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森荒らし

グロいです。苦手な方はご注意下さい。

  身体の成長も早いから、心の発達も早いんだね。


『よしよし、大きくなれよ。』


 未だそっぽを向く赤ん坊の頭を撫でて、今度は自分の服を脱いでいく。そっぽを向いたままの赤ん坊はそのまま寝かせて下着の格好になった。

 湯船にゆっくり浸かりたいが、流石にこの釜には入れない。お湯を絞った布で身体を拭いていく。


  春になれば川に浸かっちゃうんだけどな…


 物足りないが、仕方がない。全身を拭いて、替えの下着になって服を着た。

 赤ん坊はまだ私を見ようとしないので、その間に洗い物を済ませてしまう。粗方洗い終わった後、赤ん坊の方を見ると、チラチラと私の方を見ている。

 そんな赤ん坊の様子が面白かったが、今日はやることが沢山ある。その準備のために、私は工場の奥へと向かった。

 最初に取り出したのはボームという樽状の乾燥させた実だ。

 この実はリースの木に寄生しては、コロコロと転がって寄生しがいのある木を探していく。栄養分をしっかり吸って熟してくると、白色の小豆大だった実が褐色の樽くらいの大きさになり、パンッと爆発する。爆発することで、種をあたりに弾き飛ばすのだ。弾き飛ばされた種は上手くいけばリースの木に埋め込まれ、そこからスクスクと発芽し、成長する。

 実が割れる時に、運悪くそこに居合わせると種が身体を貫通するので要注意だ。褐色のボームはコロコロコロと、種が転がる音がするので、その音を聞き分け、リースの木から剥がせば、爆発することはない。

 収穫したボームの実は、ナイフで穴を開けて中の種を取り出し、ひと季節分乾燥させれば、軽くて丈夫な保存容器となる。

 リテレリアさんは、10樽、すなわちボームの実10個分の酒を用意しろと言うのだから骨が折れる。

 私は空のボームの実を3つ取り出して、ロープを使って連なるように、きつく縛った。

そして、干したチョコの実の在庫の確認する。干したチョコの実は、冬の甘味になったり、メクリミルクに入れて酒母として使う。以前、冬用に沢山収穫して干しておいたのだが、この量だと、10樽分の酒を作ればなくなってしまうだろう。

 私は昨日の残ったチョコの実を紐で結び天井から吊るしておいた。これは私の冬用の甘味用だ。

 次に、グムリの胃で作った袋を三つ取り出した。皮袋よりも量が入るので今日はこれを使うことにした。


  こんなものか。


 と、その他ロープなどを揃えて、赤ん坊のところへ戻った。

 赤ん坊はじっと私を見ていた。私が抱き起こそうと腰を下ろすと、赤ん坊は自分から起き上がりハイハイをして私の膝に抱きついてきた。

 突然のデレに、感動でうち震えた。

 暫くそのまま固まっていたが、赤ん坊の方が飽きたのか、私が固まりすぎて心配になったのか、ペシペシと、膝を手で叩き始めた。顔を見ると、残念なことに少し不機嫌な様子だったので、多分前者なのだろう。現実に戻った。

 私はそのまま赤ん坊を抱いて、その上に上着を着る。腰には胃袋と、ボームの実を繋げたロープを巻いた。


『よし、次はメクリミルクを取りに行くよ。』


 と言って、赤ん坊の背中をポンと叩く。赤ん坊は合図するように、ギュっと服を握り込んで頬を胸に当ててきた。

 私たちは工場を後にし、メクリ湖の方向へと向かった。

 ボームの実が地面につかないくらいの速さで岩場を走っていると、遠くから空気を切る音がした。音の方を見やると、カリマの群れが近づいている。

 カリマは世界で二番目に早く滑空すると言われている動物だ。勿論一番は我が父上である。カリマは鱗を持ち、細長い口と、可愛げのあるクリクリとした大きな目が特徴的な魚である。カリマは群れを形成し、飛んでいるマサオ達を効率よく捕食する。

 メクリ湖に向かっているということは、巣に一度帰るのだろう。


  やった。時間の節約になる。


 こちらへ向かってくるカリマの内の一匹の尾に狙いを定めて、跳び上がる。カリマの尾を掴んでそのままメクリの湖に連れて行ってもらうのだ。

 掴んだ瞬間、一気に重力がかかった。慌てて片方の手でしっかり赤ん坊を抱いた。そして前を見やると、既にメクリ湖が見え始めた。

 メクリ達の群れの全貌が見え始めた時だった。‘森荒らし’の咆哮があがったのだ。


  いいタイミングだ。


 ‘森荒らし’がメクリを狩れば、半分以上が死んでしまうだろう。そうなれば、友人達のお礼に必要なミルクが取れない。そして、グムリは金になる。

 ‘森荒らし’はまだリースの木の裏に実を隠れている。メクリ達はバタバタと失神していた。

 私は手に集中し、爪が鋭く伸びさせた。

そして気配を出来るだけ消しながら、体全体のバネを収縮させていく。

 カリマが湖に潜ろうと下降した時だ。‘森荒らし’がリースの木から現れた。瞬間、私は‘森荒らし’に向かってカリマの尾を突き放した。カリマの滑空速度を利用して爪の先から獲物に向かう。

 流石、狩りの神として崇められているだけある。獲物は私の若干の殺気を察知し、大きく口を開いた。

  私はそのまま赤ん坊をさらに固く抱き締めながら、身体を硬くし、爪の切っ先を喉の奥、生命中枢の延髄に狙いを定める。

 ドンっという衝撃音が響いた。

 私の爪先が貫通したのだ。

 しかし、獲物は未だ抵抗するかのように、口の中に身体が収まっている私をそのまま飲み込もうとしてくる。私は口を閉じようとする力に抗いつつ、飲み込もうとする力を利用して、身体を喉の奥へ進め、爪先をさらに抉りこませた。

 グムリの身体は、何かに逆らおうと一気に固くなったが、プツン、と切れた。

 口を閉じようとする力も飲み込もうとする力も徐々に失われていき、全身の力が抜けると、ゆらりと巨体が地面に沈んだ。

 私は喉から爪を抜いて、口から這い出た。

爪についた血を拭い、グムリの目を閉ざして、その巨体に手を合わせた。

 匂いから、赤ん坊を拾った時の個体であることに気づき、私は無意識に赤ん坊を両腕で抱きしめていた。


 息をゆっくり大きく吐き出して、メクリの方へと近づいて行った。


 倒れたメクリ達は、動かない。

 群れの殆どがピクピクと痙攣しながら横倒れになっている。

 絶好の搾乳チャンスだと、どんどんボームの実と胃袋の中に乳を搾っていく。

 胃袋の方には、出来るだけ白色の乳脂肪分が高いと考えられるメクリを選ぶが、ボームの実には、選り好みせず、近いものからどんどん搾り入れていった。

 搾り終わる頃には、メクリ達はむくり起き上がり、私に気づくと次々と防御態勢に入っていく。


『じゃ、お騒がせしました。ミルクありがとう!』


 私はメクリ達に挨拶し、グムリの元へと戻った。

 これから解体作業だ。

 先ずは、準備として、メクリ湖からリースの木が群生している所まで下って、リースの皮を何枚か剥ぎ取っておく。また、倒木を輪切りにして簡単な器に成形する。

 その後、メクリ湖に戻り、湖から水を汲み、さらに湖の浅瀬に生えている苔をむしって木の器に入れる。

 最後にナイフを持てば取り敢えず準備完了だ。


 私はグムリの前にまた手を合わせて、いただきます、と挨拶し一礼した。

 解体の開始である。

 先ず、毛皮を剥ぎ取る。これは金になる。

 次に、腹を切り開いて内臓を取り出す。どれも金になるので、丁寧に切り取る。特に胆嚢は口をしっかり縛って胆汁が漏れないようにする。高価な薬になるそうだ。内臓は腐りやすいので、リース皮に包んで、雪の中に埋めておく。

 足の肉球は美容に良いと高く売れるので切り落としておく。

 次に筋肉を削いでいく。削いだ肉は苔を入れた器に混ぜ入れて漬け込んでおく。浅瀬の苔は塩を付着しているので、肉と混ぜ込めば塩漬けとなるのだ。

 骨は頭蓋骨を除いて綺麗に洗って干してから、頭部は目玉などを含めてそのまま売りに出す。

 つまり、全て金になるのだ。

搾乳とグムリの解体作業を一気に終わらせると、グルグルグルとお腹が鳴った。

 漬け込んだ肉を焼いて食べてしまいたいが、今日中にこれらを売った方が高く売れるので、我慢だ。

 我慢、我慢、我慢…と、自分の理性を高めるために、赤ん坊の頭を撫で回した。赤ん坊は寝ているのだろうか、私のやりたいようにやらせている。

 上着の上から赤ん坊を覗き込んでみると、赤ん坊は上目遣いに目を合わせてきた。そして、ギュッと服を握り込んでくる。あまりの可愛さに口角が緩みまくった。

 赤ん坊に癒されたので、もうひと頑張り、とグムリの皮で内臓と肉を包み、頭部と骨、足はボームの実の代わりに腰に下げた。メクリミルクの入ったボームの実と胃袋はメクリ湖に置いていく。

 片手は赤ん坊を抱き締め、片手はグムリの皮を持って、金ヅルの元へと駆けて行った。

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