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別れ

 私は全く眠れなかった。

 赤ん坊がスヤスヤと寝ている間、ぼんやりとその様子を見ていたら、いつの間にか空が白んでいたのだ。


赤ん坊が、寝ている間に別れてしまおう。


 多分、赤ん坊の瞳を見てしまったら離れがたく思ってしまう。

 三日間という短い間に、私はすっかりこの赤ん坊に情が移ってしまったのだ。

 私は起き上がり、赤ん坊を起こさないように抱き上げた。

 両手で赤ん坊の重さと温もりを感じながら、赤ん坊を探す人々の元まで歩いて行った。


 雪崩で閉ざされた山道はすっかり開かれていた。その向こうには、捜索隊達が張っただろうテントがある。彼らは雪が消えたことにも気づかずに、まだ寝入っているようだ。

 私は赤ん坊を山道の真ん中に置いた。

 誰かが起き出し、あるはずの雪がないことに気づけば、すぐ見つけられるだろう。

 最後に、私は赤ん坊の小さな手を握りながら、額と額を合わせた。


  どうか、ご両親に再会でき、沢山の愛情の中で育ちますように。


 そして、額にキスを落とした。


 そのせいで、赤ん坊を起こしてしまったのだろうか。赤ん坊の瞼がピクリと動き、目を開こうとしている。

 私はすぐに、木陰へと身を隠し、赤ん坊を見ないようにした。

 しばらくすると、テントから人が出てくる音がした。


『ルタンさん、お願いがあります。』


 私は膝を抱え、その上に頭を埋めながら光の友人、ルタンにお願いをした。


『私がここに戻るまで見えなくして下さい。』


 ルタンは何故かお礼を要求することなく、私の願いを聞いてくれた。

 これから、捜索隊の後をつけて両親の元へ渡すまで見届けるつもりなのだ。


 捜索隊達は、統一されていない地味な袖なし外套を纏っている。外套の上からでも日々鍛錬しているのだろう、立派な体躯を持っていることがうかがえた。

 テントの中にいるのは、6人。

 やんごとなき赤ん坊を探すにはお粗末ではなかろうか…。


 貴族の私兵かそれとも国軍か…、どうやら秘密裏に探していたみたいだ。


 赤ん坊を抱いた青年が、緊張した面持ちで馬車に乗り込んでいる。

 そろそろ移動するようだ。

 私は舗装されていない木々の間を抜け行きながら、その馬車を追った。

 暫くして馬車が着いたのは、城の離宮だった。石で出来た質素な作りだが、壁には細やかな彫刻がされている。離宮と城との間には、これまた立派な彫刻が施された石で舗装された一本道がある。


 ま、まさか王族ってこと…な、なのか?


 私はきょどりながら、離宮へ入っていく青年について行った。

 離宮の中にいたのは、疲労に満ちた顔をした壮年の男性と女性だった。

 男性の方は目と髪が黄色、女性は青色だった。二人とも着古した服を重ね着ている。

 彼らの言葉は、分からなかったが、男性も女性も目に涙を溜め、赤ん坊を順番に抱きしめている。

 その様子を見て、胸がいっぱいになった。


  王族かどうかはわからないけど…、もう、大丈夫だね。


『じゃあね。』


 つい、赤ん坊に別れの言葉を口に出してしまった。赤ん坊がこちらを振り向いたかもしれない、いや、そんなの願望だ。私は逃げるように、離宮から抜け出した。

 離宮から抜け出すと、蕁麻疹が出た。

 人間がいると、すぐこれである。

 やはり、赤ん坊と私とでは住むところが違うのだ。

 胸に溜まった熱を、何とか外に吐き出せるように、そして蕁麻疹がすぐ治るように、私は全力で家へと帰ったのだった。

蕁麻疹が出た時は走らないでください。

安静にして近医を受診しましょう。

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