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はんぶんこ天使  作者: 和泉 利依
聞いてないよ!
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- 2 -

「相葉さんに言ったってしょうがないだろ、周」

 私がうつむいて話を聞いていると、日比野さんが勝屋さんをやんわりと止めた。


「おおかた、ぐずぐずしてた谷本が、そうやって文句言われんのが嫌で相葉さんに押し付けたんだろ。相葉さん、また同じようなことがあったら、はっきり嫌だって断っていいからね」

 てっきり日比野さんにも怒られると思ってたから、気づかうような言葉を聞いて私は日比野さんを見上げた。勝屋さんも、驚いたように日比野さんを見返す。


「よくわかるな、まあさん」

「俺、去年も谷本と同じ委員会だったんだよ。あいつ、自分からいろいろやりたがる割にはいいかげんな仕事しかできなくて、結局かなり委員会の中がひっかきまわされてすごい迷惑したんだ。だからきっと、今回もそうなんだろうな、と」

「へえ。そうだったんか。ごめんな、相葉さん、きついこと言って」

「いいえ」

 ぶんぶんと首を振る。


 あれ? 


 勝屋さんの肩にあった黒いの、見えなくなってる? あ、小さくなったんだ。よく見れば、勝屋さんの顔、さっきより穏やかになってる。

「プリント、ありがとな。谷本のことは、委員長にもよく言っておく」

 そう言って、日比野さんたちは帰っていった。私は、その背中を見送る。勝屋さんのもやは肩より下まで小さくなっている。けど、笑っていた日比野さんの背中にも、黒いもやは張りついていた。


 あ、そうか。日比野さん、瑠奈ちゃんに怒っているんだ。

 怒ったりするとあれは大きくなるし、逆にその怒りが収まれば小さくなるってことかな。悲しみやねたみだけじゃなくて、怒っていてもあれはでてくるんだ。

 でも、そういうのがわかっちゃうのって、人の心をのぞいているみたいで落ち着かない。これ、また見えなくなることってないのかな。

 そもそも、なんでそんなものが私に見えるんだろう。天使だった萌ちゃんと一緒にいたから?

 とりあえず、人には言えないなあ。

 私は、昇降口に放り出してきたランドセルを取りに校舎へと戻ることにした。


「相葉」

 ところが、帰ろうとしたところで中尾先生に声をかけられた。

「はい」

「あれ、どうなってる? 明日の資料」

「あ、各班長には、明日の委員会で班の発表ができるようにお願いしてあります」

「そうじゃなくて、明日の委員会につかうアンケートの集計。出来上がったら目を通すから俺んとこ持って来いって言っておいただろ。まだ来てないぞ」

「それは、谷本さんが担当なので彼女に聞いてみないと……」

「谷本? さっき帰りがけに会ったんで聞いたら、『相葉さんにお願いしてあります』って言ってたぞ?」

「え?!」

 瑠奈ちゃん、さっきはプリントのことしか言ってなかったよね。アンケートもなの?!


「どういうことだ? まだまとめてないのか?」

 ぎろりと迫力のある顔でにらまれると、きゅう、と胸が苦しくなる。私は何も答えることができずに、はい、と小さな声で言っただけだった。

「委員会は、明日だぞ。何やってんだ、副委員長」

 確かに、その資料は副委員長に任された仕事だった。だから、たとえ一人でやると瑠奈ちゃんが言ったからって、それを確かめなかったのは私の落ち度だ。


「すみません」

「明日までに必ず用意しとけよ」

 そう言って中尾先生は、校舎へと戻っていった。

「はい……」

 情けない声で返事をすると、私はのろのろとまた上履きに履き替えた。

 とりあえず、アンケートがどうなっているのかだけでも見てこよう。


 先生の言ってた資料は、先月全校生徒から集めたアンケートの集計のことだ。明日は、その結果をもとに話し合いをする予定なので、その集計結果がないと話し合い自体ができなくなる。

 瑠奈ちゃん……きっと集計はやってあるよね。中尾先生に言ったのは、プリントのことなんだよね。

 自分に言い聞かせるように考えながら児童会室へ入ると、電気をつけて園芸委員の棚の中を探す。目当てのアンケートはすぐに見つかったけど、一緒に入っていたまとめられているはずの集計表は真っ白なままだった。

「はああああ」

 大きくため息をついてランドセルを下ろすと、私は筆箱を取り出して長机に座った。


 明日学校に来てからやったんじゃ、多分、間に合わないし、家に持って帰るのもこの量じゃ無理だ。今日のうちにできるだけやっておこう。

 一人でノートをひろげて集計を続けていると、だんだん窓の外が暗くなってくる。まだ先生たちは学校の中にいるはずだけど、しん、とした校舎は少し、怖い。

 やだな。

 こういう時に限って、怖い話とか思い出しちゃう。

 この学校にももれなく学校の七不思議みたいなものはあって、私はそういうの苦手なんだけど、莉子ちゃんが面白がって聞いて来るんだ。確かこの棟には、揺れる影、ってい

 がらっ。

「きゃっ!!」

 急に児童会室の扉があいて、私はいすから飛び上がるほど驚いた。

 振り返ると、そこにはなぜか颯太が立っていた。


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