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はんぶんこ天使  作者: 和泉 利依
聞いてないよ!
17/30

- 3 -

「な、なんだ、颯太かあ。心臓、止まるかと思った……」

 私は立ったまま、ばくばくいっている心臓を押さえた。ああ、びっくりしたあああ。


「何やってんだ、お前」

 不思議そうな颯太に、私は委員会の資料を作っていることを話す。颯太はあきれたような顔で、山積みになっているアンケート用紙を見た。


「これ全部? 今日中にできるのか?」

「無理だとは思うけど、明日来てからじゃもっと無理。今日のうちにできるだけやっとかないと……」

「ばかだな、なんでそんなの一人で引き受けたんだよ。やるってったんだから谷本にまかせときゃよかったのに。明日怒られたって、そりゃ谷本の責任だ」

 呆れたような颯太の声に、なんだか情けない気持ちで胸がいっぱいになる。

「でも、これがないと、明日の委員会でみんなが、困るし……楓ちゃんも……」

 話しているうちに喉がつまって、涙が浮かんできた。


 瑠奈ちゃん、ひどいって、本当は私も思ったんだ。やると言ったことをやらなかったり、文句言われるってわかってる嫌なことを、私にまかせたり。

 でもそれよりも、ちゃんと先生に説明できなかったこととか、班長さんたちに怒られた事とか、自分がはっきり言えなかったことの方が、悔しかった。違う、と言えなかった自分が、情けなかった。


 ちらりとこっちを見た颯太が、ぎょ、とした顔になる。

「おま……な、泣くなよ」

「な、泣いてな……ふえ……颯太あ……」

 そう言いながらも、ぽろぽろと涙が止まらなくなる。颯太は、がりがりと頭をかきながら大きくため息をついた。

「相変わらず美優は泣き虫だなあ」

 すると、なぜか颯太が私のとなりの席に座った。


「颯太?」

「貸せよ。手伝ってやる」

 手を出す颯太に、私は濡れた目を瞬く。

「いいの?」

「仕方ねえだろ。お前ひとりじゃ、いつ終わるかわかりゃしねえんだから。用紙ってこれか?」

 颯太はアンケートを取りあげると、黙々と集計をしていく。ぶっきらぼうな言い方だけど、一緒にいてくれることに、ほ、として、私ももとの席に座ると、涙をふいて集計を再開した。


「あのさあ」

「うん」

 しばらくして、下をむいたまま、颯太が言った。

「お前は全然、悪くないから。だから、お前が泣くことないんだぞ」

 私は、思わず手元を止めて颯太を見た。

 

 颯太……なぐさめてくれるの?

 そう思ったら、私の顔に、自然に笑みが浮かんだ。

「ありがとう、颯太」

 颯太みたいに、わかってくれる人もいるんだ。さっきまで苦しかった胸の中が、嘘のように、すう、と軽くなる。 

 颯太は、ちょっとこっちを見ると、おう、と短く答えてまた手元に目を落とした。そうして二人で、黙々とアンケートの集計を終わらせていく。


 とっぷりと日が暮れたころ、また児童会室の扉ががらりとあいて、教頭先生が顔を出した。

「おや、児童会のお仕事ですか?」

 今度は颯太が一緒だったので、それほど驚かなくてすんだ。

「はい、園芸委員です」

 私が答えると、教頭先生は私たちの手元の資料に目を落とす。


「明日の委員会の資料ですか。おやおや、これはずいぶん大変な量ですね。まだかかりそうですかな?」

「ちょうど終わりましたー」

 伸びをしながら颯太が答えた。

 二人でやったおかげで集計は終わったので、あとはこれを清書するだけだ。それだけなら、家に帰ってからでもできる。


「そうですか。完全下校の時間は過ぎてますよ。さあもう帰りなさい。君たち、同じ地区ですか?」

「はい」

「じゃあ、一緒に帰れますね。外は暗いですから、気をつけて帰ってください」

「はーい」

 先生は、戸締りの確認に来たらしく、姿が見えなくなると今度は隣の教室の扉が開く音がした。


「颯太、ありがと! 手伝ってくれたおかげで、終わったよ。それに、一人でここにいるの、ちょっと怖かったし」

「すごい驚き方してたもんな、お前」

「あれは、驚くよ。だって……」

 ランドセルにノートと筆箱をしまいながら話していて、ふと、気づいた。

「あれ? そういえば、颯太はなんでここに?」

 児童会室は低学年棟にあるから私たちの教室とは離れているし、この階には他に誰かが来るような部屋もない。


「……なんだっていいだろ」

「いいけど、なんか予定があった? 無理させちゃったら悪いじゃない」

「手伝うって言ったのは俺なんだから、お前は気にすんなよ」

「そう? 私はすごく嬉しかったけど……」

 颯太は、廊下へ向かいながらぼそぼそと続ける。


「お前、校庭でやたらばたばたしてたし、なんか文句言われてるみたいだったし……俺が帰る時に見たら、まだ靴あったのに教室にはいなかったし……」

「え、ごめん。聞こえない。何?」

「別に。行くぞ」

「え、あ、ちょっと待って!」

 いきなり児童会室の電気を消されて、部屋の中が暗くなる。私はあわててランドセルを背負うと、颯太のあとを追った。


  ☆


「……では、各班長はそれぞれの意見をお願いします。えーと、まずは記録班から」

「はい」

 楓ちゃんが言うと、まずは関根さんが立ち上がった。

「記録班では、これまで日誌のかたちで残していた花壇などの記録を、来年からはデータ保存も加えていくことを提案します。写真などのデータもプリントせずに必要な物だけそのまま……」

 その後に、道具班、広報班、会報班と続いて、問題なく議題は終了した。

 無事終わってよかったあ。昨日、走ったかいがあったよ。

 私は、ほ、と胸をなでおろす。


 一応前回の委員会では各班長にまとめるように話は出ていたから、昨日渡したプリントもちゃんと内容がまとまっている。でも、悪いことしちゃったことにはかわりないもの。今度は気をつけよう。うん、確認大事。

「次に、学級で使用する花壇について話し合います。先月全校からとったアンケートの結果ですが、このようになりました」

 楓ちゃんに言われて、私は用意していたプリントを配るために立ち上がろうとした。


「あ、私がやるから相葉さんはいいよ」

 すると、急に隣に座っていた瑠奈ちゃんが小さな声で言って、私の手からプリントを持ち上げる。

「え、でも……」

「いいっていいって。昨日はまかせちゃったからこれくらい」

「そう……?」

 戸惑いながらも、私はまた着席した。瑠奈ちゃんは、手にしたプリントを一枚づつ配り始める。


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