幕間 遠き日
「なぁ、アルバ。実技の授業ってエロくないか」
体術の授業で組み合う女子生徒を見ながら、ルードはそんなことをもらした。
「その話の真偽は置いといて、僕達魔術科の生徒はあんまり体術の授業はとらないんだけどね」
アルバは女子の方から目を逸らし、気まずそうにしている。
「いいじゃん、こうして女子のくんずほぐれつしている姿が見れるんだからさ。それに、お前も体を動かすの好きだろ?」
「まぁ、嫌いではないよ。でも、この話を聞いたら、リアが拗ねそうだね」
「そうかー? あ、ほら、見ろよアルバ! あの子、すごい体勢っ痛ッ!」
興奮気味に声を上げるルードの頭が、隣でいい音を立てて、沈むのをアルバは見た。
「実技の授業で何もせず突っ立って、随分と余裕じゃないかしら」
アルバがおずおずとルードの背後を覗うと、そこには予想した通りの人物が立っていた。
黒髪の悪魔カンナである。彼女の肩まである黒髪が今にも生き物のように動き出しそうだ。怒髪天を衝く勢いである。
「痛ぇな、この脳筋呪術師見習い!」
頭を押さえながら起き上ったルードが悪態をつく。
そして、カンナの容赦ない一撃によってもう一度沈んだ。
「うぎゃっ」
アルバはそんなルードを見なかったことにする。
「やあ、カンナ」
手を軽く挙げて、挨拶するアルバの顔は心なしか青ざめていた。
「こんにちは、アルバ・ロギンシュ。優等生の意外な一面が見れて私は嬉しいわ」
カンナはニッコリと音が鳴りそうな笑顔を浮かべている。アルバには彼女の背後にドラゴンの幻覚が見えた。目は全く笑ってない。
「ち、違うよ、カンナさん。僕は見ていない。これはルードが一人でやっていたことだ」
「そう。だそうよ、ルード・エスタ」
「あー! アルバ、お前裏切ったな!」
ルードが非難の声を上げる。
次の瞬間には三人とも笑っていた。
入学してからリアとよく一緒にいることを見かけるこのカンナという少女は、魔術科では数少ない体術の実技をとっている一人だ。
リアと仲良くなったことで、アルバやルードとも仲良くなり、今日のような絡み方をしてくることも多くなった。
アルバはそれをとても楽しいことだと思っている。