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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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傷が増える

掲載日:2015/07/23

女の子の笑い声がする。

 それも一杯人が居る。

 マンションの廊下で誰か騒いでるのだろうか。

お風呂上がりに、全裸で廊下まで出た。涼しい。

夏は全裸で最高。

 声は止んだ。

何だか腿がジワジワ痛い。

ふと腿を見てみると左側面付け根辺りに傷ができていた。

自分の人差し指くらいの長さだけれど、何か紙でスパッと切ったみたいな傷だ。

そんなに深くはない。

新しい傷で少し痛むくらい。血は出てない。

「んー、なんだろ」

私は昔からいつの間にかアザが出来ていたり傷ができていたりする。

でも、忘れているだけで、人にはぶつけてたとか切っていたとかよく指摘される。

あまり気にしない性格なのだ。

「あっ」

驚きの声を耳にして振り向くと、玄関に彼氏が立っていた。

目をまん丸にして驚きの表情をしている。ムンクみたいな。

「えっ? どうしたの?」

というか、彼氏に気づかなかった。

黒スーツでもちろん仕事帰りだ。仕事は仕事でも教師だけど。

 礼服という事は今日は終業式か何かだったのかな。ネクタイは終わったら外したんだろう。

「あっ、そうか。おかえりなさい。ごめん。出迎えなくて」

玄関で突っ立っている彼氏の荷物を受け取る。

ビニール袋には包丁とオニギリが入っていた。

「包丁? 何で包丁?」

まだまだ突っ立っている彼氏に思わず聞く。

オニギリは明太オニギリで私の好物だけど、包丁はよくわからない。

流しの下を見ると、いつも使っている包丁がなかった。

あれ、ボロボロだったから捨てたっけ?

空いてる所に包丁を軽く洗って突っ込む。

「ああ、うう。深雪か」

「もちろん。早く上がりなよ」

私は首をかしげた。

なんか彼氏の様子がおかしい。

戸惑っているというか、汗をかいているというか。

彼氏、守くんは何か考えてるようだったけど、意を決したようにうなづいた。

黒い靴を脱いで、

「ただいま」

と言って部屋にあがる。

そして、言いづらそうに目を伏せた。

「あのな、深雪。玄関開けたら目の前が全裸って驚くよ」

守くんの言葉にハッと自分を見る。

「あっ………玄関近くに人居なくて良かった!」

見られたのは守くんだけだった。

安心して服を着に自分の部屋へと向かう。

「おい、深雪は美人なんだから恥じらい持てよー!」

と守くんの言葉が私を追いかけた。

恥じらい何それ美味しいの?


+++++


「いってらっしゃあ……」

次の日、寝ぼけ眼で守くんを送り出した。

私は会社は休み。長い休みをもらった。

有休、だいぶ余ってるからね。

取らないと、会社がうるさいのだ。決して私はだらけてない。

「おい、深雪。ヨダレ拭けよ」

玄関先で守くんが呆れた顔をした。

と言いつつ、スーツのポケットからハンカチを取り出して口を拭いてくれる。

「あーい」

優しい守くんにときめきながら自分でも口元を拭う。

ふと、右の手の甲に紙でスパッと切ったみたいな傷があるのに気づく。

「傷が増えてる」

昨日と同じ傷。

「何? あー、薬でも塗っとけ」

守くんは一瞬心配そうな顔をしたけど、薬箱を指差した。

まあ、特になんて事ない傷だ。

「うん、じゃあいってらっしゃいのチュー」

「おお」

チュッと軽くキスすると、守くんは照れたような顔をした。

イケメンなのに、いつまでも初々しい反応の守くん大好きすぎる。

 イケメン教師とか鼻高い。生徒にもモッテモテだしね。

 私は生徒に嫉妬されちゃって大変。

 遠くでまた、女の子の笑い声がした。

 何故だか私を笑っているようなそんな気がした。


++++++


「あれ? また傷が」

キッチンに立ってさあご飯作るぞ、と包丁を構えた。

そして、今度は左手の甲の斜めに走る傷に気がつく。

またスパッと切ったような傷。

「うーん。なんでだろ。ま、いっか」

それよりも夕飯を作らないといけない。

今日は早くて6時くらいには帰ってくると言っていた。

 夏休みに入ったから部活動の監督だけらしい。

守くんのリクエストでオムライスとポトフ。

「新鮮な野菜を切ーる、私。宅配ボックス様様ーでーす」

自作の歌を歌いながらノリノリで切る。

ウチのマンションは冷蔵の宅配ボックスがある。

ネットで注文して、下の宅配ボックスまで守くんが取りに行ってくれる。

私はだらけてない。家では高確率で全裸だから、きちんと服を着てる守くんが気軽に取りに行ってくれる。

「ただいまー、早く帰れたぞ。下のボックスにこれ届いてた」

玄関の方から守くんの声がする。

「おかえりー」

宅配ボックス超便利。

 女の子の笑い声が守くんの背後からするけれど、守くんは反応してない。

 気のせいだろう。


+++++


「さーて、映ってるかなー」

次の日、守くんを送り出した後、リビングの椅子に腰を下ろす。

小型カメラにスマホを繋いで再生を押した。

昨日、寝る前に思いついてカメラをしかけた。

傷がついてるけど覚えがない。

起きてる時に覚えもないし、守くんに指摘もされないって事なら寝てる時かと思って。寝てる時、自分が暴れてるのかもしれない。守くんが気づくような気もするけど。

新たな傷は髪で隠れてるけど、額にもできていた。

さすがにちょっと気になる。

「寝てる自分ってちょっと怖い」

スマホの画面に寝ている自分が映った。

寝つきは良い。昨日は守くんがお風呂から出てくる前に寝てしまった。

ベッドにスヤスヤ寝ている私がずっと再生される。

イラっときて早送りした。

「あっ、守くんだ」

守くんが寝室に入ってきた。

お風呂上りにきちんとパジャマを着込んでいる。

「うそ………」

手にはこの前買ってきた包丁を持っていた。

ショックでスマホを落としそうになるけど堪えた。

歯がガチガチとなる。

画面の中の守くんは真剣な表情で、包丁と私を交互に見比べている。

私は呑気に寝てる場合じゃない。

でも、今私は生きてるから刺激しないように寝ていて良かったのか………。

「深雪………、愛してるよ」

画面の中の守くんが呟く。

守くんは包丁を持ったまま、ずっと真剣に私を見ていた。

途中でカメラの録画時間が切れる。

 また、外から笑い声がする。

 私を笑っているのだ。

 でも、気にしない。気にしたくない。

守くんとの楽しい同棲生活に水をさしたくない。

 そう、楽しい楽しい生活を。


++++++


 考えた結果、昨日の事は気にしない事にした。

 私も守くんを愛してるし、変な話だけど守くんが本気で私を殺そうと思うなら仕方ない。

 でも、学校の教師なんだし相当な問題児も話しに聞くから、私がそこまで殺されるような事をしたかなぁとも思うけれど。

「今日のご飯はハンバーグー! チーズイン! ラブイン!」

 自作の歌を歌いながらハンバーグを焼く。

 今日の夕飯のチーズインハンバーグは力作だ。

 お取り寄せ黒毛和牛のひき肉で作った。

 ジュウジュウとハンバーグを焼いていて、ふと気づく。

 今度は両腕に傷はできていた。

 深い傷ではないので病院に行く気にはならない。

「ただいまー………あっ、おい! やめろっ!」

 玄関の方から守くんの焦ったような声がした。

「えー、いいじゃん。先生の家どんなとこー?」

「きゃー、結構綺麗!」

「帰れっ! 保護者に電話するぞ!」

「えー!」

 何か生徒と争っているような声がして慌てて玄関に行く。

 ばたん!と乱暴にドアが閉まった。

「ただいま」

「おかえり」

 生徒にもみくちゃにされたっぽい我がイケメン彼氏がいた。


+++++


そんなこんなで増えた傷は49個になった。

 9月に入って秋になった。

 そして、私は傷が49個になった途端思い出した。


 私はもう死んでいたのだ。 

 殺されていた。

 それも、私の彼氏を盗ろうと嫉妬した彼の生徒達にメッタ刺しにされて殺された。

 そして………、

「深雪………気づいたんだな」

 いつの間にかリビングの隅には守くんが立っていた。

 全身を真っ赤に染めている。 

 返り血で服はぐしゃぐしゃに汚れていた。

 あの日、私は………。


+++++


 私は、もうすぐ終わるという彼氏を待って、高校の校門前で待っていた。

 私の彼氏はいわゆる高校教師だ。

 その彼女だからって、校内にずかずか入る事はしない。うん、当たり前。

 校門前から学校を眺めると、元気に校庭で部活動に励む生徒たちが見える。

 その中で、かわいい女の子たちが自分の方に向かってくるのが見えた。

「おねえさーん。お姉さんって守先生の彼女さんですよねー?」

 その中でも一際天使のように可愛い女の子が上目遣いで私に尋ねる。

「え、うん。そーだよ?」

 答えるときゃいきゃいと女の子たちがはしゃぐ。

「美人だからそうじゃないかと思った」

「守先生、彼女教えてくれないから」

「守先生はもう少しで仕事終わりますよ。ここ暑いから学校入って下さい」

 女の子たちがにこにこしながら私の腕に絡み付いて引っ張る。

「え、ちょっと。私はここで」

 強く振り払うわけにも行かず、学校に足を踏み入れた。

 廊下を進むと、物置みたいな小部屋にドンッと突き飛ばされた。

「えっ………守は?」

 置いてあった柄の壊れた掃除用具で腿を切った。血がにじむ。

 振り向いて血が凍る。

 少女達は皆、包丁を構えていた。

 ニコニコしてどこか焦点の合わない目をしている。

「来るわけないじゃん」

「守先生を呼び付けしてウッザ」

「あんたがいるから先生が私達を見てくれないのよ、おばさん」

 口々に罵られる。

 これは、もしかして殺される?

「だ、だれか! 守くん、たすっ………!」

 叫ぼうとしたが、女の子の一人が包丁を振りかざした。

 手の甲に熱い衝撃が走る。

 とっさに自分を守るように手でガードしたけど、右手の甲の肉が削げてベシャっと落ちた。

「痛い痛い痛い。助けて、守くん」

 次々に体中に熱い衝撃が走る。

 痛さと熱さと、女の子達の悪意の笑いが私を包んだ。

 痛い。

 熱い。

 助けて。

 守くんに手を握って欲しくて、手を伸ばすけれど切られた。

 笑いと共に包丁で切られた。

 自分で作った血だまりにパシャッと音を立てて倒れこんだ。

「守く………」


+++++


「殺された私を見て、探しに来た守くんに女の子達は一人残らず殺された」

 私も痛かったし、殺されたのだ。

 けれど、5人も居た女の子が全員殺されて複雑な気持ちだった。

 守くんは5人を殺した後、自分を刺して死んだ。

「包丁を奪ってバッサバッサと殺してやったよ。仇なんだから見逃せ」

「………、う、うーん」

 ギラギラと幽霊らしく目を赤く光らせる守くんに私は首を傾げた。

「あいつら未成年で一人しか殺してないから死刑にならない、って言ってた。反省してない」

「そう………よね。でも、守くん教師なんだし。女の子達守くん好きだったから」

 いけないんだけど仇をとってくれて嬉しい気持ちと彼氏が殺人犯になってしまって複雑な気持ちだ。

 しどろもどろになってしまう。

「あ、ねえ、なんで幽霊同棲生活が始まったとき包丁買ってきたりとか、夜中に包丁見てたりととか紛らわしいことしてたの?」

 そう、それもあっていまいち記憶が混乱していた私は彼氏を疑ったりした。

 是非とも聞いておきたい。

「包丁は深雪がボロボロだから買ってきて、って言ったし。包丁見てたのは、この傷って切られた傷にしては紙で切ったみたいだなって見比べてたんだよ。深雪、刺されたのに結構ペロッと忘れるからそういう風に軽い傷になったんじゃないか? 起きてたなら言ってくれ」

「い、いや。忘れててごめん」

「いや、良いけど。俺が誰よりも愛してるのは高校の時から深雪だけなんだから疑うなよ」

「うん、まあ私も好き」

 真剣な顔で守くんが告白してくるのを赤くなって私も返事する。

「よし、それじゃ行こうぜ。倒したはずの5人の女もこのマンションの外に居て入ろうとしてくるし」

「ああ、この前も家の前で入ろうと騒いでたね」

「最近、強引に入ろうとしてくるからな」

 二人で頷きあって微笑みあう。

「どこへ行こうか、守くん」

「深雪とならどこへでも」

 私達は二人の同棲していたマンションから手を繋ぎあって消えていった。

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