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しあわせの法則  作者: 美雨
11/15

「とくべつ」*3



15分ほど歩いて、会社に着いた私は自分のロッカーに置き去りになっていた車の鍵をしっかりと手に取った。


そして入り口で野上さんを待っていたけれどなかなか戻ってこない。


(飲んでたから気分でも悪くなっちゃったのかなぁ…)


私は心配になって、お店の一番奥にあるトイレまで行くと、ドアの前でしゃがみこんでいる野上さんがいた。


「だ、大丈夫ですか?!」


電気も付けずにしゃがみこんでいたので、小さな窓から差し込む月明かりしかこの空間を照らすものがなかった。

私が駆け寄ると、野上さんはふにゃりと笑ってごめんね、と小さな声で言った。


私はまだお酒を飲めないのでこういう時にどうしたら良いのかわからない。

とりあえずお水を飲んでもらうことにした。

野上さんはコップの中の水を一気に飲み干して、ありがとう、と言ってくれた。


「最後に日本酒一気に飲んだからなぁ〜…今酔いが来たみたい…ほんとごめんね、大丈夫だから」


そう言って立ち上がろうとするので、どうしようかと迷ったけど勇気を出して手を貸すことにして、野上さんの腕を掴んだ。





その瞬間に、バタン!と大きな音がする。



「きゃっ…」


立ち上がったときにバランスを崩したのか、野上さんは私の肩に両腕を乗せて正面から体重をかけてきた。そしてそのまま、私は後ろの壁に背中をぶつけてしまった。


「ご、ごめん!大丈夫?」


野上さんはすぐに手をほどき、私の心配をしてくれた。


「だ…大丈夫です、私の方こそ、ちゃんと支えられなくてすみません」



(……び…びっくりした…)


不意の事故とはいえ、一瞬でも私は野上さんに抱き締められたみたいだった。体が熱くなって、顔からは湯気が出そうだった。心臓は張り裂けてしまいそうなくらい脈を打っていた。


その後は野上さんも酔いが覚めたようで、本当にごめんね、怪我してない?と、いつもの調子で優しい言葉を掛けてくれた。

私はどこも痛くなかったし、何となく恥ずかしかったのでできるだけ明るい声で「大丈夫です」と答えた。

心臓だけは、なかなか収まってくれなかったけど。




そうして、家に着いたのは12時前だった。

さっき起こったことを、何度も頭の中で再生してしまう。その度に、野上さんの体温に触れた部分が熱くなって、また心臓が速く脈を打ち始める。



(”とくべつ”に、なりたい…)


たぶん、忘れ物をしたのが誰であっても野上さんはああ言ってついてきてくれただろう。

水を差し出したのが誰でも、同じ気持ちでありがとうと言ってくれただろう。

不意に起こった事故の相手が誰であっても、優しく心配してくれただろう。

きっとそうなんだ。


「とくべつ」なんてない。

野上さんは誰にでも同じだけやさしい。



きっとこれから先も、同じ。











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