お風呂
飛び込みに力が入っていたようだ。
見えてきた岩肌は不規則にゴツゴツとしていて、マサオ達を冷やかすことなく、私たちは地上へおりてしまった。
私のmy工場はここから走ればすぐ近くにある岩場だ。急峻な傾斜からなだらかになったところに作ったので、昨日の降雪により入口のほとんどが埋まっている。
見た目では、そこらの岩場と何ら変わらないので、工場の入口に置いた獣除け効果のあるマラリという実の臭いを辿って工場に辿り着くことができた。
着いた最初にやることは穴掘りだ。私は腕に集中して、ひたすら穴を掘り、入口を確保した。
工場の中は、それぞれの岩に位置を保持させる魔法陣が墨で描かれているので、パッと見、灰色の壁のように見える。
入ってすぐの所に、竃と釜があり、その釜を使って赤ん坊をお風呂に入れることにした。
私は竃に火をつけ、釜に山盛りの雪を敷き詰めて火に当てた。
適度な湯加減になるまで時間がかかるので、赤ん坊のご飯を作ることにした。
工場の奥にタリィという野菜の畑がある。そんな所に畑があるのは、タリィは日光を浴びると萎れてしまうからだ。
タリィは、紫色の毒のある葉を出し、青色の根が楕円状に成長する。根の方は栄養価が高く食べられるのだが、その根は怒った人間のような顔を呈しており、引っこ抜くと、ゲゲゲゲゲと声を上げるのだ。この声を聞くと無力感に襲われるので収穫の際には要注意だ。
この声を防ぐ方法は、引っこ抜いた瞬間に、根の眼に相当する穴に指を三分間ほど突っこむ。これしかない。
その穴から空気が流れることで、声が出るので、突っ込むしかないのだ。初心者は、その目潰しが不充分なことが多く、声を聞いて無気力になってしまうことが多々あるので慣れた人と一緒に行うことが望ましい。
私は慣れているので、無気力になることなく、引き抜いては目潰し、引き抜いては目潰しを繰り返していった。
三つ収穫して、毒のある葉はむしって根っこだけにする。葉がむしられると、怒った顔から弱った顔に変化するので、そこで根っこをナイフで細かく刻み、小鍋に入れて火にかけ、木匙ですり潰すように混ぜていく。
根っこの欠片が全てすり潰せれば、青色のタリィスープが完成だ。
食欲を全く刺激させない見た目だが、赤ん坊の口に運んでいけば、躊躇わずにどんどん食べていく。
食べ終えた頃には、既に釜の中の雪は全て溶けきって沸騰していたので、火を消し、適度な湯加減になるまで食休みをさせ、体を拭く布など準備をした。
お湯の温度がちょうど良くなったので、まず赤ん坊を脱がせようとすると、なんと、赤ん坊は這って私の手から逃げていく。
成長が早いと思っていたが、ここまでとは…。
感心しながら、這っていく赤ん坊を捕まえて、保温の魔法陣を描いておいた布に包んだ。服を脱がせようとすると必死に抵抗する赤ん坊であったが、私は有無を言わせず脱がせた。その時、赤ん坊の腕と太ももに金色の輪がつけられていることに気づいた。
『君、オシャレだね。』
流石お坊っちゃま!と思いながら、その金の輪を外して、赤ん坊を湯船に入れさせた。赤ん坊は何やら外した金の輪を気になるようで、あっあっと言って手を伸ばしている。
『上がったら、元どおりにつけるから。』
と言って頭を撫でたら、赤ん坊は落ち着いてくれた。やはり、お風呂が気持ち良いのだろう。赤ん坊も顔を赤くして目を閉じている。その間に布で優しく身体を洗っていき、お風呂は終了だ。
しっかり保温の布で包みながら、布で拭き、金の輪をはめて服を着させた。
赤ん坊はお風呂に満足してくれた様子なのだが、私を見ると顔を赤くして恨みがましく睨んできた。
どうしてだろう、と暫く考えて、私は気づいた。
わかった!反抗期だ!