幕間 確かな思い
この世界には自分達が未然に防ぐことができないことがたくさんあるのだとルードが初めて思ったのは、リアの魔力欠乏症が発覚したときだった。
それでも、ルードはどうにかなると思っていた。例えリアが天才魔術師じゃなくなっても、自分達と一緒に冒険することはできるとそう思っていたのだ。
「あー、クソッたれ」
「ルード、食べ物には罪はないよ。それに行儀が悪いし、言葉遣いも汚い」
ルードはひどくご機嫌ななめだった。フォークを力任せにスープの具材の肉に突き立てる。そのせいで、スープの汁が周りに飛び散った。
アルバはそんなルードを窘める。
「なんでリアなんだよ、天才だったから神様が嫉妬したのかよ。なぁ、カンナ、お前呪術師だろ神様を呪い殺してくれよ」
「馬鹿なことを言わないでくれるかしら。それにそんなこと神官職の人に聞かれたら、あなたの方が殺されるんじゃない?」
「そうだよ、ルード。食堂でそんなことはあまり言わない方がいい。幸い近くに神官職の人はいないみたいだけどね」
ルードと同じく不機嫌そうな顔をしているカンナに同調して、アルバが周りを見渡しながらそう言った。
「はいはい、流石優等生だな。最近調子もいいみたいだし、周りへのご機嫌伺いも完璧と」
「別にそういうつもりでいったんじゃないんだけど」
皮肉気にそう言うルードに、アルバは気まずそうに頭をかいた。
アルバは真面目な性格のおかげもあって、魔術科ではリアを抜いて今や首位の実力を持つようになっていた。反対にルードはリアのこともあってあまり実技の成績も芳しくない。
「あなた荒れるのは分かるけど人にあたらないでもらえるかしら。ただでさえ異世界との戦争が始まって、先行きの分からない不安に襲われているのに、不愉快だわ」
「別に荒れてねぇよ。お前だろ、荒れてんのは」
睨み合いを始める二人にアルバは困ったような笑みを浮かべる。
「まぁまぁ、言い合いはよそうよ。リアだって、悲しむよ」
「フンッ」
二人が同時に鼻を鳴らしてそっぽを向いたのを見て、アルバはますます苦笑した。
リアに与えられた個室の前にルードは立っていた。
「入らないのかい?」
突っ立ったまま動こうとしないルードに後ろからアルバが声をかけた。
振り返らずにルードは答える。
「アルバか。今入るよ」
ルードの手が入口である扉を叩こうと上がった。だが、そのまま動かなかくなってしまう。
「ルード?」
「なぁ、アルバ」
「何だい?」
「いや、何でもない」
ルードの手が扉を二度叩いた。
「はーい」
扉の向こうから幼い頃から二人がよく知っている声がする。
後ろにいるアルバには、ルードが「絶対治る、治るんだ」と小声で呟いてから、唾をのむ音が確かに聞こえた。
ゆっくりと扉が開き、金髪の少女が姿が、二人の目に映る。ルードとアルバの目は、彼女の色素が少し薄くなった髪をとらえる。ルードは少し顔を陰らせ、アルバはぎこちない笑顔を浮かべた。
少女の方もよく知る黒髪と赤髪の少年達の姿を確認して、いつものように無垢の赤子のように本当に嬉しそうに笑って言った。
「来てくれて、ありがとう」