人の力で
ドルミラ編の短いエピローグのようなものです。
ああ、そうだ。と女神は思った。
自分はすっかり忘れていた。
この世界の生き物は神の力が無くても自分達でやっていけるのだと。
足りなかった勇者と言う存在が帰ってきたことで、この世界はきっと最後には自分達の力でどうにかするだろうと、女神はかつて信じていたはずのその心を人から教えられた。
「神の啓示を無視した!? ロクハラ様! 何! やってるんですか!? 道理で封印だけで倒しはしなかったなと不思議には思ってましたけど!」
「まあ、わがままだけどな。ただ、俺がその高位貴族と相対していたらな、たぶん最後は神様の力をピカーッと使って解決することになるんだろうなと思ったんだ」
「まあ、おそらくそうでしょう。ロクハラ様自身に強い力だとかはありませんし。貢献度とやらでアルメスタの時のように裁きをくれてやったのでしょう。ですが、結果がどうであれ魔族を倒すのに違いは無いんです。貴方はきっと自分の力でそれを成せないのに不満を覚えているのでしょうが、貴方の一番の持ち味は神の啓示を受けられることだけで、それ以外はその胡散臭い説法しかないことを自覚してください」
「随分厳しい物言いだな?」
「出来たはずの魔族討伐をわざわざしなかったなんて言うんですからこういう言い方にもなります」
「……まあ、クエスト帳以外は凡人以下だなんて自覚しているさ。だから、それが出来る奴に丸投げしたんだろ」
「神様が何でも解決するってんなら勇者、なんていらないさ。それが出来ないから勇者を、俺らを呼んだんだろうさ。俺らはいつでも助けてくれるか分からない神に頼りきりになる前に、出来ることは自分達でする必要があるんじゃないか、って思っただけさ。あるのかないのかわからない今回で貯めた貢献度とやらは次に回そうじゃないか。勇者でもどうにも出来ない時に、な。まあ幸い後封印は2年は持つらしいし、そこまで行っても勇者が来なかったら俺たちの責任として命を懸けようじゃないか」
クエスト帳を見ながら、俺はやはり目の前の怒りの形相のラムナが怖いので蚊の鳴くような声でそう反論した。
啓示 神への反論について
今回の原因は私が貴方にかかりきりで他の地球人の観察を怠ったことで起きた私の責任。だから私は準備を整えた後にせめて最後は私の力でもって彼に最期を与えよう、そう考えていました。
この世界は前だって私の力無しに自分達だけで世界を救ったんです。私が思っている以上にこの世界は弱くはないと、勇者は弱くは無いと思い出しました。
今回の件は私の招いたいらぬ災いでそれに対して何らかの形で報いなければなりませんが、ですがそれとは別に勇者が、人としての強さを持った勇者はきっと彼を乗り越えられると信じましょう。勇者がいれば世界の危機は世界の住民だけで乗り越えられるのだと信じましょう。
報酬、迷宮の封印の強化。あの程度の結界石で年単位も封印が持つわけがありません。人の力を信じる貴方に待ち人が来るまでの封印の維持を。勇者の来訪を待ちます。




