「貴方にある程度の能力を与えましょう」「ある程度がどこまでなのかわかりません」
ある程度好きに。
この言葉ほど困る言葉は無い。
少なくとも俺は
これこれこんな能力がありますよ。ポイント内で好きに選んでくださいね
や
ステータス表示! の方が馴染みがあってまだやりやすい。
どんな異世界に行くのか分からない。
仕方ないので俺はこういった。
「あの」
『六原鍛冶さん?』
「あ、はい」
いきなりどこかわからない場所にいて思考停止していた俺はどこから呼んでいるのか分からないその声に少しだけ正気を取り戻した。周りを見る。うん、白い部屋だ。俺は死んだのかもしれない。ログインした瞬間に突然死。俺なら無い事も無いだろう。
『この度はガナ・スティリアにご応募いただき本当に有難うございます』
「あ、はい。当選させて頂きありがとうございます」
ついうっかり同じような感じで返してしまった。仕方ない。正しい話し方なんて分からない。
『さて、おそらくは非常に混乱しておられるかと思いますが結論を短く言うと、貴方は異世界に転移することになります。ネットでは異世界トリップ、でしたか。貴方は異世界トリップをすることになります』
「え、と……私、死んだんでしょうか」
『はい。ログインした瞬間に貴方は死亡されました』
死んでるのかよ! トリップじゃねえ!?
「それ、トリップじゃないですよ?」
『あら? そうでしたか? 転移先で現地に適応した身体に再構成してかつ地球時の容姿そのままに降り立つのでトリップ、で合っているかと』
「赤ん坊から、とかじゃないんですか?」
『転生だと記憶が大部分が消えて目的が達成されない可能性があるのでそのままです』
「でもそれは異世界…あれ? トリップで問題ないのか」
転生とは言いづらいし合ってるのか。現地適応済みトリップかな? まあうんもう死んだらしいのでどうでも良い。と言うよりこの状態が死ぬ前の幻の可能性もあるしな。
『世界を救うために地球人の力が必要なのです。そのため少数だけ募集したというのが真実です。あまりにも多くの応募があったので厳しい条件にする必要があると判断し、定めたのがあの二つ、貴方は運よくその二つの条件から外れていました。およそ残った数は46。その中から選ばれました。
最後まで残ったの少なっ! あと同時に46分の30は当たっても全く不思議でもないなとも思う。まあネトゲ初期はともかく今のご時世で本名とか複垢排除したらそこまで少なくても仕方ないとすぐ思い直した。
『とにかく、貴方は異世界に降り立ち世界を救う手伝いをすることになります。何もそのままと言うわけではありません。何か一つある程度希望にそった能力を付与しましょう』
ある程度? ……うん。最強にしてくれとか無敵にしてくれとか絶対に無理だという事だな、これは。ある程度なんて言ってる時点でチートじみた能力なんて無理に違いない。
「えっと他の方がどんな能力を希望したか分かりますか?」
「最強の強さを欲しい、却下。成長チートが欲しい、却下。不老不死が欲しい、承認。今のところこれだけです。不老不死希望が二人ですね」
不老不死OKなんですか……どう見ても一般人の身体で死ぬに死ねない苦しみを、という予感がひしひしとしたので選ばないことにした。何か嫌な予感がする。
「努力で能力成長とか出来るんですか? 向こうの世界で素振りをしたら剣の振りが早くなったとかそういう感じのが」
『御本人様の資質に応じて地球にいた時同様それらは成長しますよ。勿論怠ければ退化もします』
地球にいた時と同じって俺はアウトじゃないか。うん。この身体ではちょっと。成長チート駄目だったな。容姿変更とか出来そうだが美形になって誘拐、も普通にあり得る。
「危ない世界ですか?」
『平和な世界に意味も無く呼ぶと思いますか?』
「ごめんなさい」
当たり前のことをいうな、だよな。というか世界救えと言ったのに平和な世界なわけがない。呆れているのは仕方ない。
『お決まりになりましたらお呼びください』
深く考えても仕方ない。どうせ深く考えても他の29人には及ばないだろうという確信があった。ふと思い浮かんだこのアイデアでもう行こう、と思ったのだ。たぶん深く考えても思い付きでも俺はアイデアの質は変わらない。
「決まりました」
『……本当にですか?』
「ええ、深く考えるのが苦手な性質なので」
まあ何でも苦手ですけどね、と小声で言った後
「クエストをお願いします」
『は?』
とどこかから聞こえてくるその声はは疑問をはっきり滲ませていた。
『つまり、MMORPGで良くあるクエストと言う名の作業の提示と達成時の報酬が欲しいと』
「はい、考えた結果一番なじみのある作業がそれだなと思いまして」
というよりついさっきまでブラゲ(ブラウザゲームの略)でその作業やってましたから。
『そういえばネトゲプレイヤーでございましたね。なるほど」
「最初は簡単な物でお願いできますか? こう、チュートリアル的な物で。こなしていったら今から降り立つ世界の基礎的な知識が分かる、みたいな」
『なるほど…そういう能力ですか……ふむ、許可が下りました。承認します』
「ありがとうございます! 私は何か目標提示されないとおろおろするタイプで……世界を救えるか分かりませんんが、やれる範囲でやってみようと思います」
『期待しています』
「まあ地球で無職やってましたから役に立てるなら、役に立つことをしたいって思っていたんですよ」
失敗だらけで罵声で引きこもりやってるようなメンタル低い人間だが。
「行ってきます」
それでも最初だけはやる気があっても良い。でも、もし世界が救えなかったら……俺の働きが無いと世界が救えなくなるとか、ないよな?
『行ってらっしゃいませ、そこまで気負う必要はありませんよ。4人の勇者様に貴方達30人が世界を救えばいいんです。貴方一人が世界を救う必要は無いんです』
心を見透かされた気がした。
何だ、そう言う事か。主役がいるんだったら本当に気負う必要は無い。
自分の出来る範囲で手伝いをしよう。勇者に大事なことは任せた。自分は細部を頑張ろう。
大事な仕事を任されて緊張で動けないのが俺だ。
性に合う脇役で良い。
行ってきますと手を振ると行ってらっしゃいの声と共に眠気が訪れた。