ともだち
月曜日、午後3時。
少しだけ風が冷たくなってきて、あちこちの緑は薄くなり始めていた。
私は久しぶりに休みの予定が合った高校時代の友達と約束をしていた。
「千星、真里奈、莉子!」
先に集合場所に到着していた3人が、ついこの間と変わらない顔で話をしている。
「ごめん、おまたせ」
私は一番最後だった。
私たちは久しぶりの挨拶を交わし、予約していたカフェに入った。
それぞれにコーヒーや紅茶と、私はパンケーキとオレンジジュースを頼んだ。
4人も揃えば話が尽きることはない。
最近の芸能ニュースやお気に入りの曲、高校の頃の思い出話、仕事の話、恋愛の話。
千星は、高校の頃からいつも明るくて、話すのが上手だった。高校の頃は黒いキレイなロングヘアーだったのに、少し会わないうちにボブにして髪も明るく染めていた。
常に笑っている千星にはとてもよく似合っていた。
真里奈はとても恋愛体質で、常に恋をしている女の子だった。華奢な体つきで、肌も白くてキレイだったし小顔なうえに目がとても大きくて本当に可愛い。それなのにきちんと芯があって以外にもサバサバしているところが魅力的だった。
莉子は、そんなみんなをまとめてくれるお姉さんみたいなタイプだった。顔つきも誰より大人っぽくて、大らかな心持ちがかっこいい。誰とでも同じような態度で接するから、皆と平等に仲がよかった。
一見、個性も性格もバラバラな私たちには共通点がひとつだけあった。
それは、仲間意識を持つことがあまり好きじゃないということ。
高校のころは、大方クラスの女子は何グループかに分かれていて、その中でも常に一緒に行動しているグループが多々あった。
もちろん中にはひとりで過ごすのが好きな人もいた。
1年の頃は違うクラスで、違うグループの中にいた真里奈は、その6人のグループのみんなは仲間意識が強すぎてすっごく大変だったと言っていた。
「グループの中にリーダー格の人がいて、みーんなその人について行くって感じなの。それでね、そのリーダーの好きだった人と私がデートしたことがあってね。好きな人を取ったとか、なんであの人に会ったんだとかって皆から責められて。あんたたちに何かした?みたいなさ。みんな、自分の意思なんかなくてリーダーに良く思われたいだけ。友達みたいな顔して、関係のない自分が誰かのために怒ることを見せつけたいだけ。そこに自分の意思なんてないんだよ。そういうの、ばかみたいって思っちゃう」
そう言って思いっきり笑ってた。
真里奈はおしとやかで、気遣いができてすごく優しい。
だけど自分の信念は曲げたりしない。
嫌われることも気にしない。
やりたいように生きてるだけ。
私はその話を聞いた時、女の子の中の女の子のような風貌をした真里奈を、とてもカッコよく思った。
確かに、そういうのってばかみたいだって私も思った。好きだって知ってたくせにとか、なんであの人と話してるの、とか。嫌われるのが怖くて、いい人だと思われたくて、誰かに合わせて生きる。
そんなのはばかみたいだと思ってはいるけど、そうしてしまう気持ちはとても良く分かる。気持ちだけは痛いほど分かる。
私たちは自由だった。
休み時間は絶対に皆で集まるとか、秘密ごとは無しだとか、そんな子供じみた友達関係を嫌った。
私は嫌うというよりも、苦手だったのかもしれない。
好きな時にお喋りをして、時々ひとりですごして、そんなルーズな関係がとても心地よかった。
そして今も、会えるときにこうして集まって、時々話をするくらいがちょうどいい。
グラスが空になっても、パンケーキを食べ終わっても、いつまでも話は延々と続いた。