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日替わりクエスト!  作者: ゴロフォン
16/19

裏の見世物

 意味が分からない。

 僕も姉さんも優秀だ。

 二人いればずっと役立つのに

 どうして殺し合いをさせるのか

 どうしてどちらか一人は死ななければいけないのか


「親が死んで仲のいいたった二人だけになった姉妹がたった一人生き残るために、殺し合う。こういう悲劇は本当に受けが良いんだよ。まあ君もお姉さんもどちらも非常に優秀だからそういう意味では惜しいと言えるんだけどね」


「だからこそ、見ごたえがあり、それを見た観客は多くの金を落とすのさ。君たち一人分の代金くらいは、ね」



 最悪だ。でも、どうせ僕は姉さんに勝てないから、生きるのは姉さんだから、良いかな。





「はい、ロクハラ様ですね。アルメニタのレビチ家の方からお話は伺っております。どうぞ、中へ」

「ああ」


 電話かそれとも全く想像もつかない何か別の伝達手段があるらしく、不気味な程あっさりと俺達は中には入れていた。

 ラムナの表情ははっきり言って不機嫌そのものだ。さすがに訓練と言う名の元に向き合って顔を長く見ているのだからたまに何となく表情らしきものを浮かべることあることも分かる。目が細められ、かつ口が横に吊り上がっていない時が不機嫌な証だ。


 これで目を細めてついでに唇も横に吊り上がっているときは良い笑顔で俺のひいひい言ってる姿を見ているときだ。今のラムナは出会った当初よりは表情は豊かだと思う。



「奴隷ですからこういう所正直好きじゃないんですよ。やっぱり同じ境遇の他人の不幸をみるのはきついですしね」

 まあ、奴隷だしな。奴隷で奴隷市場大好き! とかいたら確かにおかしいだろう。

「とはいえカジ様の、ロクハラ様の身を一人で守るのは無理に近いですから、訳ありでそれなりの能力を持つ奴隷を買いましょう。最悪肉の壁で」

「いや、肉の壁は」

「全財産金2枚銀47枚。買えなくも無いですが、大金使った後旅が出来るかどうかも考えてお決めになってくださいね?」

「最悪、神頼みで」

「求めれば逃げ求めないと与えるものですよそういうのって。というより、出来ることは人間の力でやっていかないとな、と少し前に言っていた方がいたような」


 全く以って言い返せないです。自分で言ったことが跳ね返ってくるとか、沈黙は金ってこういうことをいうものだ、と身をもって今知った。



「さて、最後の数か月前に滅亡したミドルキナの王女様! 金30からどうぞ!」


 全く手が出なかった。オークション形式のが能力が高い奴隷が出ますよ、とのことなので後ろの身分が低い客用の客席に座りながら奴隷オークションの様子を見ていたが金がどう見ても手が出ない。やっぱり訳ありの奴隷とやらを探すしかないのか。


 気の強そうな姫騎士とかいう渾名を持つ王女様を落札するなんてこともなく、今日のオークションは普通に終わった。何だか姫様を凌辱するには映えそうだな、という中年親父が落札していたが特に正義の味方が来ることも無く、中年親父の慰み者になるのだろう。

「何か変なの混じってませんか?」

 とんとんと肩を叩かれ見ると黒髪黒目の美少年……日本人じゃねえか? と思われる少年が手を震わせて見ていた。よう、同胞、なんて奴隷を侍らせた俺が声をかけられるのは勇気がいる、まあここから出たら声でもかけるのはありか、と思いながら俺は終わったオークションから退出しようと席を立った。


「ロクハラ様。一つ面白い催しがあるのですが見ていかれませんか?」

「え?」


 裏イベント、と言うやつらしい。奴隷を可哀想だと思って意味も無い憤りを覚える客もいますので、そういう方にはこの催し見せられないんですよ、と男は俺に言った。

「貴方は奴隷市に表情を変えずに関心も無さそうに眺めておられましたからな。下らない正義心はお持ちでないのでしょう。正直この催しも退屈されそうですが一度だけでも試しにご覧になってはいかがですか? とのことだった。アルメニタでは神の御使いで通ってたはずだがそんなに正義心無いように見えたのだろうか。暴れても俺では大したことは出来ない、と思ったからだしな。

もしかしたら何とか出来そうなクエスト帳はそもそも今日の宿屋に着きましょう、だから今回は無理そうだ。奴隷売買云々は自由行動扱いなのだろう。


「日本人にはきついイベントだな」

 隣の相方から答えが返ってこない。未だかつてないほど不機嫌、ではなく怒りの、という顔で円形のガラスで覆われて隔離された中央の戦闘用の広場を見ていた。


 司会の説明によると、高名な魔術師を輩出する名門貴族、だった姉妹が生き残るために殺し合いをするらしい。幼いですがどちらも優秀で見ごたえのある戦いを見れることでしょう、なんて言っていた。ああ、仲良しだった姉妹は残酷な運命に見舞われたのです、みたいなあおりも入れていた。

 趣味は最悪だ。正直こういうのは無くなってもいいと思う。


 とは言えこういう娯楽は無くならないだろう。貴族ある限りこういうイベントは一定の需要がある。それこそ貴族は根絶やしだ! ぐらいはしないと駄目だが、まあその場合この国どころか他の国の要人にも睨まれてあっさり死ぬだろうな。


 取りあえず客席全体をざっと見る。遠くは良く見えないがたぶん黒髪の美少年はいなかった。呼ばれなかったのだろう。こういうの見たら間違いなく貴族は殺せ! と大暴れするのが目に見えていたからだろう。


「さあ、哀れな姉妹の二人で行う最後の踊り、とくと見ましょう!」

 いつの間にか出てきていた二人の少女が戦闘場でそれぞれ向き合ったの確認した後、司会が開始の合図をきった。


 正直、どちらもよく似ている。強いて言うなら背の高い大人びた表情の少女が姉か。目が死んでるように見える小柄な少女が妹か。どちらも遠くから見ても艶のあると分かる美しい髪を長く伸ばしていた。首輪が見えるので予想通り奴隷なのだろう。というより奴隷じゃないとこんなことさせられないよな。



 全く以って戦いは派手でも何でもなかった。妹のやる気のなさが凄まじい。申し訳程度に小さな赤色の炎の球を散発的に飛ばして姉の方に飛んでいくが、そもそもあてる気すら見えない。その様に相手の姉が困ったように笑みを浮かべ、その様子を見た観客たちからブーイングが浮かんでいた。

「ああー、申し訳ないです。仲が良すぎて相手を倒す、という気力が無いみたいで。なので条件を変更しましょう! 相手を戦闘不能にした方が相手を助けられる! つまり相手を倒さないと自分じゃなくて大事な相手が死んでしまう、という事ですね! それで行きましょう!」

 隣を見る。


 ……本気でまずい、気分も悪いし結果見ずにラムナ連れて帰った方が良いかもしれん。


 一転して激戦になった。自分じゃなく相手が死ぬというのだ。自分は死んでも姉は、妹には生きてほしいと……そういう思いなのだろう。戦いが激しくなるたびに隣のトンガリエルフの周辺の気温も上がっている気がする。帰ろうよ、と言える雰囲気じゃない。激しい激戦にブーイングを飛ばしていた観客も激しい歓声を上げていた。



「ごめんね! 痛い思いをさせてほんとに……ごめんね」

 最終的に立っていたのは姉だった。バリア……らしきなにかを破って水の球を腹に直撃し呼吸が苦しくなったのかうずくまった妹にさらに追い打ちの水の球を浴びせ、行動不能にして彼女は勝った。

 どういう仕組みかは知らないが遠くにいるのに声がこちらにも届く。まあ原理は分からないが魔術的な手段で音を拾ってこっちにも聞こえるようなしてるんだろう。魔術全然万歳じゃねえ。


「おね、ちゃ、まっ、て」

 妹も立ち上がろうとしているが震えるだけで立ち上がれる気配が無い。勝負は決まっていた。


「姉のウィッタの勝利! 変更した勝利条件通り妹のフレッタが生存、ウィッタの死亡となりました! 勝者でウィッタに盛大な拍手をお願いします!」

 笑顔で妹を見ている姉……最後に泣いた姿を見せたくない、のだろうと思う。


「さて、処刑方法ですが、やはり見目麗しい少女、そちらの魅力も出したいでしょう、ですので股打ちをしたいと思います! 皆さんご存知でしょうが、女性だって股間を強く打ち続けられれば、死ぬんですよ? 被虐の快楽に目覚めて沈むか、泣き叫んで死ぬか、どちらにしても行きつく先は死亡! 哀れ少女の最期の姿をすぐ傍で大事な妹と一緒に眺めましょう!」


 隣を見た。




 誰もいない。



「砕き、射抜け! 抉り、壊せ!」


 結界破壊、という良く見知った声がガラスの壁から聞こえた。



 せめてやるなら言えよ。




 こっちにあからさまにやばそうな男達が、近づいてくるのが見えた。



「どういうことだ?」

 短い問いかけ。たぶんどうこたえても死ぬ。貴族でも何でもない俺は生かす意味は無い。ははは奴隷の暴走でしてね、なんて言い訳は無理だ……いう気も無い。


「くそ、計画を前に早まりやがって! 皆の準備完了の合図を待って始めるって言っただろうこの馬鹿エルフ!」

「な、おい それは」


「聞くが良い。このような悪行許されるものか! 観客席各所にいる同胞がきっとお前達を根絶やしにするだろう!」

 取りあえず、疑心を植え付ける。


 俺はまさか、という顔で一瞬観客席を見た男達の隙をぎりぎりついて


 入口に向き直りながら、閃光弾を一つを後ろに放り、次に今いるここに投げた。目を閉じる


 一瞬閃光が眼に浮かぶ、その俺は


 閃光がやまないうちにくるりと反転して入口ではなく馬鹿エルフが開けたガラスの方を向かって走り出した。ラムナ頼りの俺がラムナから離れて入口に行くわけがない。神官の結界の護符を使う



 何かが当たったが、効果が弱いのか衝撃だけは通る。が、ぎりぎり何とか耐えられる、耐えないと死ぬ。そうしてガラスの中の戦闘場に飛び込んで


「この馬鹿エルフ! 言ってからやれよ! 死ぬかと思ったぞ!」

「いやいや、ロクハラ様なら何とかされると思ったので」

 無駄に良い笑顔をして倒れた妹に回復魔術をうちながら誤魔化そうとするそのエルフに

「その無駄に過剰な期待でおそらく下手すれば死んでいただろうな。後で、尻叩きな? もちろん、そういう意図は無いぞ? ……本気の怒りの尻叩きだ」

 混乱している会場に取りあえず閃光弾を一個投げる。俺達に逃げ場は無いと判断したのか観客の避難誘導を優先し、こちらに向かってくる様子はまだない。逃げ場確かにない。空間転移とか出来ないものか。できないよな。

「は、はは。女の子の我儘を許してこそ良い男ってものですよ?」

「女の子? 年と胸を見てから言え……とはいえさて、どうするか」


「ありがとう、って言いたいですけど。意味なんてないのに」

困ったように、眉を下げ、それでもやっぱり嬉しいのか口元は緩んでいる。

「無くても我慢が出来なかったからやったんです」

トンガリ耳は全く後悔した様子も無く妹を治療しながら彼女に言い

「その我儘に巻き込まれて絶体絶命だよ」

取りあえず憎まれ口を俺は叩いた。

「何とかしてくださいよ? 神の御使い様」

 余計な時ばっかりいい笑顔を浮かべる馬鹿エルフに。

 なにも思いつかなかったので神頼みを俺はした。


 サブクエスト

 解放をしましょう。貴方は最大戦力を解放する鍵を私ですらご都合主義と断じるほど都合良く二つ持っているはず。


 ……何だ。無駄な買い物だとこいつは言ってたのに最高の効果あったじゃないか。



 熱気があった。これ以上にないほどの熱気。これは何が理由かと言われれば今の状況ではこれしかないだろう。


 怒りの熱気だ。




 二つ、ここから抜け出せた俺達に勝因があった。一つは本気でご都合主義を疑うレベルの首輪解呪の札二つ。まあラムナと俺が買おうとしていた奴隷一人の二人分だったのだがそれがぴったり別の二人に当てはまった。



 もう一つは上でここの混乱に便乗するように暴れていると思われる、先ほどから轟音が鳴り響くおそらくは正義の味方がいることだ。



「なるほど、随分と」

 男達の言葉は続かなかった。

「お姉ちゃんは本気で凄いんだよ」



 首輪で抑えられていた、本気の魔術の申し子が、魔術の怪物が、何の遠慮も良心の呵責も無く力を無意識に抑えていた優しさも消し飛ばし。結果、地下の会場も消し飛ばした。




「ラムナさん。神の御使いからお尋ね者になった件について聞きたいことがあるのですが」

「尻が本気でいたいのでもうそれで勘弁してくれませんかね? ほら、美少女のお尻を叩けて」

「胸と年を考えて言え、と言ったはずだよな?  ただの怒りの尻叩きだといったはずだよな? そして自分は護衛と言ったのにその護衛するべき俺を置いてどこかに行ってしまって置いてかれた俺は死ぬ可能性が本気で高かったわけだが?」

「は、ははは。ロクハラ様なら大丈夫、だと」

 自分でも信じていない言い訳をするトンガリエルフにまだお仕置きが必要か、と思ったが

「ご、ごめんなさい。私達のせいで」

「だ、大丈夫。僕たちが守るから。ほら、首輪は無くなっちゃったけど奴隷になるから、ね?」

 まあ、確かにもうどうこう言ってもどうにかなる段階じゃない。


「奴隷はどうでも良いが護衛は頼むぞ。時々神様の助けが受けられる以外本気で大したことないからな。もう、この段階になったら俺の命はお前ら任せで行くしかないんだからな?」


「はい! 任せてください!」

「お姉ちゃんと僕の二人なら、負けないから!」

「いざとなったら神の鬼畜様が何とかしてくださいますよ」


 まだ言うか。



尻叩きは迷いましたが拳で顎を打ち抜くのもどうかと思ったのでこちらに。一言言ってから行っていれば変わっていました。


色的な話は奴隷編が終わったので多分これで終わりです。

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