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バター作り

全国のマサオ様、本当にごめんなさい。

 しかし、泣かないというのも考えものだよな…。


 ぼんやり考えながら、ゴツゴツとした急峻な岩場を、安全第一に三点支持で登っている。


 オムツだけじゃなく、お腹空いてたり、寒かったりしてても泣かないわけでしょ。


 いつもだったら、跳ぶようにして登っていくのだが、今回は赤ん坊がいる。何かあったらマズイ。


 これは定期的に見ていかなきゃダメだな。分かるように教えてくれないかな…。


『君さ、お腹空いた時とかオムツ変えて欲しい時とか泣いてくれないと分からないよ?泣かなくてもいいから何か合図くれなきゃさ。』


 応答はない。


 ですよねー。定期的に見ていくか。


 大人しい赤ん坊も何かと大変だ、と思ううちに、岩場の様子が変わってきた。ゴツゴツとした不規則な大きさだった岩から長方形に近くどれも同じくらいの大きさの岩に変わり、周りではゲラゲラという、まるで前世で私がバカをするといつも耳に入る腐れ縁のマサオの笑い声のような、非常に耳障りな鳴き声が聞こえてくる。


  嫌な鳴き声だ。


 眉を潜めながら登っていくと、声の主達が見えてきた。

 声の主は、マルカという鳥である。長方形の岩と岩の間に巣を作る私の膝あたりの大きさの黒い鳥で、巣にいる時はいつもツヤのある羽を羽ばたかせてゲラゲラと鳴いている。 一見無意味な行動だが、これらの行動は天敵である頭は鳥胴体は馬のグリフや世界二位の飛行速度を有するカリマに対する防衛のためである。遠目でマルカ達のこの防衛行動を見ると、得体の知れないデカイ動物が蠢いているように見えるのだ。さらに、ツヤのある羽は太陽光を反射させるため、近寄らせないという効果もある。グリフやカリマは突如として現れるので、巣にいる間だけでもこの行動をする必要があるのだ。

 因みに、私はこの鳥を、親しみを込めてマルカではなく、マサオと呼んでいる。

 マルカ、すなわちマサオは巣にいる間は一気にアホになる。防衛行動で忙しいのと、取り敢えずこの行動をしておけば怖いものはない、と考えているようで、私が触ったりイタズラしたりしても全く反応しないのだ。

 私はマサオの巣に足を乗せ腰についたメクリミルクを入れた革袋を2つ取り出し、1つずつマサオの両羽にしっかりと巻きつけた。これで私の代わりにしっかりと振ってくれる。

 赤ん坊の様子を見たりして、時間を潰しているうちに、チャポチャポと液体がぶつかる音だったのが、ポコポコと固体がぶつかる音に変化していった。その音が変わらなくなったので、マサオの羽から革袋を外し、また腰に下げた。バターの完成である。


『またな、マサオ。』


 そう言い残し、ゲラゲラと笑われる中、また上へと登って行った。

 またしばらく登っていくと、岩の形状がまた変化した。まるで人為的に、いや人為的にこのようなものを作り出すことは不可能だ、非自然的な、巨大な円柱形の白亜のつるりとした石?岩?並びになったのだ。1つ1つがとんでもなく大きく、私が10人いてやっと外面に面する端と端を触れるくらいの大きさだ。目測なのでもっと大きいかもしれない。横幅だけではなく、長さもある。上を見上げれば端はわからず天に突き刺しているのではないか、と思うほどだ。

 この登りが中々体力を消費する。まだまだ鍛錬が必要な証拠だ。

 これらの岩岩は、全くかかりがなく、非常に、非常に、つるりとしていて触れてもすぐ滑ってしまうのだ。だから、今の足場から一気に上まで跳び上がらなければいけない。どのくらい跳び上がらなければいけないかというと、沢山、としか言えない。目の前の光景は規則正しい垂直の岩線と白亜の岩肌で変わらないのに、気温は一気に下がり、雲をいくつも突き抜けていくのだ。

 そういうわけで、私は一気に中の‘何か’を四肢に集中させて、メクリの時以上に丁寧に筋肉の繊維1本1本にまで巡れるようにして、それを浸透させていった。赤ん坊を腕に抱き、そして、一気に跳ねた。

 眼前は白亜とただの線。

 見慣れている光景だが、この時間がその退屈なその光景と相まって実に長く感じられる。何度か寝落ちしたこともある。しかし、今日は赤ん坊がいるので退屈しなかった。腕の中の赤ん坊はモゾモゾと何やら動いている。


『どうした?』


 勿論返答はない。ミルクかオムツか、若しくは寒いか…。しかしここで上着を脱げば、この赤ん坊はすぐ凍りついてしまうだろう。ぽんぽんと、手で背を叩いたり撫でたりしてあやしていると、いつの間にか赤ん坊は大人しくなった。

 大人しくなっても中が確認できないため怖いのだが、仕方がない、けど怖い。


 ……、待て待て待て、死んだとかないよね??


『おーい。君、大丈夫?』


 乳児は突然死んだりすることがある。という知識も思い出したりして一気に焦り始めた。


 そうだよね。いいとこのお坊ちゃんだよね、この子。大人しいからといって、適応能力あるとか考えるべきじゃなかったんだ!


 焦りのまま、揺すったりまた背中を叩いたりしていたら、やり過ぎたようだ。すぐに、ペシっと胸を叩かれた。叩かれた感触的に、中々不愉快にさせてしまったようだ。だが、そんなことより、安堵の方がずっとずっと大きかった。


 焦ったー!良かったー!


 一気に嫌な想像をしたせいで、更に、義弟が高熱を出した時のことも思い出したせいで涙で視界がボヤけ、つい強く抱きしめてしまった。


  うわー、本当に本当に良かった。


 赤ん坊も、何か察したのだろうか、私の服をギュッと握り、頬をひたりと胸につけた。

そんなことをしている内に、段々と上昇速度が下がり、突然大きな門が見えた。

 私は赤ん坊を強く抱いたまま、全身を使って方向転換し、空を蹴り上げた。


『ただいまー!』


 鼻水も垂れていたのかもしれない。鼻声が壁に響いた。

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