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城へ

 ニコが私の必死の首振りを認めたのか、笑みは柔らかくなった。ニコは門を出ると、振り返り家に向かって口を開く。

 ポチャンと空中に雫が現れた、水の精霊リテレリアだ。


『リテレリア様、侵そうとする者を捕らえておいて頂けませんか?』

【りょーかい、旦那。……おい、そこの黒むっくり!】

『は、はいっ!』


 突然私を呼んできた。

 そう、私は精霊達から黒むっくりと呼ばれている。以前は、精霊達の意識が言葉ではなく直接頭に響いていたのだが、眠りについたことで力がついたのだろう、しっかりと彼らの声が聞こえる。

 思っていたより、声が幼くて可愛らしい。


【変なもんつけているみたいだが、俺様には丸分かりぜっ】


(声に似合わず、口が悪い。そ、それも俺様……。)


 つい、そう思ったら水を頭からぶっかけられた。


【ここで何やってんだかわかんねーけど、早く帰ってこいよ。んじゃな。】


 リテレリアはそう言って消えてしまった。

 まさか、いつだって悪徳高利貸しのような態度だった精霊にそのようなことを言われるとは思わず、水を滴らせながらポカンとしていると、ニコが握っていた手を引っ張ってきた。


「クロ、な、何があったのです?」

「い、いや……。」


 意識が身体に戻ると、もう一つの疑問が浮んだ。プルプルプルと体を震わせて水分を飛ばしたら、ニコ達にかかってしまった。ごめんごめんと言いながら、ニコにその質問をする。


「ニコはお返しを要求されないの?」

「?、はい。しっかりお願いをすれば聞いてくださいますね。クロのように、属性神と言葉を交わすことは出来ませんが。」


(な、何なんだ、この差……。)


 シュワルが馬車からタオルを持ってきて、「お嬢、周りをもっと見てください。」と言って渡そうとしたが、ニコがそれを取り上げて、私を拭こうとしたので、私はそれを取り上げて自分で拭く。


「シュワルさん、ごめんなさい。タオルありがとうございます。」


 と言うと、シュワルは自身も拭きながら「いいえ。」と言って、馬車の方へと歩いて行った。


「でも、どうしてニコはお返しをしなくても大丈夫なんだろう?」


と、私は独り言のように呟きながら、ニコの濡れたところも拭いていく。


「さぁ。……。」


 ニコも分からないようだ。

 私が考えていると、ニコが手を引いて馬車に乗りこまされた。

 馬車の中は隣にニコ、ニコの向かいにシュワルが座っている。


(そういえば、ミマリのとこに行った時、この子を見せたっけ……。)


「あ!!」


(分かった!ミマリの族長のリストに変なまじないをかけられたんだ!きっとそのせいだ!ただのおまじないじゃないってこのことだったんだ……。)


「どうしました?」


 ニコはそう言って、横から覗き込んできた。


「ニコってさ、魔法を学んだ当初から水属性が強かったの?」

「そうですね……。」

「お嬢、ニコルのそれは強いってもんじゃなかったですよ。」


 意外にもシュワルが口を出してきた。


「史上最大の魔力の持ち主と言われながら、別属性の魔法に必要な古代語を学ぶ頃には既に自由自在に水魔法を扱えたんですから。」

「それって、どのくらい普通と違うの……?」

「普通の水魔法だったら、出てくる水量は小雨程度です。ニコルはどんな水量も水温も出すことが出来ます。」


(あらー。)


「そ、それって、双子の皇子も同じ?」


 魔力量や属性は殆ど遺伝だ。一卵性双生児であるならば一致するはずである。

 ニコに聞いてみた。


「いいえ。……それに、属性も異なってますね。皇子は水の属性もありますが、雷の属性の方が強いです。」

「あれ?でもニコは初めて会った時、瞳は水色だったよね?双子だったら属性も同じじゃないの?」

「はい、水色でした。ですが、成長するにつれて属性が加わったり完全に変わったりして、髪と瞳の色は変わることはあります。………、双子だと同じように変化するはずなのに、ここまで異なるというのは前例がないそうです。」


(まさか、リストのあのまじないがここまで影響するとは思わなんだ。)


 私がしでかしてしまった影響を考え出したら、一気に血の気が引いた。私は恐る恐るニコに正直に話した。


『ニ、ニコ………、ごめん。その、ニコの水魔法がそんなに強くなっちゃったの、私がミマリっていう種族の族長に君を見せちゃったせい……みたい、なんだ。』


 私が真っ青な顔で古代語を話し始めたので、ニコは不思議そうな顔をした。一方で、シュワルは無表情でこちらを伺っている。


『見せただけで、変わるものなのですか?』

『い、いや、その族長からまじないをかけられて……。』


 ニコは一度驚いた表情を見せて、優しく微笑み、握った私の手の上に、もう片方の手を乗せてきた。


『でしたら、お礼を言わなくてはいけませんね。私と皇子の髪と瞳の色が異なることで、私は影の任から解かれたのですから……。』


 ニコはそう言って、私の手を包んで唇を落としてきた。シュワルは手を扇いで目を背けている。


『い、いや、まじないをかけたのは族長のリストってひとで、私じゃ、……』

『やりたいからやっているんです。』

『やられたくないからやらないで。』


 と言って私はニコから手を抜き取った。向こうでシュワルは肩を震わせている。

 そのシュワルの後ろにある窓からの風景にはニコの家が見える。


「今更だけど、ニコの家ってあの時の離宮だったんだね……。」


 外側からまじまじと見ることがあまりなかったせいか、今になって気づく。内装が随分改装されていたので気づかなかったのだ。


「皇王に交換条件でうば…譲り受けたんです。」

「そ、そうなんだ。」


(うば……って何……。)


 突っ込まないようにして、また違う質問をした。


「ここからだと、城まで馬車じゃ随分遠いんじゃない?大変じゃないの?」


 ニコの家から城まで舗装路が一本通っているが、城はここから見ると豆粒大だ。馬車では夜になってしまう。

 私が言うと、シュワルがコクコクコクと首を縦に振ってきた。それを見ながらニコは悪そうな笑みで答えてきた。


「普通の馬に引かせていないので大丈夫です。」

「普通じゃない?」


 私がそう言った時だ。突然内臓が浮かぶような心持ちになった。

 シュワルが真っ青だ。

 車体が一気に浮かび上がったのだ。

 そういえば、セッちゃんがグリフに乗ってやって来たことを思い出した。


「まさか、セッちゃんのグリフ?」


 グリフは力も飛翔力も大きい。馬で車体を引いてもらうより、グリフで引いてもらう方が五倍は早いのではないだろうか。

 ニコは片眉だけあげてコクリと頷く。


「お、お嬢……、うっ、セルゲイに、渾名で呼ばないで、うっ、あげて、下さ……い。」


 シュワルは上昇速度が大きいことでかかる重力に顔を紫にさせながら、私に言ってきた。

 私はその様子に、先程のシュワルのように首を縦に振った。


「わ、わかりました。これからセルゲイさんと呼びます。」


 シュワルは安堵してふっと笑うと、車体が一気に下降し出した。シュワルの茶色の瞳は上瞼の裏に消え、白眼になった。


「シュワルは高所恐怖症なんですよ。」


 爽やかな笑顔でニコは私に言う。

 見ればわかる!


「ニ、ニコ、まさか楽しんでる?」

「まさか、楽しんでいるだなんて……。ここだけの話、彼は私に付き合ってくれる滅多にいない大切な友人ですよ?」


 わざとらしく答えてきた。言葉は大変喜ばしいものなのに、全くそうは感じられない。


「さて、着いたようです。」


ニコは私の手を握りなおし、セルゲイによって開かれた扉の向こうへと、座席に倒れこんだシュワルを無視して私を導いた。


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