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雲海

 カッピカピのパンと干し肉は私の水分を一気に吸収して気管に入っていくところだった。あわやパンと干し肉で溺れ死ぬ光景が目に浮かんだが、なんとか九死に一生をえた。

 肩で息をし、目に溜まった涙を拭く。


 み、水が欲しい…。


 と思ってしまった。

 思った途端、水の友人のリテレリアさんが親切にも、私の頭を包み込むようにして水の球を出してくれた。赤ん坊には水がかからないようにしてくれていた、なんて優しい方なのだろう!

 感動で、涙が止まらない、息出来ない。


『ガボガボゴボボ、ガボガボガボガボガ、ゴボボガボガボ(リテレリアさん、ありがとうございます。もう大丈夫です。)』


 と、言ったら一瞬にして水の球が消えた。たくさんの水を飲み込んで吸い込んで、喉と鼻の中は十分すぎるほど潤った。

 私はもう、本当に、ビショビショだ。

 赤ん坊に滴らないように、少し離して背中を摩ってゲップを促した。


『助かりました。改めてありが………、って、は?命の恩人…!?貴方が?私の?だから酒を10樽とチョコクッキーを1000枚要求…!?は?…、0が多くないですか?…合ってる……、父上達と飲み会…………そんな!悪徳商法も大概にっ!……いえ!いえいえいえいえいえっ、なんっも思ってません!なんっも言ってません!……今、手持ちがないんです。新しく造らなければ…相当時間がかかってしまいますが……それでいいですか、はい。わかり…』


 友人は私の返答を最後まで聞かず、行ってしまった。

 私は、もう、灰になった気分だった。

 全く見合ってない水の友人の要求は、近く他の精霊達や父上達と飲み会を大々的に開くそうで、友人はその幹事だからなんだそうだ。

 飲み会ばかり開いて、いいご身分だ。

 下請けのことも考えて欲しい。

 溜息をつきながら、赤ん坊がゲップをしたのを確認した。


『君、これから忙しくなるよ。』


 と、赤ん坊に声をかけた。

 食後の休憩もしっかり取ったので、まずは、赤ん坊をお風呂に入れるために、my工場へ向かう。

 赤ん坊を布で包み、しっかりと紐で前抱きにするように固定する。


『父上ぇ!弟ぉ!いっってきまーす!』


 舞台に向かって届くように挨拶をした。耳元で大声を出してたので、赤ん坊は目を白黒させていた。ごめんごめん、と頭をポンポンと叩きながら、足に集中していく。


『よし、行くよ。』


 玄関を目指して、地面を思いっきり蹴りだした。五臓六腑が浮くような感覚とそれに遅れてバンッという蹴りだした音が壁に反響して耳に入ってきた。赤ん坊を両手で抱きながら、玄関と現在位置の距離を考えて空を蹴っていく。

 上昇するにつれて、だんだんと寒くなっていき、水に濡れたままの髪の毛がカチカチと凍りついていくのが感じられた。

 玄関から入ってくる光が大きくなっていく。


『そろそろだよ。』


 赤ん坊に声をかけて、トントンと背中を叩くと、わかった、というように頬を胸につけてくれた。

 光は私たち二人を照らし出した。

 私は玄関の岩の淵に降りれるように、全身を使い調整して、できるだけ衝撃のないように降り立った。


『寒いかもしれないけど、ほれ、見てみて。』


 赤ん坊の頭を覆う布を少しずらして、目の前の景色を見せた。

 眼前は雲の海だった。

 真っ白な模様は複雑に蠢き、海それ自体が、まるで大蛇の群れをつくって私たちの周りを塒を巻いているかのようだ。

 大蛇は地上を忘れたかのように天空を支配していた。


『何故だかね、ここが懐かしい気がしてならないの。おかしいよね。』


 心の中で転がっていたものがポロリと口から出てしまっていた。

 何も言わなかったかのように、赤ん坊がこちらを見ていることを気づいていないかのように、赤ん坊の頭をまた布で覆った。


『さぁ、戻るよ。』


 赤ん坊に言うというより、自分に言い聞かせて言った。

 赤ん坊は強く頬を胸につけてきた。

 私たちは地上へ向かって海へと飛び込んだ。

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