序_8 女神降臨
「ま…まぁ草刈機って結構便利だよな!」
「そ、そうそう。サバイバルでは使えるかもしれませんよ!」
そういう反応がかえってくるのは薄々わかっていた。だから言いたくなかったんだ。誰だ、武器も紹介しようって言ったやつは!…タカハシさんか。
「そ、そうだよね…ははは…。」
もうやだ、わかっていてもやっぱりつらい。鬱だ死のう。
「あ…あの〜、ササキさん。」
「は、はい?!」
悲しみのあまり軽く心が死にかけていたが、突然ナカタさんに話しかけられたおかげで何とか一命をとりとめた。おお、女神よ。
親以外の女性と話すなんていつぶりだろう…。確か最後が13歳の時(卒業証書をもらった時)が最後なはずだから、ちょうど10年ぶり…いや、110年ぶりだ。陰口とか罵倒とかはカウントしないよ…。
「23歳…なんですよね?」
「は、、はい!」
お、落ち着け。平常心だ平常心。相手が女性だと少し意識してしまったせいでつい声がうわずってしまう。日本語ってこんなに難しかったっけ。
「じゃあ私より一つ年上、先輩なんですね。」
「そうなりますね!」
先輩なんて女性に言われた記憶が無いぞ…。やはりこの人女神。
「え〜、ちょっとなに赤くなってんのー?うけるーw
え、まさか女子と話したことないとかー?」
女神と会話していると、ギャルが乱入してきた。
おのれ…至福の一時を…。こういう軽い女は好きになれない。重い女なら好きになれるって訳でも無いけど。
「い、いや そんなことはないけど。」
「えー、超顔真っ赤じゃーん。」
「そうかな…。」
そんな事どうでもいいだろ。やはりギャルは理解できない。
「そうだよー!あ、なんかあんたってキョドキョドしてるから
今日からキョドキってことで!」
「はぁ?!なにそのあだ名‼」
「いいじゃんいいじゃーん♪」
「いやいや!よくないよ!」
なにこいつ嫌い。いきなりあだ名とかやめい。そういうのが後々いじめに繋がるんだぞ!何としても阻止せねば…。
「キョドキって超似合うよー?」
「いや、僕はササキだし!」
「え?キョドキ?」
「いや違う さ!さ!き!」
こいつ頭に何が詰まってるんだ。きっと夢と希望と糖分だな。全く会話が成立しない。
「なんだ、はっきり喋れるじゃない。あんたはそんぐらい元気にしてたほうが良いってそっちの方が好きだよ。」
黙れ!お前なんか嫌いだ!
……え?今好きって…?
「オリコトちゃん好きだなんて大胆ね♡」
ナカタさんが笑いながらそう言った。
違う。女神が微笑みながらそう言った。
「え?………あ!」
どうやらオリコトも、自分が好きって言った事に今気付いたらしい。これは本音か?それとも冗談なのか?
人の心弄んだらいけないんだぞ!
「違うしっ‼
そっそういう意味で言ったんじゃないし!あの…そのーあれだ
どちらと言うとだしっ‼…いや、今のも違う!今の無し!忘れてー‼」
結局、どっちなんだ…。だがどっちだろうと好きになんてなってやんない。
「う、うん…。」
「うん………。」
「「………。」」
黙るなよ。余計考えちゃうだろ…。
誰かこの沈黙を破ってくれ…。そう思ったその時。
『パリン』
遠くで何かが割れる音がした。