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はんぶんこ天使  作者: 和泉 利依
聞いてないよ!
15/30

- 1 -

 読書感想文も無事提出して一日が終わり、帰ろうとした時だった。


「あ、いたいた」

 私がランドセルを背負ったところで、教室の入り口から瑠奈ちゃんがひょっこりと顔を出した。

「美優ちゃん、ちょっといい?」

「どうしたの、瑠奈ちゃん」

 瑠奈ちゃんは、私と同じ園芸委員の副委員長だ。ああ、そういえば、明日使う委員会資料の確認しようと思ってて、萌ちゃんのさわぎですっかり忘れてた。


「これ、お願いできないかな」

 瑠奈ちゃんは、手に持っていた紙の束を、ずい、と私に向かって差し出した。受け取って読んでみると、それは明日の委員会の進行表だった。

「私の分?」

 あれ? それにしては、なんか多いな。

「お願い、各班長に配っておいて」

 拝むような手をして、瑠奈ちゃんは私を見上げる。

「配ってって……まだこれ、渡してなかったの?!」

 私はおどろいて瑠奈ちゃんの顔を見返した。


 このプリントは、事前にそれぞれの班長に渡して、各班の意見を用意しておいてもらうために必要だったはずだ。先週の委員会の時に瑠奈ちゃんが作って配ることに決まっていたから任せておいたのに、なんでこれがまだここにあるの?!

「ちょっと忙しくてさあ……これ書くのに時間かかっちゃって。ようやくできたんだけど、私、今日バレエのレッスンがあってすぐ帰んなきゃいけないのよ」

「ええっ! だって、もうみんな帰っちゃったかも……」

「いる人だけでいいから。ね、お願い! じゃ、よろしく」

「あ、ちょっと、瑠奈ちゃん!」

 笑顔のまま瑠奈ちゃんは私に手を振って、すごい速さで行ってしまった。残された私は呆然として立ちすくむ。


「美優? なにそれ」

 教室から出てきた莉子ちゃんが、私の持っていたプリントに目をおとす。

「莉子ちゃん、私、これ配ってから帰る」

 渡されちゃったものはしょうがないし、これ、今日中に渡しちゃわなきゃいけないプリントだもん。私は大きくため息をついた。

「園芸委員会の? 手伝おうか?」

「ううん、説明しながらの方がいいから、私が直接渡すわ。先帰ってて」

 そう言うと、私はあわててろうかを走り出した。


 渡されたプリントは、全部で四部。ええと、まずは……これ一組じゃない。瑠奈ちゃん、同じクラスなら渡しといてくれたらよかったのに!

「牧田さん、いますか?」

 幸い教室にはまだ数名の生徒が残っていて、目当ての人物もいてくれた。

「相葉さん、私? どうしたの?」

「これ、急で悪いんだけど」

 牧田さんは、私から受け取った資料に目を落としてうなずいた。

「ああ、先週言ってたやつね」

「うん。それで、この部分、三番の来年度への要望項目のとこ、明日発表できるようにしておいてほしいの」

「はあ?! 明日?! 連絡こないから、もっと後かと思っていたのに」

 案の定、牧田さんは不機嫌な顔になった。と、同時に、肩の向こうから黒いもやが伸びてくる。

 そうだよね。む、とするよね。


「本当に、ごめんね。お願い」

「まあ、だいたいまとめといたからいいけど……今度はもっと早く持ってきてよ」

 それから、同じく五年生の関根さんを廊下で見つけた。プリントを渡して説明すると、やっぱり牧田さんと同じように不機嫌になってしまった。平謝りして、なんとかお願いする。

 あとは、六年生だ。また怒られたらやだなあ。


「すみません、日比野さんいますか?」

 六年四組の教室をのぞくと、女子が二人いただけだった。

「日比野? もう帰ったよ」

 遅かった……

 少し息を切らしている私に、その女子が首を傾げた。


「何か用だったの?」

「はい。明日の委員会の資料を渡したかったんです」

 机の上に置いとこうかな。でも、当日の資料を何の説明もなく机の上に置いとかれたら、いい気分はしないよね。できれば直接渡したいから、仕方ない、明日の朝にでも……

「あ、あそこ、日比野じゃない?」

 もう一人の女子が、窓の外を見ながら言った。

「ほら、校庭のとこ」

「ありがとうございました!」

 私はあわてて教室を飛び出す。階段を駆け下りて昇降口へ向かうと、あわてて日比野さんを探した。


「日比野さああああん!」

 まさに校門をでようとした日比野さんに声をかけると、一緒にいた数人の男子も振り向いた。

「相葉さん?」

 驚いたような日比野さんの前で息を整える。

「あのっ……これ……明日の……資料……」

 ぜいぜい言いながら持っていたプリントを渡す。それを受け取った日比野さんは、ざっと目を通した。

「ああ、これな。連絡こないから、どうしたのかと思ってた。でも、なんでこれ、相葉さんが持ってくんの? 確か、谷本がやるって言ってなかった?」

「そうなんですけど、彼女、今日は早く帰らなきゃならないみたいで、さっき預かって……」

「委員会って、明日の?」

 一緒にいた男子のうちの一人がそのプリントをのぞきこむ。あ!


「勝屋さん! これ、勝屋さんの分です」

 よかったあ。二人、ちゃんと渡せたあ。

 私から受け取ったプリントを見た勝屋さんは、前の二人と同じように不機嫌な顔になる。

「来年度への要望って、明日出さなきゃダメなの?」

 その背中から、ぐわあっと黒いもやが立ち上がってきた。

 うわあ、すごい怒っている。


「は、はい。明日の議題として載っているので……」

 勝屋さんは、む、とした顔で私を見下ろした。

「これさ、各班長に連絡します、って言うからこっちは待ってたんだよ。なのになんの連絡もないから、てっきりその次になったのかと思ってた。なんでこんなぎりぎりで持ってくんの? 俺ら、これからこの項目まとめなきゃならないんだよ?」

「すみません……」


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