反抗的な姉と従順だった妹の話
姉は失敗した。もっと育つまで待てばよかったものを。
ある富豪がそう言いました。息子が幼いころから手を出し続けて態度が硬化した姉。
無理やり手を出そうにも魔術を習得し力を伸ばした姉を刺激するのは危険です。
ならば姉は女としてではなく戦士として使おう。新たな娘を産ませた富豪はそう言いました。
新たに生ませた妹となる娘にはきちんと自分達に従順であるようにと注意を払って躾けました。
成功し妹は彼らに従順な少女となり。求めにもきちんと応じるようになりました。
ただし、彼らでは妹を受け入れるのには器不足でした。だから彼らはあっさりと僅か2年でその命を終えることになったのです。そんな従順な妹はこういわれるようになりました。吸精の女王、と。
「よくよく考えたら振り返ったらいなかった、というのはおかしいよな?」
あの後急いで帝都から脱出した後、どこに行こうかと迷った挙句すぐ近くの街の宿屋に行こうという話になった。どうやら帝都からすぐ近くにむらがあるらしく、それなら今日中にその村の宿屋に行こう、と思い立ったのだ。まだクエが終わっていない。次のクエで今の逃亡生活が楽になるクエが来るかもしれない。
サブクエストの報酬は奴隷首輪を何も道具も魔力も無く外せるようになるという今更いらない代物だった。ラムナ? 外す必要は無いです、と言ってそのままだ。
「え?」
ふと思い出す。ガラスの壁の向こうを、姉妹の戦いを見ていたのだからいきなりラムナの姿が横を見たら消えていましたというのはおかしいんじゃないか、と。普通は駆け寄っていく姿が横目に映っていないとおかしい。瞬間移動でもしたかのようだった。
「ああ、あれですか。単純にしゃがんで進んでいただけですが?」
「え?」
「だから四つん這いで進んでいただけです。俺が通路側に座っていて気づきませんでした? 時々そういう用途の女奴隷がそういう格好で巡回してましたよ? その一人の振りをしてあの壁まで進んでいっただけですよ」
あ、うん。そうか。色気のない女がそんなことをしていて不審がられなかったのか正直不思議だ。
「そもそも一番後ろの方の席に座っていたのに走って駆け寄っていたら壁にたどり着く前に止められてますって」
まあ、確かに不審者扱いで捕まっていたよな。そういえばいきなり現れて速攻でガラス砕いていたっけ。
「でも、まあ本当に神様の御使いと言っても不思議じゃないですよねぇ。奴隷の首輪解除の札を偶々ちょうど二つ持っていたんですから。予言とか出来たり、します?」
「だよねぇ。あつらえたように二つ。僕も出来が良すぎて実は敵が味方の振りしてるんじゃないかと疑ったよ」
姉とイチャイチャしていたと思ったらいつの間にか来ていたらしい。フレッタがラムナの横から首を突き出していた。背の高さが同じで年の近い子供二人のように見える。まあ片方は倍以上年齢に差がありそうだが。
「フレッタ。一応ご主人様、という事になるんだから言葉づかいに気をつけてね、っていったと思うけど」
「……案外お前そういう所堅いよな。 見かけは大雑把そうな感じに見えるんだけどな」
一人称が俺だし言葉遣いや態度なんて気にするなガハハとか言い出しても正直不思議じゃないと俺は思っていたんだが。そういえば何だかんだで敬語取れてないよな。
「こういう所はきっちりしないと駄目ですよ。首輪が無いから逆にきっちりしないと駄目です。こちらの方が態度が上なんだってきっちり示さないと駄目です。だって、ロクハラ様がこの4人の中で一番弱いんですよ。一番。だからこそ身分の上下はきっちりしないと、苦しい場面でロクハラ様を見切ってついてこなくなる、という事はあり得ます。ロクハラ様から逃げるのは簡単なんですから」
「ありませんよ」
フレッタの隣から頭一つ分大きな、だがフレッタと全く同じ髪型の少女が後ろから並んできた。この体制……結構危なくないか? 後ろ警戒する奴いない気がするんだが。とりあえず振り返る。俺が見た限りでは人影は無い。とは言えウィッタがいればいてもたぶん問題ない気がしないでもないが。奴隷の首輪を外して強大すぎて封じられていた力が本来の実力に、気の優しい性格で更に抑えていた力。
『姉さんは本当はすごく強いんだ』
凄く、という言葉は嘘偽りが無い。たぶん性格で抑えられていた力が妹よりちょっと優秀程度に人からは見えていたのだろう。
「ありません。ご主人様とラムナ様は救って下さったんです。私を、フレッタを、私達の絆を。私は貴方達を裏切りはしません。フレッタと私の両方が生きて笑えるようにしてくださった貴方達を見捨てることは、ありません」
「そうすることで信じてくれるっていうならいくらでもするよ?」
無言でラムナがこっちを見る。いや、そもそも俺は元々大して言葉づかいがどうとか気にしていないんだが。
「助けてくれるって事実の方が大切で言葉づかいを改めろ云々は今は意味が無い、と俺は思うがな。そもそも」
「お前は危なくなったら見捨てるような薄情な奴らを命を懸けて助けたのか?」
話は終わったので後は移動に専念しようか、とリュックと革袋を担ぎなおしたわけだがその横をラムナがわざとらしく背中を、というより尻をさすりながら近づいてきた。案外根に持つな。
「ああ、お尻が痛いです。いつ襲われてもおかしくないって状況で10回も本気で叩くんですから、どうかしてますよ」
大げさにお尻をさすりながらとんがりエルフが口をすぼめて不満そうにこちらを見てくる。
あの時お前がいなくなって俺一人で警備員達に囲まれそうになった時本気で死にそうな気がしたぞ。むしろ足を狙撃でもされて足を潰した後じっくり事情を聞いてやろう、なんてどうしようもない状況にならなかっただけまだマシだよ、せめて心の準備が出来るように俺に言ってから行けと言いたい。
「せめて俺にひとこと言ってから行けば頭をはたく位で済んだぞ?」
「そうしたら絶対やめろって止めてましたよね?」
まあ、うん。言ってたとは思うが。
「大丈夫、何とかしてくださると信じていましたから」
ああ、また新しい表情が見えたな……嘘くさい笑顔が。もうちょっと純粋な笑顔が見たいです。
二人にしてあげようね、というウィッタのそんな言葉と共に変な気を回した二人が警戒がてら後ろの方で姉妹で騒いでいるのを耳に入れながらふと思った事を聞いてみた。
「で、お前にしては後先考えない行動したな」
「可哀想な姉妹を見ていられなくて助けた、じゃおかしいですか?」
「そういう情があったら上のオークションの時にとっくに暴れていただろう。確かにあの姉妹は酷い事になりそうだったが、お前なら怨念でも送りながら行動はしないかと思っていたよ。危険な事とか可能な限り回避しようってお前だからな。神の啓示で助けろと言われたわけでも無いのにわざわざこのお尋ね者生活になってまでよくあの子達を助けることを選んだな、と」
「ロクハラ様の中でどれだけ俺は冷酷なエルフになってるんですか」
結果としてはそんな感じになってしまった俺の発言に下から目を細めて胸を張って睨むように見上げてくるラムナ。
薄いな、とどうでも良い所が気になった。いつの間にか、おそらくは四つん這いで移動するときだろう。革鎧を脱ぎ捨て、布の服だけを着ている事になるラムナはやっぱり美少年じゃないか、と尻を叩いた俺ですら錯覚するほどの少年の身体だった。大平原、とは誰の言葉だったか。
「胸見てるのは分かりますけど、その目はやめてくれませんか? 欲情されるより嫌なので」
「ああ、悪いな。だが安心しろ、そういう気持ちは一切ないからな。不快な思いさせたのは悪かった」
「それは、安心、です」
何故か妙に区切った言い方をしたラムナは話がそれている事に気付いたのだろう。
「俺にも妹、いますから」
と小さな声で言った。
「いたのか?」
ラムナを小さくしたような美少年か。腕白そうな感じだな。
「何を思ってるのか大体想像つきますけど、俺と違って胸、大きいですからね?」
ラムナ似で巨乳か。髪を伸ばせば確かに美少女かな。
「妹は俺と違って素直で、お淑やかで、可愛い子でした」
そうか、この様子じゃ姉としては目に入れても可愛い妹だったんだろう。丁度後ろでいちゃついている姉妹みたいなものだったのかな。ああ、胸の対比も……いや考えないようにしよう。
「奴隷の子ですから俺と同じ奴隷です。俺が10歳の頃、あんまり厭らしい手で触ってくるのに嫌気がさして身体と魔力鍛えて力つけた頃です。女としては扱いにくくなったという事で新しく出来たあの子には厳しい躾と甘やかしで自分達の言う事は何でも聞くように躾けましたよ。ええ、凄く従順な子だったんです。まあ俺と違って胸も大きかったし、そのころには俺は女としてより戦いの方が主な役割になってました」
そこで言葉をきってラムナは俯いた。
「俺と違って15歳でも普通に抱かれたりしてましたよ。親父も息子も1日7回はやってたんじゃないですかね」
7回……15歳人間年齢7歳? いや若いうちは成長が人間並みとかかもしれないが。それでも子供にその回数とか……多いな。ってか大丈夫かそんなにやって。
「普通に二年で死にましたよ。あいつが17歳、俺が27歳の時です。腹上死、ですよ。妹の性欲に耐えられなかったんです」
聞いてて生々しい話が来たが正直経験のない俺はどういう反応をしていいか全くわからない。ただそれらしくそうか、とだけ言っておいた。
「前のご主人様たちの教育で本当に大好きになっちゃってましたから求められるままに従順に抱かれていました。俺はあいつを気に入った新しいご主人様のところに警備員代わりのおまけで一緒に買われていました。まあ、全員腹上死しましたけど」
……ホラー?
「7年前に行方をくらませる前のあい、二つ名つきだったんですよ」
吸精の女王、と。
「『お姉ちゃんえっちなことには危なっかしいから気を付けてね』とだけ書かれた手紙だけ残して姿くらませたあいつに慌てて当時の新しい主人を説き伏せて近くを探したんですけどいない。探そうにも奴隷の状態だったので主人の近くにしかいれないくて」
それを解決しようと首輪の力無効にする術編み出したんですよ、一時的にしかすぎないですけどね、というラムナは言った。つまり、これで首輪の力を過信していた主を……
「俺を買っていくご主人様皆近場にしか移動しないんですよ。これじゃあ探せないな、とちょっとその度に」
「ナイフでサクッと」
「いや、そういうのはしてないです。そんなことはしてないんですが、そういう事で死に別れたんじゃなくてですね
……あいつに変な呪いがかけられたみたいなんですよ。大体1年くらいしたら何故か皆だんだんやせ細ってきて死んでしまうんです。だから危ないから俺を捨てた方が良いですよっていうんですけど、絶対に嫌だって言い出すんですよ。別に求められている護衛の役割はしっかりしますけど、抱かせろっていう要求も絶対嫌だって断ってきましたし、そんな好かれるようなことはした覚えは無いんです。おかしいなと思ってたんですけど、気づいたんです」
何となく予想が出来た。干からびたのか。
「あいつに搾り取られて死んだご主人様達の姿そっくりだな、と」
お前の妹夢魔じゃねえか。どう見ても夢の中で精とか搾り取ってるとかそういうのだろ。
「まあご主人様もその頃には捨てた方が良いですよ?」
「お前の妹ってだけで何となく残念な気がするからたぶん誘惑されないと思うけどな」
美人で胸のあるラムナと言うだけでどことなく残念な所は変わらない印象を持ってしまう。
「男は嫌いな方の俺ですけどそこまで言われたらそろそろ怒りますよ?」
まあそれよりも大きいのが呪い耐性がある事だろうが。
そもそも男が嫌いで女扱いするなと言うのに都合のいい時だけ女扱いしてほしいっていうのは無いと俺は思うんだが。
機嫌が悪くなったラムナを見て、俺は思った。本人の希望にあった身体つきだと思うんだが。
何て言うやり取りに聞き耳を立てていたらしく。それでも偶には女の子扱いされた時だってあるんですよ。と後で俺が怒られた。
今度からは胸の事は話題に出さないことにしよう。胸を見なければ大丈夫だ。
そんな他愛も無い話をしながら、歩く。後から聞いた話だと実は最後まで緊張感を持っていなかったのは俺だけであとはこまめに追手が無いか三人交代で順番に警戒していたらしいが、その心配とは裏腹に特に何事も無く、村に着いた。
そもそもこの状況で完全に気を抜けるわけないじゃないですか、とラムナに言われて本気でへこんだ。
この話を書いた後ようやく少し我に返りました。




