなだれたように地面を見た。

「私ね、最近、自分の気持ちがコントロールできないの。まるで、自分が自分じゃないみたい」

 その言葉に、どきりとした。

 やっぱり、あの黒いのが原因なのかな。

 莉子ちゃんは、小さい声で続けた。


「あんなこと言ったら、みんなに迷惑をかけるのも嫌な思いさせるのも、途中で気づいたの。なのに止められなかった。家でも、そうなの。毎日毎日、ママとけんかばかり……きっとこんなんじゃ、皆に嫌われちゃうね」

「じゃあ、謝ろうよ」

「美優……」

 莉子ちゃんは、ゆっくりと振り向く。泣きそうな莉子ちゃんの目を、まっすぐに見つめた。

「悪いと思ったら、謝ろう。それで、また一緒に遊んだりご飯食べたりしよう。一人で謝るのが嫌なら、私も一緒に謝るから」

「でも、美優は悪くないじゃん」

「そうだけど……でも、ほら、いつも一緒だよ、って、私言ったもん。私が莉子ちゃんの青い羽根になるって、前に約束したでしょ? 私はずっと、莉子ちゃんの味方だよ」

 しばらく私の顔をまじまじと見ていた莉子ちゃんは、少しだけ笑った。


「美優なんて、ドジだしのんきだし……味方にしてはずいぶん頼りないよね。いてもいなくても変わらなそう」

 う。

「そ、それはそうだけど、でも、誰もいないよりは少しはましかなあって……」

 とほほ。やっぱり、人を嬉しくさせることって難しいなあ。

 がっくりとしょげかけた時、莉子ちゃんの背中にあった黒いもやが急に一回り縮んで、私は目を丸くした。

 え? なんで急にあの黒いの小さくなったの? あの黒いのが小さくなるってことは……

 は、と、そのことに気づいて、私も嬉しくて泣きそうになってしまった。

 莉子ちゃん、口ではあんなこと言ってるけど、喜んでくれたんだ。私は莉子ちゃんの味方だって、信じてくれたんだ。

 すごく、すごく、嬉しい。

 人を嬉しくさせることって、自分もこんなにも嬉しくなれるものなんだね。

「……ありがと」

 弱々しく言った莉子ちゃんに、私はにっこりと笑い返した。


  ☆


 少し遅れたけど、私たちは急いで教室へ戻った。

 算数の授業では、いつもの莉子ちゃんらしくはきはきと発言していて、私は、ほ、とした。五時間目が終わった時に、菜月ちゃんに謝ることもできた。菜月ちゃんはちょっとめんくらってたけど、別にいいよ、と仲直りしてくれた。

 雲行きが怪しくなってきたのは、六時間目の学級会の時間だ。


「では、児童会祭でのうちのクラスの出し物は、ペットボトルボウリングに決まりました。次回の学級会からは、児童会祭の準備に入ります。これで、今日の学級会を終わります」

 代表委員の慎くんが言ったとき、ちょうど六時間目が終わるチャイムがなった。そのまま当番が挨拶して、今日の授業は終わりになった。

「ようやく決まってよかったね。莉子ちゃん」

 私は、そおっと莉子ちゃんの様子をうかがう。と、やっぱり莉子ちゃんは、口をへの字にして、む、としてた。

 あー、やっぱり、莉子ちゃんは面白くないんだ。


 うちの学校では、毎年十一月に、児童会主催の児童会祭が行われる。四年生以上の各クラスがそれぞれ工夫を凝らした催し物をして、三年生以下の下級生に楽しんでもらうものだ。

 実は、ここ一週間くらい、その児童会祭での出し物は、ずっと学級会の議題になっていた。ペットボトルボウリングをやりたい派とクイズ大会をやりたい派がいて、どちらにするかを決められずにいたのだ。

 結局ペットボトルボウリングに決まったのだけれど、莉子ちゃんはずっと、クイズ大会をやりたいと推し続けていた。


「ペットボトルボウリングなんかよりも、絶対にクイズ大会の方が盛り上がるのに」

「だから、それはみんなで話し合ったことじゃない」

 クイズ大会だと、確かに内容次第では盛り上がるかもしれない。けれど、一年生から三年生までのみんなが同じように答えられる問題を作るのは難しいと意見がでたのだ。難しいのはペットボトルボウリングも一緒だけど、そこは、投げる位置を調節することで、どちらかと言えばクイズ大会よりも年齢に合わせてできるんじゃないか、と最終的に話がまとまった。

 莉子ちゃんはクイズ大会を推していたけど、私から見たら、最後には、内容よりも自分の意見を通すことになかば意地になっている感じがした。


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