迷宮都市・ドルミラ
迷宮生活8日目
言われるままにたどり着いたら街は既に廃墟だった。
既に手遅れじゃないか、と思ったら冒険者組合だけはまだぎりぎり大丈夫だった。
むしろここしか無事な場所が無い。
まず最初の日に何故か防炎機能を持った暑苦しいジャケットとやたらとでかい防炎背負い袋が1週間で消滅と言う、期限付きで服二つ、背負い袋一つ来た。サイズが微妙に違う所を見ると、ラムナに着せろという事だろう。一応渡しておく。渡すとき
「マジックアイテム虚空から出すなんてすごいんですねー」
と棒読みで言われたのを覚えている。
緊急事態でも忘れさせないぞ、と言う意思が伝わるハロワ―クエストをラムナに虚空から物をだす様子にこれ以上ないくらい怪訝な目でみられながら乗り越え、やってきたドルミラ。話によると迷宮都市と言う近郊にいくつか迷宮と言う魔王が作ったと言われる魔物たちの住処があるらしいのだがその魔物達からとれる素材の交易によって成り立っている街だとのことだった。
……のだが、数日前全身が真っ赤な巨体で右手に持った巨大な剣で恐ろしいほど広範囲に炎を振りまき周辺を焦土に変える高位の魔族が現れたらしい。知性は見当たらないがどうしようもないほどに能力が強力で現在倒せる見込みがない。偶々近くを通りかかった冒険者が近隣の街に情報を知らせ、それを受けた高位冒険者のパーティが何組か向かってはいるが、たまたま近くの別の迷宮で活動していて二日で迅速にたどり着いたという上位冒険者三組のうち二組が返り討ち、一組は一人を残して全滅の憂き目にあったという話だった。アルメスタも割と近くだったと思われるのに当時のトップがトップだったからか救援にはいっていない。行っても無駄だと判断したのかもしれない。
アルメスタを出た時は草がいたるところに生えた、気が向いた時は傷薬になる花をつんだり出来る平原だったというのに唐突に扇状の焦土が至る所に目立ちだし、ドルミラにつくころには見渡す限り焦土と言うありさま。既に俺が出来そうなことが無いのですがこれ、推奨目的地で本当に大丈夫なのか。
ドルミラ到着達成! と言うクエと共にたどり着いたそこは検問すら機能していないどうみても滅びた街という印象しか浮かばない街だった。これは救援出さないわ。
というより殆どの建物が飴細工のように溶けてる。あと所々湯気が立っている気がする……ジャケットはこのためか。というより炎カットしても空気で肺が焦げそうな気がしたが熱い空気も遮断できるのか。
むしろそうじゃないと推奨地なのに来てそうそう死亡と言う酷い結末で来させられた意味が無い。
「こんな場所に平然と立つことが出来るようになる装備を持っておられるなんて、流石は神の御使い様」
やめてくれといっておいた。
「お前達は何者だ!」
これをやらかしただろう高位魔族に遭わないように祈りながら、これは誰ももう残っていないだろうな、というより死体すら粉になったのか溶けたのか残っていない、むしろその意味で死体を見なくて精神的に楽と言う状態の燃え尽きた街を歩きながら街も中央に差し掛かった時、声が聞こえた。
「ロクハラ様!」
緊張した様子のラムナに応と頷いて後ろに隠れる俺、格好悪いが正直今は俺に力は無い。ラムナに全て任せるしかなかった。
見回すと明らかにおかしい場所があった。一つだけ周囲と明らかに違う空間にあるような傷一つない大きな建物があったのだ。その両隣の建物は溶けているというのが余計に一つだけ全くの被害なしと言うその建物に違和感を覚えさせていた。
「ドルミラに現れた魔族について調査に来た者だ! そちらは生存者か!?」
「……そうだが、なぜお前達はこの灼熱の地を何事も無いように歩いている? 結界から一歩でも出れば常人なら焼け死ぬというのに」
「マジックアイテムだ! 熱を防ぐマジックアイテムを身に着けている! むしろここの魔族の噂を聞いて対策を練っていない奴があるか!」
神頼みだ。実際は神様の用意した物を訳も分からず来ていただけのような気がするがはったりだって今は大事だよ。
「そうか……そうだな。炎王の噂を聞いたのだから対策はしていて当たり前か。随分性能の良いマジックアイテムのようだ」
「俺の後ろには無名だが力の強い支援者がいるからな。支援を受ける代わりにこう言う下っ端として活動しているわけだ」
「なるほど……分かった。入れ。他に熱を防ぐマジックアイテムは持っていないか?」
「すまない、二人分しか用意できなかったんだ。ただ、多少の食糧と武器防具は持っている。俺が使えるものという事でナイフしかないが無いよりはましなはずだ」
「十分だ! ここに閉じ込められて食糧も心許なくなってきていたところなんだ、十分さ」
ミイラがあった。聞けばまだ若い神官達だったという。命を燃やす代わりに炎王と呼ばれる高位魔族からの攻撃すら遮断し、同時に熱を遮断する結界を張った彼らはその命を散らせたという。手を合わせる。ありがとうと入口で俺達を警戒していたサブラと名乗った男が言った。冒険者でドルミラを拠点としていた男で、今回の事で仲間や友人が多数亡くなったという。それでも僅かばかり残った人間は守りたい、と彼は言っていた。
命を賭して発動させたその結界は絶対的な物だった。だが、術者が死亡した以上結界を移動して安全地帯まで向かう、と言うことが出来ずじり貧だったという。
何ができるのかを考える。まずはクエストの遂行だろう。ここまで来させたのだからおそらくはそれで状況を打開する何かが出来る可能性は高い。最悪な場合は俺が防炎ジャケットを脱いでラムナと誰か一人を同行させ、熱くない安全地帯まで向かった後ジャケット回収してまた別の誰かが……と言う手が思い浮かんだが、そんなちんたらしてたら炎王とやらに襲われて死んでる可能性凄い高いよな。正直人を煽るのは楽だがこういう救助作業は俺には厳しい。
「食料はやはり少数で来たからか、少なめか……だが無いよりは遥かにましだ。それにこの熱を防ぐ背負い袋と防炎具は本当に助かる。だが、二人分ではな……せめてもう一人分あれば」
クエスト帳を見る。
6、生存者を探そう。達成! 生存者を見つけられましたね。まずは持っている物の一部を支援として分け与えましょう。まずはそれからです。報酬、吸熱石5個。
いきなり解決法その1が来た。名前からしてたぶんそこらへんに放っておけば熱を吸収して温度下げてくれるんだろう。革鎧に手を突っ込んで受け取った後いかにも革鎧の中から取り出しましたと言わんばかりに
取っておく。
「待ってくれ、そういえばこんなものを持たされていたことを思い出した。吸熱石と言う熱を吸い取る石らしいんだが使えるだろうか」
「何だって! これは、この純度の吸熱石ならもしかしたら! 良くやったぞ! 活動範囲を広げられるかもしれない!」
何だかこう、便利な道具を出す某狸型の人を思い出した。熱関係で受けられた恩恵が形を成したんだろう。
7、神殿地下に巨大結界石が安置されているので取りに行きましょう。巨大と言ってもすべての荷物を出した防炎リュックに入りきる大きさなので問題ありません。ただ、迷宮での負傷がもとで死んだ冒険者の死体を利用して作ったものなので周辺を悪霊が徘徊している可能性があります。注意してください。
これにより発動する術の範囲が拡大可能です。
推奨行動としては余裕があれば司祭の霊は浄化したほうが良いかもしれません。霊体に効果のある武器を貴方は所有しているはず。
死体から作った結界石か……いやそんな事を言っている暇は無いな。推奨行動?
ああ、そうか。売り物だと思っていた銀のナイフを使う時来たのか。
「聞いてくれ、実は一つ案がある。」
「ん? どうした? ロクハラ、何かまだ持っていたのか?」
俺は話しかける相手としてサブラを選んだ。たった一人残った上級冒険者はあの命を賭した神官たちの一人でサブラが実質上のトップだと聞かされていたからだ。トップであるから一番の危険を担う、か。
「いや、持ってはいない。ただ現在の状況を打破できるかもしれない方法は思いついた」
「な、何だと!? そんなものがあるのか?」
待て待て! 革鎧を掴まれたら話が。
「く、くる」
「あ、悪い。興奮してたもんでな。それで、どういう案なんだ?」
「ドルミラ地下神殿にあると噂がある、巨大な結界石を使う。俺の支援者がもし、何かあればそれを探すといいと言っていたことを思い出した」
「は? 地下神殿? いくらあいつらが金に意地汚いからってそんな怪しい……あってもおかしくないな。あいつらなら」
信用が無かったのか迷宮が近くにあるという事で需要が多くて金をぼったくり過ぎていたのか。神官はそんなことをしていてもおかしくない、って思われるとか生臭坊主だったのか。
「俺もどうやって支援者が情報を仕入れているのかは分からん。だが、使えるものなら使うべきだ。おそらく巨大結界石を核にすることでこの街全体まで結界の範囲を広げられる可能性は高い」
「そういうことか……よし、行ってこよう。お前は場所を知らないだろ?」
「そうだが……俺が行こう。と言うよりも俺が行かないと駄目な予感がするんだ?」
「は?」
クエスト達成がたぶん俺がいかないとならない可能性が高い。それが無かったらどうぞどうぞ、だったんだがここでクエストが止まったら報酬が受け取られない。
「神の御使い様の事ですから何かあるんじゃないですか?」
「は?」
「……その呼び方はやめてくれっていつもいってるじゃないか?」
「この方、アルメスタで圧政を強いてたメルシナ家を終焉に導いた英雄様ですよ、一応」
……正直出したくない肩書だが使えば行けるかもしれない、と思ったからラムナは口を挟んだのだろう。
「え、アルメスタ? そういや盗賊団が暴れていたというあそこか? 自警団が解決するってんで盗賊捕縛の依頼が出なくて金にならないからって冒険者は立ち寄らなくなったらしいが」
圧力とかメルシナ家つええ。とは言えもう故人か。
「まあきっかけくらいにはなったかもしれんな。まあ、俺がたぶん行かないといけない何かがあるんだろうと思う。だから俺が行きたいんだ。必ず、と言う言葉を使うと失敗しそうだから全力で取ってくる」
「そうか……」
顎に手を当てて何かを考え込む様子を見せていたサブラだが考えがまとまったようで手を降ろす。
「分かった。頼む。防炎具はお前達が来ていた二つしかないわけだから二人で行くことになるわけだが、まあ見知った顔の方が良いだろう。ラムナ、頼んだぞ」
「分かってます。まあ今はロクハラ様はひ弱ですから俺の力が必要でしょう。全力で守りますから任せてください」
「本当に任せたぞ」
お前の力が本当に生命線だからな。一度は大丈夫だろうが能力使いたくないです。
「所でロクハラ様?」
「どうした?」
「どれくらい貢献度貯めればセーラ家みたいなことできますかね?」
……何かおかしな質問が来た。
「思えば貴方と同行するようになってからここ数日妙な行動を取っていました。立ち止まって何もない場所を見ていたり、あるいはいきなり意味も無く食事前に運動をしだしたり」
「健康のための運動だよ。それ以外意味は無いさ」
「嫌そうな顔をしながら運動をしていてですか? 確かに運動が必要な身体ですけど、自分からやるような性分じゃないですよね? 運動が終わったらどこかから物が出て来た、まるで見えない文字で指図されていた運動の対価みたいに、です」
……おかしいな。もう、ラムナがクエスト帳持てばいいんじゃないか、と思ったよ。
「……ちょっと無理かな。あれの代わりに俺は蘇生の祝福失くしたからな。もう一度あの祝福貰えるくらいには貢献度貯めないと無理そうだよ」
「そうですか」
「ではまず今回の仕事、頑張りましょう」
無表情なのに、妙に笑みを浮かべているように見えた。
主従逆転したような錯覚を覚えた。
奴隷に対しての主人公の立場が微妙に。もっと従順に行くはず、だったんですが。




