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反省

「ニコ、ということで、私は外で寝るから。」


  顎を押しやりながら私は宣言した。

  ニコは私の手首を掴んで、退けようとするが、そうはいかない。

  さっき足の件で学習したのだ。

  決してこの手は離さない。


「クロ、なぜですか!?」

「そもそも!ベッド一つしかないじゃん!」


  そう、私はしっかり観察していたのだ。単に娯楽だけを目的に家内を探検したのではない。舐めてもらっちゃぁ、困る。

 ニコの家で一つしかないベッドを今まで使ってしまっていたのだ。

  これでは申し訳がたたない。


「一緒に寝れば良いでしょう?」

「は?」


 その考えはなかった…。

 いや、しかし、年頃の男女が同じベッドに寝るのは、この世界では普通なのだろうか?


  いやいやいやいや、ないでしょ。


「ムリ。ニコはちゃんとベッドで寝て。明日仕事あるでしょう?ニコが起きる頃には戻るから。じゃ。」


  ニコに話させてしまうと、結局ニコの思惑に嵌ってしまう。私は一気にまくし立てて、その場から逃げることにした。

  逃げるといっても、ニコがしっかり帰っているかを確認出来るように、後ろから様子を伺える距離まで離れて隠れただけだ。

  ニコは暫く立ち止まっていたが、家の方へと歩き出したようだ。

 そして、常に私達を見張っていたシュワルがニコの方へ姿を現し、彼らの会話が聞こえてきた。


「シュワル、何がおかしい。」


 此方からは見れないが、シュワルは笑いを堪えているようだ。言われてみれば、肩を震わせて、肩口まで広がったクルクルと所々渦巻きを巻いた茶色の髪がそれに合わせて飛び跳ねている。


「いや、殴られるから、ブッ、言えるわけないだろ、ブッ……ニコルが必死になって、ブッ、結局は女に逃げられてるだなんて、ブッ、口が裂けても……。」

「じゃ、裂けろ。」


 ニコはそう言って、吹き出しすぎなシュワルの頬を容赦なく引っ張りだした。シュワルは、それもまたツボに入ったのか、笑いながら泣いて止めるよう懇願した。


「はははははは、やめろ、やめて下さい!ひー、ははははははっ」

「お前の歪んだ性格、今治してやるよ。口から。」

「おまへほほはへーほ!ひへー!はへほ!」


 シュワルは叫びながら言うが、やはり笑ったままだ。ニコは片手でシュワルの頬を引っ張りながら歩き出した。シュワルは暫く笑っていたが、色々と辛くなってきたのだろう、笑いを納めてニコに文句をつけてきた。


「ちょっと、俺の方が身長高いんだからこの体勢辛いんだけど。」


 シュワルはニコより頭二つ分ほど高い。ニコは私より身長は高いが、平均より低いのだろうか。

 ニコはシュワルをひと睨みし、素直に頬を引っ張っていた手を離した。

 シュワルは頬を摩りながらニコルの横を歩く。


「プライベートに口を出す気はサラサラないが…、」

「シュワル、お前、本気で言っているのか?」

「ニコル、誤魔化すの止めた方がいいぞ。」


 シュワルは前を見ながらそう言った。

 ニコルの顔は見えないが、黙りこくったままだ。


「仕事関係では、そんな事ないのにな。やっぱり大事であればあるほど、そうなりたくなるもんなんだろうな。」


 シュワルはそう独り言のように言って、外套の胸ポケットからメモ帳を取り出した。


「で、仕事だが、明日は皇王と皇子との打ち合わせ後、ネルシス学長との最終調整、四大華族であるメリア家・タルシア家・バランチオン家・イグナチエヴィス家との会合、その他書類業務だ。明日は正念場だぞ。」


 シュワルはニコの方を見て、口角をあげながら、肩に手を置いた。


「ま、振られたのは丁度良かったんじゃないか?使わなかった精を仕事にだ…ごふっ」


 ニコはシュワルの手を払いのけて、頭を払い、そのままずんずんと大股で家の方へと向かう。シュワルは払われた頭を押さえながら、立ち止まって顔を傾げた。


「え、マジで落ち込んでる…?俺、言い過ぎ?いじり過ぎ?」


 シュワルは、ごめんごめん、と言いながらニコを追いかけていった。




  なるほど、誤魔化していた、か…。


 シュワルの言葉に腑に落ちる所があった。そして、抉られた胸もいくらか緩んだようだ。

 よくよく考えれば、納得がいく。


  ニコは取り違えたまま、誤魔化し誤魔化し、私の事を絶対だと思い込んでいるんだ。


 あの揺るぎない瞳は、その洗脳みたいな結果なんだ。


  だとしたら、他の女の子に目を向かせればいい。


 一方で、シュワルの言葉は私にも突き刺さっていた。


 私も、自分の卑怯さについて、ニコに話さなかった…。


 その事に気がついた時には、心底自分の弱さが嫌になった。


  うん、私みたいなのに、やっぱりニコは引きずられちゃダメだ。


 私は、他の女の子をニコの視野に入れさせる事、そしてニコが誤魔化しきれなくなった時、自分の卑怯な部分をぶちまける事を決意した。

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