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8、 キンシンショブン



 次の日の朝、学校は大騒ぎだった。

 マキもあやねも何も知らずに登校して、友達からうわさを聞いた。

「勇次くんと都さん、工事現場でいたずらしてつかまったんだって!作業員がひとり、大けがしたらしいよ!」

 ふたりは真っ青になった。

 まめも青い顔をしながら登校してきた。

「どうしよう。まめ君!」

 まめは、あまりのことに返事も出来なかった。まめは、自分の計画したことで勇次と都がひどい思いをしていると思うと、ショックが大きかったのだ。

 一時間目、となりのクラスの先生が自習のプリントを配りにやってきた。

「木内先生はご用があって今日は学校に来られないので、自習になります」

 勇次と都に付きそって、警察にいるのだろう。

「先生! 勇次君と都さん、どうなるんですか?」

 事件のことは、もうすっかりみんなに知れわたっていて、先生も今さらかくしようがない。

「そのことは、よくわけを聞かないと何も言えません。とにかく、今日はしっかりと自習をしていて、本当のことが分かるまで余計なおしゃべりはしないように!」

「先生!」

 ガタンと立ち上がったのはマキ。そして、まめとあやねも同時に立ち上がっていた。


 となりのクラスの先生に連れられて校長室に入った三人は、たくさんの先生に囲まれながら話を聞かれた。

 理由を説明しても分かってはくれないだろうし、どう言っていいのか分からない。

 ただただ、先生たちのため息や問いつめるような言葉に、だまってうなだれているしかなかった。

 しばらくして、三人のお母さんたちが呼び出されてやってきて、涙ながらに先生たちに頭を下げたり、子供たちをなじったり……。   

 そんな母親たちの姿に、三人はよけい、いたたまれない思いがした。マキも、あやねも、まめも、ただおしだまって、大人たちに言われるままにするしかなかった。


 キンシンショブンというのだろうか。五人はしばらく学校に行かなくていい。いや、学校に出るなということになった。

 小学生には本当はそんなことはできないのだが、この事件があまりにも広がりすぎてしまい、ほかの子に影響するなどのPTAの声も上がったこと、そして何より五人が教室にいづらいだろうという先生たちの意見だった。

 マキは、家でもお父さんとお母さんにさんざんしかられ、学校にも行かれなくなって悲しかった。

 何よりも、自分たちがよかれと思ってやったことで、こんなにみんなに迷惑がかかるとは思ってみなかったのだから。

 きっと、勇次も、都も、まめも、あやねも、同じ思いでいるにちがいない。そう思うと、また心が痛んだ。


 学校を休んで二、三日して、木内先生がマキの家にやってきた。マキはまたしかられるのかとビクビクした。

 木内先生はお母さんに「ふたりで話をさせてください」と言って、マキの部屋に来た。

 正座をしてうつむいているマキに、木内先生は言った。

「大変だったな。もう、十分反省していると思うが、ほかの子たちの影響を考えて、学校にもどしてやれなくてごめんな」

 マキはてっきりおこられるのかと思っていたので、この先生の言葉におどろいた。

「先生!」

 マキはがまんしていたなみだがどんどん出てきて、止まらなかった。

 木内先生はマキの頭を優しくなでてくれた。

「お前たちが人を困らせようとしてやったことじゃないことは、よく分かっているよ。ほかの四人もそうだ。それなのに、考えた以上に大きなことになって、一番びっくりしているのは自分自身だろ?」

 六年生に、『うちきな木内』なんてあだなをつけられているほど、いつもたよりなさそうな先生が、実はマキたちのことを一番よく知っていてくれた。

 マキは、それだけで、もう何よりもうれしかった。


 その後は、けがをした人を見舞ったり、警察が来て事情を聞いていったり、大変な日々が続いた。

 しかしそんなことが落ち着いてきたころ、木内先生が五人の家族に、まめの家をかりて学校が終わったあと勉強会を開きたいと、もうし出てくれた。

 六年生の一番大事な時間をむだにするわけにはいかないからと、先生は一所懸命それぞれの親たちを説得してくれて、やっと勉強会が実現することになったのだ。

 勉強会がはじめて行われる日、マキはお母さんに連れられて、まめのうちをたずねた。 

 お母さんは手みやげのお菓子をわたして、まめのお母さんと木内先生に何度も頭を下げてマキを置いていった。

 まめの部屋には、あやねも勇次もいた。

 ひさしぶりにこんな形で顔を合わせたものだから、最初はみんな気まずいふんいきで何も言わなかった。

 原因を作ってしまったまめは、「ごめんなさい!」とみんなに頭を下げて泣きっ面になっていた。

「もう、終わったことだ! なんだ、なんだ! せっかく集まったのに、葬式じゃないんだぞ!」

 木内先生が元気づけてくれたので、やっとみんな、いつもの笑顔がもどった。

 勉強会はそれから毎日続いた。学校の勉強以外にも、まめのための受験勉強、勇次やマキの苦手なところの復習など、先生は張り切って教えてくれるので、学校の勉強よりもずっと頭に入ってきた。

 でも気になることがある。

 都 夕香が一度も顔を出していない。

「先生、都さんはどうして来ないんですか?」

 ある日、気になってマキが先生に聞くと、みんなも心配していたらしく、先生の周りに集まってきた。

「ああ、それが……。何度たずねても、おばあさんが夕香さんに会わせてくれないんだよ」

「みんなで、呼びにいこうか?」

「きっと都さんも辛い思いしているんじゃないかな?」

「そうか。そうしてくれるとありがたいな」

 先生も困っていたようだ。

 だいぶまわりの目も気にならなくなっていたので、次の日、さっそく木内先生に連れられて、四人は夕香の家をたずねてみた。


 都 夕香の家は、学校からだいぶ離れたところにあるらしい。

 いつもアカマツのところから帰っていく夕香の姿しか知らないし、自分のことについて話すこともめったにないので、四人には、はじめて夕香のことについて知る機会になった。





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