第3話 初恋は透き通る
それから2週間が経った。
「ただいまー。」
透明な私は大きな声を出し、和樹の家に入った。
「かずきー、いないの?」
聞こえないと分かっててワザと大声で言う。
部屋に和樹の姿はなかった。
2週間前の、彼の家に入ることすらためらっていた私はもうどこにもいない。
私は気づいたのだ。
誰にも見えないなら、何をしたって許されるということに。
私が頭の中で自由に妄想することは誰に責められる筋合いもないという事に。
大沢和樹は私の彼氏。呼び方も「大沢くん」から「和樹」になった。
私は彼から合鍵を渡されているし、彼の親も公認だから家を自由に出入りすることを許されている。
頻繁に家に来るため、家に入る際には「ただいま」と言ってしまう。
その妄想を私は彼の家で、そして彼の目の前で堂々と演じて見せるのだ。
彼は見えているどころか、私の気持ちにすら気づいてはいないだろう。
それでもよかった。
彼の布団に入って添い寝をするだけでも、彼の飲みかけのお茶を少しだけ飲むだけでも、休日の買い物にひっそりついて行くだけでも。
嬉しくて、ドキドキして、もっと和樹のことを好きになった。
人の男を取るような勇気はない私にとって、クリアリズムはもう必需品になっていた。
歪んだ恋愛かもしれないけど、私にとっては初めての恋愛で初めての彼氏だ。(彼氏と言っていいか分からないけど。)
幸せだからそれでいいって考えるようになった。
私は和樹にいつでも会いたかった。
透明人間になって和樹の部活や出掛け先について行く。
それか冬休みは学校がないから、和樹に会うには部活を終える時間に合わせて家に行くしかない。
朝から晩まで一緒に居たいがために、クリアリズムの摂取基準を無視し大量に薬を飲む日もあった。
飲みすぎて体調が悪くなる時もあったけど、それでもいいんだ。
私は、それだけ和樹の事を・・・
ガチャ、部屋に和樹が入ってくる。
「おかえり。部活お疲れ様。」
私は‘和樹の彼女’として対応する。
するといつもの様に和樹はベットに倒れこみ、そのまま寝てしまった。
「和樹ったらぁ、そのまま寝たら制服シワになっちゃうでしょ?」
私もベッドに入る。何も知らない和樹は安心しきった無垢な顔で眠っている。
その顔を見ていて、やっぱり好きだと思った。
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「わぁ!!」
和樹の大声で私は目を覚ませた。
一緒にベッドに入ったまま眠ってしまったのだ。
布団の中で和樹は目をまん丸にしてこちらを見ていた。
驚いた顔もかわいい。
「和樹・・・驚いた顔もかわいい。」
そう言って私は和樹の頬に触れる。
と言っても、透明人間なので触ることはできな・・・・・
・・・・・・・さわれる。
「あゆちゃん・・・?なんで俺のベッドの中に!?」
和樹には私が見えていた。
そう。寝ている間にクリアリズムの効果が切れていたのだ。
どうしたらいいの!?